くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

肉片(ミンチ)な彼女(30)

2016-12-07 21:19:38 | 「肉片(ミンチ)な彼...
 互いの顔が、はっきりとはうかがえない薄暗闇の中、一人が言った。と、隣に座っていた女性の一人が、心配そうに口を開いた男の腕を、やさしく抱きしめた。
「わからない」と、ポロスが言った。「だが、私達と同じゾオンの人間に間違いないだろう。弱いが、探索魔法を感じる」
「私達のことを探しているのかしら」と、壁に背中を預けて立っている女性が言った。「でも、誰が?」
「あの扉は、私達が通った後ですぐに閉まっていました。私は最後まで残っていたモリルの前にいたんだから、見間違えるはずがありません」と、ミーナが言った。
「でも確か、追いかけてきた女が一人いたはずでしょ」と、立っている女性が言った。
「はい」と、ミーナはうなずいた。「扉をくぐる直前まで、女が一人追いかけてきていました。つかんでいたモリルの足を離そうとしませんでしたが、モリルか通ってすぐに扉が閉まったので、こちらの世界には来られなかったはずです」
「――扉はどこへ行ったの」と、話をしていた全員が顔を上げた。「私達は、扉がつなげた空間を通ってきたけれど、誰も扉は持っていなかった。きっと、扉はまだ向こうにあるのよ。改めて扉を開けた連中が、逃げた私達を追いかけてきたんだわ」
「それは――」と、ミーナが考えるように言った。
「あなたが最後まで残って、扉が閉まったのを見たというなら、扉の行方も見ているはずでしょ」と、椅子に座っている女性が続けて言った。「なにか覚えていないの?」
 と、リーダーの男が言った。「扉の行方については、モリルが知っているはずだ」
「――扉が向こうにあるのなら、連中がぞろぞろ押しかけているはずです。異世界にもゾオンの思想を広めようとしているんだから、私達になんてかまわず、街の人々に自分勝手な教えを説いてまわっているはずです」と、ミーナが怒ったように言った。「あの子は、そんなヘマはしません」
「いくら学校の成績が良かったからって、やっぱりまだ学生なのよ」と、壁際で腕を組んでいる女性が言った。「期待しすぎた私達が悪かったんだわ。荷が重すぎたのね」
 ミーナが、険しい顔を女性に向けた。
「あきらめて投降しようとしていた私達を、彼女が助けてくれたのよ。モリルが最後までがんばらなけりゃ、扉は開かなかったはずよ」
「どうして、探索魔法を使うんだろうか」と、椅子に座っている男が言った。「子供でも知っている魔法を使うだなんて、我々に居場所を教えているのと同じじゃないか」
「正体はわからないが、相手も生きている扉を探しているのに違いない。あの扉がなければ、ゾオンには帰れないんだから」と、リーダーのポロスが言った。
「ゾオンに帰れなければ、捕まえられて自由を奪われたのと同じよね」と、腕組みをした女性が皮肉混じりに笑った。「あのまま、捕まっていた方が良かったのかも――」
「なんですって」

「――やめるんだ」

 女性に詰め寄ろうとしたミーナを、ポロスが止めた。

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