年齢切迫少年の処遇

2018-10-11 19:07:45 | 少年法

【例題】Aの生年月日は平成10年9月28日である。Aは、平成30年6月1日夜間に無人店舗内へ侵入して現金10万円を窃取したところ、平成30年9月1日、この侵入盗の被疑事実で逮捕された。

 

[行為時主義と処分時主義]

・刑法は「過去の行為への責任を問う」から、行為時主義が採用されている。もっとも、少年法にも例外的に行為時主義を採る例がある。□コンメ46-47〔守屋克彦〕、コンメ83-5〔正木祐史〕

→行為時主義の実例:刑事責任年齢(行為時点の14歳;刑法41条)、故意死亡事案の原則逆送(行為時点の16歳;少年法20条2項)、死刑無期刑の緩和(行為時点の18歳;少年法51条)、人の資格に関する法令の適用(行為時点の20歳;少年法60条)、記事等の掲載の禁止(行為時点の20歳;少年法61条)

・他方、少年法は「現在の要保護性」を問うものだから処分時主義を採る。すなわち、家庭裁判所における少年審判の対象となるべき者は、行為時点に20歳未満であることは当然として、調査や審判を通じたすべての段階で20歳未満でなければならない(典型的な現れが年齢超過逆送規定;少年法19条2項)。この結果、いつの(何歳の)時点で立件されるかにより、その処遇(少年審判/刑事裁判の別、少年の刑事裁判の特典)が変わってしまうという帰結を生む。□講義案30、コンメ46-47〔守屋克彦〕、コンメ83-5〔正木祐史〕

→処分時主義の例:検察官による家裁への事件送致(処分時点の20歳;少年法42条)、少年審判の全手続を通じた審判条件(処分時点の20歳)、刑事裁判における不定期刑の宣告(処分時点の20歳;少年法52条)、刑事裁判における55条移送(処分時点の20歳;少年法55条)

・原決定(保護処分)に対する抗告を行ったところ、抗告中に20歳に達した場合はどうか。「抗告審=事後審」との理解からは、少年か否かの判断は原決定の時点が基準とされ、抗告審の決定や告知時点の年齢は問題とならない、と解されている(最一決昭和32・6・12刑集11巻6号1657頁)。□注釈37-8

・実務上、年齢の確認には、戸籍や住民票、在留カード、パスポートの記載が参照される。□注釈36

 

[年齢切迫事件]

・検察官による家裁送致も「送致時点における20歳」が基準となる(少年法42条)。ここから、「捜査の遅延により家裁送致前に20歳に達してしまった者の公訴提起の適否」が問題になるが、公訴提起が無効とされることは極例外的(最二判昭和44・12・5刑集23巻12号1583頁)。□コンメ516〔山﨑俊恵〕

・少年法は「調査段階→審判段階」と区分した審判前調査の建前を採っている(少年法21条)。もっとも、特に身柄事件の実務においては、次の流れが多いか;□講義案171-2,129、コンメ156-63〔加藤学〕、コンメ269-70〔守屋克彦〕

[1]事件受理当日や数日中に家庭裁判所(要は裁判官)が法的調査を行う(少年法8条1項参照)。

[2-1]家庭裁判所が非行事実の蓋然性を認めると、調査官に調査命令を発する(少年法8条2項)。

[2-2]調査命令の発令と同時に、その終了を待たずして審判開始決定をし、審判期日の指定や呼出しを行う(少年法21条)。

[3]少年の同行当日(≒事件送致当日)に観護措置をとるか否かの判断をする(少年法17条2項参照)。

・家裁実務では、法律記録の表紙に「年齢切迫」「年迫」との赤いゴム印を押して注意喚起をしている。家裁送致後に20歳に達していることが判明すれば、機械的に検察官送致が行われる(調査段階につき少年法19条2項、審判段階につき23条2項)。また、調査を行う時間が足りない場合にも、20歳を待たずして検察官送致とされることもある(根拠規定は少年法20条1項一般)。□ビギナーズ155、コンメ240〔斉藤豊治〕

・立法論として「年迫少年への審判権留保」が主張されている。□コンメ83-5〔正木祐史〕、コンメ240〔斉藤豊治〕

・なお、行為時に少年だった者が有罪判決を受けた場合、検察事務官作成の前科調書には、その備考欄に「犯行時少年(犯時●歳)」と記載される。□横井調べ

 

裁判所職員総合研修所監修『少年法実務講義案〔再訂版〕』[2009]

『少年事件ビギナーズ』[2011]

守屋克彦・斉藤豊治編集代表『コンメンタール少年法』[2012]

田宮裕・廣瀬健二編『注釈少年法〔第4版〕』[2017]

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