長男は新学期の開始が5月の連休後になったというので、仙台の妻の実家にいてボランティアをしている。お年寄りの家で重いものを担いだり救援物資の詰め込みなどをしているらしい。妻の実家は高台にあるので津波の影響はなかったが家のなかはめちゃくちゃになったらしい。しばらくはライフラインが全滅で水も食料も不自由したらしいが、義母は戦時中に比べたらこれぐらいどうってことないと落ち込んだ様子はこれっぽっちもない。最近健康だけでなく気持ちの衰えが目立っていたが、気力が戻ってきたようにさえ感じる。身内が犠牲になったらそうはいかないと思うが、そこそこの試練は気力を充実させる効果があるのかもしれない。計画停電ぐらいに文句を言ってはいけないということだ。
震源から400kmも離れた浦安では液状化が発生し、ライフラインがことごとくやられディズニーランドはまだ再開できずにいる。地震の際に撮影された津波の投稿ビデオの中に、浦安周辺の液状化も観ることができる。地割れして水が噴き出したり、浮力で家がぷかぷか上下したり歩道と車道が左右にずれて行ったり来たり。マンホールが2m以上も飛び出した写真や傾いた交番の写真もあった。砂で埋め立てた土地は液状化に弱いのはわかっていたが、まさか震源から400kmも離れた場所で液状化が起こるとは。埼玉や茨城でも沼地を埋立てた造成団地で液状化が発生したという。
さて、当方は5年ぶりにシンガポール駐在が始まった。地震のないシンガポールで地震酔いが直ることを期待している。下のUSGSの地図でもわかるように、シンガポール周辺に地震は発生せず、震源はスマトラの南のプレートが沈み込むSubduction zoneに集中している。シンガポールは震源から数百キロも離れ大きな地震があっても振動は極めて微弱になると考えられているので、耐震設計は必要ないとされている。想定される地震水平力より設計風荷重のほうが大きいのである。よく地図を見るとシンガポールの真南、東日本震災の震源と東京間の距離と同じ400kmの付近に赤い大きな地震(M8以上)マークがあるじゃないか。500km以上深いところで発生している(赤色)のでシンガポールでの振動は微弱だったのだろう。福島の原発事故について東電は、想定外の地震による想定外の津波で事故が起こったと強調しすぎたことで批判されていたが、自然は人知の及ばないほど偉大なのである。津波の映像を見るたびに思い知らされる。ただ、何人もの学者が貞観(869年)の大津波の記録と痕跡から大津波を警告していたので想定外とは言えない。として非難されているのだ。
今、プレートテクトニクスを信じない人は皆無に近いと思われるが、30数年前私が学生の頃は、100年前にウェゲナーの提唱した大陸移動説がやっと陽の目を見始めたころで、プレートテクトニクスを否定する大学の先生はまだまだ大勢いた。自分たちの棲む大地の仕組みがまったく変わってしまうほどのコペルニクス的転回が起こったのはわずか30年前のことだったのである。人知を超えたことはいくらでも起こりうるのである。列子は杞憂で、天が落ちてくるかこないか、大地が割れるか割れないか人間にわかるはずはない。そんなことが起こったらあきらめて受け入れるしかない。と言う。楽観的なのか悲観的なのかわからないが、運命論である。
機中で、古いイギリス映画”日の名残り(The Remains of the Day)”を観た。想定外によかった。星五つの映画を次回詳しく語りたい。