「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(34)

2013年12月25日 | 今の物語
12月最後の土曜日の昼間、ミウは久しぶりに生まれ故郷の茨城県古河市に帰ってきていた。


電車を降りると・・・高い位置にある駅から市街地が一望出来た。

「久しぶりだわ・・・この街に来るのも・・・前に一度ここへ戻ってきてから、一年半くらい経つかしら・・・」

と、ミウは言葉にした。


ミウは生まれてから大学に入学するまで、この街で暮らしていた。

「あの頃が懐かしいわね・・・家族皆でしあわせに暮らしてた時代か・・・」

と、ミウは懐かしい街並みの中を歩きながら、いろいろな事を思い出していた。

「小学校も中学校も高校も・・・わたし、学級委員やってたんだっけ・・・「いい子」やってたなあ、あの頃」

と、そんな昔を懐かしく思い出していた。


と、とある家の玄関の前に立つミウだった。


呼び鈴を鳴らし、誰か出てくるのを待つ。

玄関がガラリと開き、顔を出したのは、ミウの幼なじみで、この街の警察官でもある石田源治(32)だった。

源治は巡査長を拝命していて、責任感のある警察官だった。

「おー、ミウ、よく来た、あがれあがれ・・・というか、今日は正式なお客様だったな」

と、頭を掻きながら中へ入れてくれる源治だった。


と、源治はミウを居間に通してくれる。

「源ちゃん、お久しぶり・・・あの時以来ね・・・」

と、ミウはやわらかい表情で言葉にする。

「あれ・・・なんだか、ちょっと会わないうちに、綺麗になったな、ミウ」

と、源治は笑顔で言ってくれる。

「まあね、いい恋してるから・・・」

と、ミウは笑顔になる。

「なるほど・・・皆のマドンナ、学級委員のミウさんも、そんなお年ごろですか」

と、笑う源治。

「今、うちの奴、実家に戻ってるんだ。なんか地域のお祭りの手伝いとかって奴でさ」

と、源治。

源治の奥さんは同じ街の花屋の娘さんで、花を売ってるその娘に源治が一目惚れして二人は結ばれたのだった。

「え、それじゃあ、なんか、迷惑かけたんじゃない?そんな日に来ちゃって・・・」

と、ミウが言うと、

「いいの、いいの。結婚すると一人きりにしてあげるのも、思いやりになるからさ。あいつ、今頃せいせいした顔して、元気にやってるよ」

と、源治は大人な考えを披露する。

「それに俺も今日、あとから、行くから・・・特に問題なしさ・・・」

と、源治は笑顔で話す。

「今、おふくろ、呼んでくるから、お茶飲んで待ってて・・・」

と、源治はミウにお茶を注ぐと居間を出て行った。


小さい頃からミウが何度も来た家・・・リフォームされて、昔の面影は少なかった。


「ミウさん・・・その節はお世話になりました・・・」

と、源治の母、石田友梨恵(51)が現れる。病気回復直後だけに、痩せた感の感じられる身体だった。

「いいえ、その後、お加減はどうですか?病気になられたと聞いた時はびっくりしちゃって」

と、ミウは言葉にする。

「今回も入院中にいろいろお金まで、送ってもらって・・・本当にありがたかったです・・・片親になって、本当はわたしが頑張らなくてはいけない立場だったのに・・・」

と、友梨恵も言葉にする。

「わたしがあの時、受けた恩義にすれば・・・こんなこと、たやすいことですから・・・わたしの方があの時・・・もっともっと深い恩義を受けましたから・・・」

と、ミウは言葉にする。

「ミウの家が火事になってから、1年と5ヶ月か・・・まさに、光陰矢の如しだよな・・・」

と、源治は言葉にしながら、遠い目をしていた・・・。


1年5ヶ月前・・・ミウの実家は焼失していた。

台所から出火した火は瞬く間にミウの実家を焼き、中で寝ていたと思われるミウの母親、姫島ナツコ(55)は2階の寝室で焼死体となって発見された。


ナツコは、就寝中に火事にあったと判断された。


ミウが連絡を受けて、急いでかけつけた時に、実家は・・・建物のほとんどが焼け落ちた・・・火事の現場でしかなかった。


ミウはそこで、現場の整理をしていた源治に会い・・・源治は駆けつけてくるミウを待っていたのだった。

源治はパニックを起こしかけていたミウに冷静になるように説得した。

そして、焼死体となった、ミウの母親には会えないことを説明し、自宅に泊めてあげたのだった。


「あの時、ここで、二人で飲んだのが、運の尽きだったな」

と、源治が言う。

「あの時、つい、幼なじみのミウとひさしぶりに会えて、俺的には少しはしゃいじゃって・・・家の中が資金的に火の車だって白状しちゃったんだよな」

と、源治が言う。

「ううん。よかったわよ。すぐに火災保険が降りるはずだったし・・・あの頃のわたしがそんな多額なお金を持っていても・・・「死に金」だったもの・・・」

と、ミウは言う。

「正直、あの金は本当に助かったよ。警察だから、前借りも出来ないし、オヤジもまさか、リフォーム直後に殉職しちゃうなんて思っていなかったし・・・」

と、源治が言う。

「ミウのお父さんが亡くなる、ちょっと前だったからな・・・オヤジが殉職したの・・・で、ミウのお父さんの話で新たな話が出てきたんだ。それを今日話したかったんだ」

と、源治は言う。


ミウは源治の方を改めて見る。


「ミウ、驚くなよ・・・先日のことだ。5歳くらいの女の子を連れた30代前半くらいの奥さんが交番にやってきて、こう、告げたんだ」

と、源治はミウを正面から見ながら話している。

「一年半前の雨の日、その女の子が不用意に道路に走って出てしまった為に、それを避けようとした自動車が道路脇の壁に激突して炎上したって、その奥さんは言った」

と、源治は言葉にする。

「早速、署で調べた・・・その交通事故こそ、ミウのお父さんの車の事故だった・・・」

と、源治は言葉にする。

「だが・・・お父さんの事故は自損事故でもう片がついている・・・その娘さんだってわざとじゃない・・・なので、その話は一部の人間しか知らない話になっている」

と、源治は言葉にする。

「だから、お父さんの事故・・・あれは自殺じゃなかったんだ・・・」

と、源治は言葉にした。


ミウはあまりのことに、すぐに言葉が出なかった・・・源治をただ見つめるだけだった。


「どうした、ミウ・・・固まっているぞ」

と、源治に言われて、初めて気づけたミウだった。

「ううん・・・嬉しくて、つい・・・そう、お父さんはその少女を守るために・・・自分を犠牲にしたのね・・・そういう暖かいお父さんだった・・・お父さん・・・」

と、ミウは声を殺して泣いた・・・顔を手で覆い・・・静かに泣いた。


「ミウは大人になったら、どんな男のお嫁さんになるんだ?」

と、ミウの父、姫島ショウゾウ(40)は高校2年生のミウにそんな風に聞いた。

「そうね。お父さんみたいに女性にやさしく出来る男性がいいな。周囲の女性が自然と笑顔になっちゃうような」

と、セーラー服姿のミウは答えていた。少し遠いところにある、利根川沿いの土手まで散歩がてら、二人で歩いて行った時のことだ。


あれは確か春の日・・・ポカポカする陽気の中、利根川の流れを見ている時だった。


「あの時もお父さん、笑顔だった。お父さんの周りの女性は皆笑顔になっていた・・・やさしいお父さんだった・・・」

と、ミウは父親の面影を思い出しながら、涙を流していた・・・。


「よかったな、ミウ・・・お父さん、自殺じゃなくて・・・」

と、源治に言われて、コクリと頷くミウだった。


「ミウちゃんのお母さんのナツコさんね・・・ミウちゃんが出て行ってから、寂しそうにしていたのよ・・・」

と、石田友梨恵が言葉にする。

「なんで、ミウちゃんの母親として振る舞えなかったのかって・・・そう言ってたわ。もう、母一人子一人になったのにって・・・」

と、友梨恵は話している。

「でも、わたしは思うの。ナツコさん・・・本当に旦那さんと仲良かったから、旦那さんが向こうから呼んだんじゃないかって・・・」

と、友梨恵は話している。

「だから、ナツコさん・・・ある意味、本望だったんじゃないかって・・・わたしはそう思ってる」

と、友梨恵は話している。

「そうですね・・・確かに、父と母はそれはそれは、愛し合っていたし・・・母は絶対に父には逆らわなかったし・・・」

と、ミウは言葉にする。

「母にとって、父は自慢の旦那さんだったし、愛情は濃かったです。二人共」

と、ミウが言葉にした時・・・家族中が笑顔だった頃の記憶が蘇った。


父と母と弟と自分とで晩御飯を食べる・・・夜ごはんではテレビを消す習慣のあった姫島家では、父がたくさんのおもしろ話をしてくれた。


父と母の出会いのストーリーからデートの様子、父が大好きなカレーを作ってる様子、母がそれを待ってる様子、二人の新婚旅行などなど、

父はそれはそれはたくさんの夫婦のラブストーリーを聞かせてくれ、ミウは毎晩、弟と共に満面の笑顔で、両親のラブ・ストーリーを楽しんだものだった。


「お父さんもお母さんも本当にラブラブで・・・」


それが普通の両親の姿だと、ミウは信じて疑わなかった。それがこの街に住んでいる頃のミウの楽しい思い出だった。


「そうですよね・・・うん、きっとそうに違いない・・・きっと今頃、両親は天国でも仲良くしていますよ。うん、それがわかった。うん、よーくわかりました」

と、ミウは言葉にした。


と、友梨恵はタンスの中から、茶色い紙袋を出してくる。

「これ、1年半前にお借りした200万円・・・それと今回、わたしの病気見舞いで送ってくれた計50万円・・・合計250万円・・・お返ししますわ」

と、友梨恵は言葉にする。

「本当にありがとうございました・・・このお金がどれだけ励みになったか・・・この子が小学生の頃からミウちゃんのお世話になっていたのに、さらにこんなことまで」

と、友梨恵はお辞儀しながら、お金をミウに渡す。

「この子がグレた時も、ミウちゃんに一喝されて・・・それで心機一転、真面目に勉強するようになって、警察官目指せたのも、元はと言えば、ミウちゃんのおかげ」

と、友梨恵は言葉にする。

「本当、何から、何まで、ありがとうございました」

と、友梨恵はもう一回、今度は、深く深くお辞儀をする。

「いや、いいんですよ。幼なじみの心配をするのは、当たり前ですし、お金だって・・・」

と、ミウは言葉にする。

「実家が燃えた時、わたしを匿ってくれて、やさしくしてくれた、あの時の事を思えば・・・こんなお金、どうってことないんです。あの時の私には「死に金」だったし」

と、ミウは言葉にする。

「ってことは、今度はこのお金、「生き金」に出来るってことだな。男出来たんだろ・・・そいつとの生活に、がーんと使ってやるこったな」

と、源治が言葉にする。

「うん。源ちゃんの言うとおりだわ・・・ガーンと使って、「生き金」にするわ。ううん、してみせるわ」

と、ミウは言葉にする。

「ミウは小学生の頃から変わらないよ。相変わらず、オトコマエだ」

と、源治が言うと、ミウは笑顔になった。


つづく


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