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精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す。

2012-01-21 | 日記
Q12 精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す。

 精神疾患を発症して欠勤を繰り返す社員の対応としては,まずは専門医に受診させて,専門医の助言を求め,専門医の助言を参考にして,対応を検討することが重要です。
 本人が提出した主治医の診断書の内容に疑問があるような場合であっても,専門医の診断を軽視することはできませせん。
 主治医への面談(本人の同意が必要です。)を求めて診断内容の信用性をチェックしたり,精神疾患に関し専門的知識経験を有する産業医等への診断を求めたりして,病状を確認することになります。

 業務により精神障害が悪化することがないよう配慮する必要もあります。
 精神疾患を発症していることを知りながらそのまま勤務を継続させ,その結果,業務に起因して症状を悪化させた場合は,労災となり,会社が安全配慮義務違反を問われて損害賠償義務を負うことになりかねません。
 社員が精神疾患の罹患していることが分かったら,それに応じた対応が必要であり,本人が就労を希望していたとしても,漫然と放置してはいけません。

 所定労働時間内の通常業務であれば問題なく行える程度の症状である場合は,時間外労働や出張等,負担の重い業務を免除する等して対処すれば足りるでしょう。
 しかし,長期間にわたって所定労働時間の勤務さえできない場合は,原則として,休職制度がある場合は休職を検討し,休職制度がない場合は普通解雇を検討せざるを得ません。

 私傷病に関する休職制度は,普通解雇を猶予する趣旨の制度であり,必ずしも休職制度を設けて就業規則に規定しなければならないわけではありません。
 休職制度を設けずに,私傷病に罹患して働けなくなった社員にはいったん退職してもらい,私傷病が治癒したら再就職を認めるといった運用も考えられます。

 精神障害を発症した社員が出社と欠勤を繰り返したような場合であっても休職させることができるように,例えば,「精神の疾患により,労務の提供が困難なとき。」等を休職事由として,一定期間の欠勤を休職の要件から外すか,一定期間の欠勤を休職の要件としつつ,「欠勤の中断期間が30日未満の場合は,前後の欠勤期間を通算し,連続しているものとみなす。」等の通算規定を置くかしておくべきでしょう。
 再度,長期間の欠勤がなければ,休職命令を出せないような規定を置くべきではありません。

 休職制度があるにもかかわらずいきなり解雇するのは,通常は解雇が無効と判断されるリスクが高いので,お勧めできません。
 解雇が有効と認められるのは,休職させても回復の見込みが客観的に乏しい場合に限られます。
 医学的根拠もなく,主観的に休職させても回復しないだろうと思い込み,精神疾患に罹患した社員を休職させずに解雇した場合,解雇が無効と判断されるリスクが高くなります。

 本人が休職を希望している場合は,休職申請書を提出させてから,休職命令を出すことになります。
 休職申請書を提出させることにより,休職命令の有効性が争われるリスクが低くなります。

 「合意」により休職させる場合は,休職期間(どれだけの期間が経過すれば退職扱いになるのか。)についても合意しておく必要があります。
 通常,就業規則に規定されている休職期間は,休職「命令」による休職に関する規定であり,合意休職に関する規定ではありません。
 原則どおり,本人から休職申請書を提出させた上で,休職「命令」を出すのが,簡明なのではないでしょうか。

 精神疾患が治癒しないまま休職期間が満了すると退職という重大な法的効果が発生することになりますので,休職命令発令時に,何年の何月何日までに精神疾患が治癒せず,労務提供ができなければ退職扱いとなるのか通知するとともに,休職期間満了前の時期にも,再度,休職期間満了日や精神疾患が治癒しないまま休職期間が満了すれば退職扱いとなる旨通知すべきでしょう。

 休職と復職を繰り返す社員に対する対策としては,復職後間もない時期(復職後6か月以内等)に休職した場合には,休職期間を通算する(休職期間を残存期間とする)等の規定を置くことが考えられます。
 そのような規定がない場合は,普通解雇を検討せざるを得ませんが,有効性が争われるリスクが高くなります。

 復職の可否は,
① 休職期間満了時までに
② 休職前の職務を通常どおりに行えるか否か
により判断されるのが原則ですが,例外的な事案もあり,判断が難しいことがあります。

 ①の例外ですが,休職期間満了時までに精神疾患が治癒せず,休職期間満了時には不完全な労務提供しかできなかったとしても,間もない時期に完全な労務提供ができる程度に精神疾患が改善する可能性がある場合は,休職期間満了により退職扱いとするか否かについて慎重な判断が必要となります(エール・フランス事件東京地裁昭和59年1月27日判決)。

 ②の例外ですが,職種や業務内容を特定せずに労働契約が締結されている場合は,現に就業を命じた業務について労務の提供が十分にできないとしても,当該社員が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供ができ,かつ,本人がその労務の提供を申し出ているのであれば,債務の本旨に従った履行の提供があると評価されることになります(片山組事件最高裁第一小法廷平成10年4月9日判決)。
 労務提供があると評価された場合,欠勤扱いにしたり,休職させたり,休職期間満了により退職扱いにしたり,解雇したりしたとしても,これらの扱いは無効となり,会社は賃金の支払義務を免れません。

 休職制度の運用は,公平・平等に行うことが重要です。
 勤続年数等により異なる扱いをする場合は,予め就業規則に規定しておく必要があります。
 休職命令の発令,休職期間の延長等に関し,同じような立場にある社員の扱いを異にした場合,紛争になりやすく,敗訴リスクも高まる傾向にあります。

弁護士 藤田 進太郎

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