砂の上にクッキーのかけらを撒き散らしたような地面は、足を踏み出すたびにバランスを崩し、ズルリと滑った。別の一歩を踏み出すと、蹴り足が空回りして、体がまた反対側によろめき、なかなか思うように前へ進むことができなかった。
足下をふらつかせながら、やっとの思いで岩山にたどり着くと、サトルは大きく地面に伸びた日陰に入って、どっかりと腰を下ろした。額からも首筋からも、玉のような汗がびっしりと流れ落ちていた。服も、大きな染みになって見えるほど、大量の汗をかいていた。
日陰の中に入ると、ひんやりとうそのように涼しかった。サトルは、手足を投げ出して大の字になった。雲ひとつない空を見上げると、太陽はとうとう一番高い所に昇りきっていた。モヤモヤとくゆる陽炎が、殺風景な砂漠の中にゆらゆらと、柔らかな仕切ガラスをはめこんだように見えていた。生暖かな風が、サトルの頬をそっとなでて行った。
ググウ……と、腹が鳴った。
サトルは、手で腹をさすりながら顔を上げた。すると、砂を小さく舞い上げて、チョロチョロっとすばしこく走る生き物の姿が目に入った。
驚いたサトルは、後ろに両手をついて、あわてて上体を起こした。砂に潜った輪郭の、こんもりとした盛り上がりを見ると、トカゲのような生き物に間違いなかった。頭まで砂を被って、どうやら隠れているつもりらしかった。砂の中からギョロリと両の目だけを突きだして、興味ありげにこちらの様子をうかがっていた。それほど大きくはなかったが、しっぽの先まで入れると、小型犬ぐらいの大きさは十分ありそうだった。
サトルが近づこうとすると、臆病なトカゲは、サッと素早くカレー粉の砂の中に身を隠した。
周りの砂をよく見ると、トカゲの足跡がくっきりと残っていた。サトルが日陰に来るまで、トカゲも日陰で休んでいたようだった。
足跡は、岩山の裏側に続いていた。(何かあるのかな?)と、サトルは岩山の後ろにそっと回ってみた。岩肌の色が、黒く変わっている場所があった。緑色のコケのような草が、張りつくようにびっしりと生えていた。手で触ると、冷たい水が指先を伝って流れてきた。サトルは舌なめずりをしながら、岩肌から流れ落ちてくる水を手の平に貯めると、ゴクリと喉を鳴らして飲み干した。
「おいしい!」と、サトルは声を上げた。
サトルは、もう一度水を飲もうと、岩肌に手の平を当てた。すると、小さな赤い実が、足下にバラバラと落ちているのに気がついた。見たことのない、なにかの木の実のようだった。もしかすると、トカゲが食べていたんじゃないだろうか……。サトルは、手の平に貯まった水を一口で飲むと、その場にしゃがんで、赤い実をひと粒手に取った。
(トカゲが食べていたんなら、人が食べたって大丈夫さ )そうは思っても、なかなか口には運べなかった。しかし迷っている間にも、空っぽの胃袋がシクシクと痛み始めた。毒でない限り、何でもいいから食べてしまいたかった。サトルは思い切って、赤い実をパクリと口の中に放りこむと、目をつぶってガリッと噛みしめた。
「ウエッ――」と、サトルは口に入れた実を吐き出した。味も香りもない、チューインガムのようだった。
足下をふらつかせながら、やっとの思いで岩山にたどり着くと、サトルは大きく地面に伸びた日陰に入って、どっかりと腰を下ろした。額からも首筋からも、玉のような汗がびっしりと流れ落ちていた。服も、大きな染みになって見えるほど、大量の汗をかいていた。
日陰の中に入ると、ひんやりとうそのように涼しかった。サトルは、手足を投げ出して大の字になった。雲ひとつない空を見上げると、太陽はとうとう一番高い所に昇りきっていた。モヤモヤとくゆる陽炎が、殺風景な砂漠の中にゆらゆらと、柔らかな仕切ガラスをはめこんだように見えていた。生暖かな風が、サトルの頬をそっとなでて行った。
ググウ……と、腹が鳴った。
サトルは、手で腹をさすりながら顔を上げた。すると、砂を小さく舞い上げて、チョロチョロっとすばしこく走る生き物の姿が目に入った。
驚いたサトルは、後ろに両手をついて、あわてて上体を起こした。砂に潜った輪郭の、こんもりとした盛り上がりを見ると、トカゲのような生き物に間違いなかった。頭まで砂を被って、どうやら隠れているつもりらしかった。砂の中からギョロリと両の目だけを突きだして、興味ありげにこちらの様子をうかがっていた。それほど大きくはなかったが、しっぽの先まで入れると、小型犬ぐらいの大きさは十分ありそうだった。
サトルが近づこうとすると、臆病なトカゲは、サッと素早くカレー粉の砂の中に身を隠した。
周りの砂をよく見ると、トカゲの足跡がくっきりと残っていた。サトルが日陰に来るまで、トカゲも日陰で休んでいたようだった。
足跡は、岩山の裏側に続いていた。(何かあるのかな?)と、サトルは岩山の後ろにそっと回ってみた。岩肌の色が、黒く変わっている場所があった。緑色のコケのような草が、張りつくようにびっしりと生えていた。手で触ると、冷たい水が指先を伝って流れてきた。サトルは舌なめずりをしながら、岩肌から流れ落ちてくる水を手の平に貯めると、ゴクリと喉を鳴らして飲み干した。
「おいしい!」と、サトルは声を上げた。
サトルは、もう一度水を飲もうと、岩肌に手の平を当てた。すると、小さな赤い実が、足下にバラバラと落ちているのに気がついた。見たことのない、なにかの木の実のようだった。もしかすると、トカゲが食べていたんじゃないだろうか……。サトルは、手の平に貯まった水を一口で飲むと、その場にしゃがんで、赤い実をひと粒手に取った。
(トカゲが食べていたんなら、人が食べたって大丈夫さ )そうは思っても、なかなか口には運べなかった。しかし迷っている間にも、空っぽの胃袋がシクシクと痛み始めた。毒でない限り、何でもいいから食べてしまいたかった。サトルは思い切って、赤い実をパクリと口の中に放りこむと、目をつぶってガリッと噛みしめた。
「ウエッ――」と、サトルは口に入れた実を吐き出した。味も香りもない、チューインガムのようだった。