少年法適用年齢を引き下げるべきか

2015-12-11 15:35:33 | 少年法

本年11月2日より、法務省(刑事局、矯正局、保護局)は「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」を実施している。選挙権年齢が18歳からに引き下げられることに対応し(平成28年6月19日施行)、少年法適用年齢も18歳未満までと引き下げる必要がないか、という議論が背景にある。

日弁連は引き下げに反対している。公表されているパンフレットはよくまとまっている。

 

[少年非行の現状]

・少年による一般刑法犯の検挙人員。昭和26(1951)年をピークとする第1の波。職のない18-19歳の少年による生活必需品を得るための窃盗や強盗が目立つ。

・昭和39(1964)年をピークとする第2の波。粗暴犯や性犯罪の急増。16−17歳や14−15歳の割合が高まる。

・昭和58(1983)年をピークとする第3の波。検挙人員は戦後最高の30万人超。万引き、自転車盗、シンナー吸引等の「遊び型非行」が中心。

・第3の波以降、平成7(1995)年まで検挙人員はほぼ一貫して減少。平成8(1996)〜平成10(1998)年の間、検挙人員と人口比は再び増加する。平成11(1999)年からは減少と増加が繰り返され、平成15年から11年連続して減少。

・殺人は、(平成10年からの数年間の増加を別にすれば)昭和40年頃からずっと減少している。他方、強盗は平成10年頃に増加している。河合幹雄は警察統計の計上の問題にすぎないというものの、粗暴犯の数と合わせればやはり実数自体が増加したとの見解もある。もっとも、強盗は平成15年から激減している。いずれにせよ「少年犯罪の凶悪化」とのイメージは、データの裏付けがない。この限りでは、年齢引き下げの立法事実はない、と言えるだろう。

・もし「少年犯罪が増えている・凶悪化しているとの不安感をもつ人が増えている」というならば、報道のあり方が一因ではないか。

 

[少年事件の処理]

・少年審判手続では、家裁調査官や(観護措置が取られていれば)鑑別技官の関与がある。ここでは心理学的アプロウチから、当該少年の生育歴や心身の状況が調査される。付添人として鑑別結果・調査票を読むと、こちらが把握できていない情報も多数聴き取られている(自らの聴取を反省する。)。他方で刑事手続だと、このようなフォロー・ケアはまずない。そもそも不起訴となって裁判所に事件が送られないケースもある(※もっとも、簡易送致+審判不開始であれば、警察レベルでの打ち切りに等しいが)。

・現行少年法でも、家裁から地裁への逆送ルートが設けられている。仮に「刑事処分にふさわしい少年事件もある」との前提に立っても、現行法で対応可能。

 

[見解]

横山実曰く、刑事法研究者の中で引き下げ賛成論を述べるのは藤本哲也のみ、とのこと。

警視庁(生活安全課)も、勉強会において「これまで支援対象としていた18歳・19歳(高校生含む)の立ち直り支援の機会がなくなる」との資料を提出している。議事録はまだ公開されていないが、年齢引き下げに反対していることは明らかだろう。

・実際に付添人(または逆送事件の弁護人)として関与すると、自分の考えが変わってくる。素朴な応報論ではどうしようもなく、本人や特別予防は不可欠である(少年の更生に一定程度コストをかけることは、無関係な第三者にとっても有益だろう。)。とすると、刑罰一辺倒でどれほどの意味があるのか。少年事件に複数回関与した実感として、非行少年の相当は家庭環境に恵まれていない。非行のすべてを彼彼女らの責めにはできない、と思うようになった。年齢引き下げには反対する。

 

引用文献のほか、川出敏裕・金光旭『刑事政策』[2012]pp321-360

 

追記(2016-02-22):第2回議事録p28に警視庁生活安全部少年育成課長森修一氏の発言がある;「...半分ぐらいいる18歳,19歳というのは, 就職をしたいという気持ちも生まれてくる中で,その人たちに指導,支援ができないとい うのが非常にデメリットになるのかなと」

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