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サウジアラビアの高速鉄道その2 ~「ハラマイン高速鉄道」は開業を延期~

2016年09月13日 | 鉄道・リニア新幹線・航空機

サウジアラビアの高速鉄道その1~サウジアラビアを「タルゴ」が走る~の続きです。

 

ハラマイン高速鉄道の線路を「タルゴ」が試運転するビデオを見た感想は、新しい設備や新しい列車は素晴らしいですね。ただし、線路の周囲は土のような茶色い砂漠が広がっていますが、飛砂対策は特に無いようです。この付近は飛砂が少ないのでしょうか。

 

その「ハラマイン高速鉄道」について。

サウジアラビア東部の聖地メッカと交通の要衝ジェッダ、そして聖地メジナを結ぶ高速鉄道が計画されました。内陸部のイスラムの最大の聖地メッカ(最近はマッカと言うらしい)から、海岸部のジェッダを通り、さらに内陸部のイスラムの聖地メジナ(最近はマディーナと言うらしい)を結ぶ約450㌔メートルの路線が「ハラマイン高速鉄道」です。

 

サウジアラビア最大の聖地メッカを巡礼するには、海岸部のジェッダの港やジェッダ近郊にある国際空港が起点です。ここから約90㌔メートル離れている内陸部の聖地メッカへは、鉄道などの大量輸送機関が無いので、バスや自動車を利用することになる。

 

そこで、ジェッダからのアクセスを改善するために、メッカ⇔ジェッダ⇔国際空港⇔メジナを結ぶ「ハラマイン高速鉄道」が計画されたわけです。それぞれの駅間は、

メッカ←78㌔メートル→ジェッダ←12㌔メートル→国際空港←360㌔メートル→メジナ

で、メッカ―ジェッダ間は複線、ジェッダ―メジナ間はほとんどが単線(らしい?)です。最高速度は時速320㌔メートルで、メッカ―ジェッダ間は約30分、メッカ―メジナ間は2時間半(2時間と書いた資料もある)です。工事は2009年に着手して本来は2013年(2014年と書いた資料もある)に完成する予定でした。

  (下記の地図の線路は正確ではありません。おおよそです)

 

 また、巡礼者で混雑するメッカ市内には公共交通機関が無かったのですが、2010年に高架鉄道メッカ・メトロ(モノレールとも書いていますが、いわゆるモノレールではありません。高架を走る普通の電車です)が開通しました。これは、中国鉄建、フランス企業、サウジアラビア企業のコンソーシアムが受注したもので、車両は中国製です。そしてメッカ・メトロは、さらに4路線が開通する予定です。しかし、中国鉄建は、サウジアラビア政府の度重なる仕様変更のため約500億円の費用が余計に掛かったのですが、サウジアラビア政府は払ってくれないので、現在交渉中です。アラブ人対中国人、中国を相手に工事費用を踏み倒す(と決まったわけではありませんが)アラブ人はスゴイ!

 

2009年からのハラマイン高速鉄道第一期工事(土木工事)は中国鉄建、フランス企業、サウジアラビア企業のコンソーシアムが受注しました。この第一期工事(土木工事)では、トンネルや橋、排水路の建設、線路の路盤の整地、そして駅の建設を行い、第二期工事で線路の敷設、信号システムや電気系統の設置、車両の製造を行っています。

 

「ハラマイン高速鉄道」の鉄道システムと車両は、フランスの企業が受注することが有力視されていましたが、スペイン王室の積極的な後押しや、提示した金額がフランス勢より安かったこともあり、スペインの12社とサウジアラビアの2社で作るコンソーシアムの受注が決まりました。

 

ところが最近、「ハラマイン高速鉄道」の開業が2017年1月から2018年第一四半期に延期となりました。そもそもは2013年(2014年?)の開業予定でした。開業延期の理由は、追加工事やその費用の未払い、そして飛砂対策の不備などが挙げられていますが、実情が複雑でトラブルが多く、これ以外にも延期の原因がありそうです。スペインの12社とサウジアラビアの2社で作るコンソーシアム内部の不協和音(というか、ほとんど殴り合っています)も原因でしょう。

 

延期の原因として、サウジアラビアは飛砂対策が不十分なことをあげていますが、サウジアラビアの高速鉄道と聞くと、砂対策が重要なことは素人でも第一に思いつくのに、完成間近になっても十分な対策が取られていないなんて、サウジアラビアもコンソーシアムも杜撰としか言いようがない。本来は第一期工事の土木工事が始まる前に、飛砂の調査と対策が出ていないと土木工事が進められない。場所によって飛砂が多いところもあるし、少ないところもあるので、どの部分にどのような工事をするのかは、費用の点からも重要なはず。場合によっては、経路を変更する必要があるかも知れない。

 

私の思いつく飛砂対策は、トンネルとか、線路をプラスティックやコンクリート製の半円形のシールドで覆うとか、高架にするとか、しか思いつかないが、いずれも費用が大幅にアップする。

 

飛砂対策として、5メートルのコンクリート製の防御壁を設けるとか、線路基盤をコンクリート製にするとか、飛砂の堆積を検知するセンサーを設置するとかを考えていたが、機能しないことが分かったと書いている資料もあります。しかし、特に飛砂が多い場所とはいえ、高さ5メートルのコンクリート製の防御壁(刑務所の塀の高さくらいかな?)が役に立たないとは、どういう事? そんな飛砂の多い場所に線路を敷設するべきではないけど、それがわかった時点で工事が進んでいたのでしょう。また、線路基盤をコンクリート製にするだけで、飛砂対策になるのかな? まあ、バラストより掃除するのは楽だけど、そんなことで対策になる砂の量なのかな? なんか合点の行かない話が多く、実情は良くわかりません。

 

今からできる暫定的な対策は、ブラシを付けた電気機関車が高速列車の合間に線路上の砂を掻き出すくらいでしょうか。こんな対策で済めば良いのですが、もっと大量に砂が飛んで来たら対応出来ない。契約では、コンソーシアム12社のうちの3社(3社なのかコンソーシアム全体なのか、資料によって違う)が鉄道完成後12年間の運営とメンテナンス(当然、飛砂対策も含まれる)を行うことになっています。こういうこともコンソーシアムのメンバー間で揉める原因のようです。

 

ある資料には、事前の調査をしっかりやればよかったが、事前調査をしても受注するとは限らないので、事前調査はおざなりなことが多いと書いてありました。なるほど、インドネシアの高速鉄道のように、日本側が作った事前調査資料が中国側に流れるようなこともあるからね。

 

しかし、サウジアラビアに高速鉄道を走らせると言うのは初めてなので、発注の前に事前調査をやって対策も出しておくのが普通だと思います。企業あるいはコンソーシアムは、受注が決まってから対策を考えるようでは時間が無い。こういう事前調査と対策をサウジアラビア政府がやる能力は(多分)無いので、コンサルタント企業を使うことになる。資料を見るとサウジアラビア政府はコンサルタント企業とも契約していますが、機能していないのか、あるいは金をケチって飛砂対策は入札する企業に丸投げしていたのかも?

 

詳しい経緯がわからないので一概に言えませんが、サウジアラビア政府もコンソーシアムも(現場の技術者は別にして)技術的な問題を軽視していたとしか思えない。

 

ここまでが、「ハラマイン高速鉄道」の開業延期やその原因に関する話でした。いかにも、経済(経営?)の教科書に載っていそうな、教訓たっぷりな、突っ込みどころ満載の失敗ストーリーです。

 

ここで今までの前提をひっくり返すようなことを書いて申し訳ないが、サウジアラビアの聖地メッカとジェッダの国際空港間はたかだか90㌔メートル(品川-熱海間くらい)。これくらいの距離なら高速鉄道は必要なく、普通の鉄道を高速化すればたかだか1時間くらいで到着する。それに初めからメッカ市内の高架鉄道メッカ・メトロに直通運転する計画にしておけば、乗り換えの必要が無いので便利だし、高速鉄道の終点のメッカ駅の混雑緩和にも役立つ。今更言ってもしゃあないけど。この場合でも飛砂対策は必要ですが。

 

アルジェリアの高速道路工事で、日本のゼネコンは1000億円の未払いというトラブルを抱えています。中国もメッカ・メトロで500億円が未払いだし、ハラマイン高速鉄道でも期限の過ぎた未払い金があったり、既に予算をオーバーしたりしている。しかも最近の原油価格の下落もあって、サウジアラビア政府が支払うかどうかあやしい。(工事代金の支払いと原油価格の下落は関係ないはずですが)日本や中国と異なり、アラブを良く知り、こういう経験もありそうなスペインでもこんなことになるとは!

 

ある人が書いていましたが、日本人が中国人と商売すると、大体負ける。ところが、その中国人は韓国人にはやられる(ほとんどは夜逃げ)そうです。じゃあ、アラブ人対韓国人は? UAE(アラブ首長国連邦)の原発は韓国企業が受注して現在工事中です。そのうち追加工事やその費用の未払いの問題が起こらないはずは無い。その時どうなるか、興味津々です。まさか、原発を置いて夜逃げ? 話が脱線してしまいました。

 

同志社大学のムスリムの先生が、イスラムは何事も「アッラーの思し召し」(「なるようにしかならん」と言うことだと思います)という考え方なので、自殺の無い人たちだと言っていました。しかし、ハラマイン高速鉄道のトラブルは「アッラーの思し召し」では済まないんでしょうね。「アッラー」と言う通り異教徒には効力が及ばないのか、金が絡むと効力が無くなっちゃう? 中国人相手に借金を踏み倒す商才?がある人というか、金にうるさい人たちが、「利子を取っちゃダメ!」という教義を守れる訳がない。表向きは利子無しでも、実質利子をとる回避策を原理主義者が認めるのなら、他の教義でも回避策があるはず。また話が脱線してしまいました。

 

ついでに言うと、メッカに異教徒は入れないので、「ハラマイン高速鉄道」が営業を始めても異教徒が乗れるかどうか、わかりません。

 

2016.09.13

 

下記のブログも参照してください。

サウジアラビアのハラマイン高速鉄道の駅で大火

スペイン前国王がサウジアラビアのハラマイン高速鉄道で収賄の容

 

 

 


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