演劇知

劇的考察譚

1修了公演「新浦安」とは

2016-03-16 11:55:44 | Weblog


先に「コミックエディット」の構想が出来ていた。はてこちらの16人はどうしようかと思った時に、完全オリジナルの「コミックエディット」に対して、わたしが拙いながらもこれまで劇作してきた作品をリメークしてみようと思い立った。前のブログにも書いたが今公演は並々ならぬ想いがあるのだ。コンセプトを明確にし、やりたいことは全てやっておかないと…何かあった時に後悔するのはもう嫌なのだ。


この年代に適し、且つ人数を豊富に使え、且つわたしが今やりたいこと…以上を考えた時「lab~再開発~」に行き当たった。
この「lab~再開発~」、2010年に上演した計15本からなるオムニバスで、全ての作品の舞台が新浦安となっている。その後の作風の原型となっており、とにかく愛して止まない作品群なのである。

15本全てを読み返してその幼さ(なんせ6年前)と情熱(今とはまた違ったギラギラ感)を思い出し、是非この作品にこの子達を巻き込みたいと思った。

こちらのチームのやりたい役柄要望、「コミックエディット」チームよりも縛りが緩かったため、キャラありきではなく作品ありきで15本の中から選ぶことが出来た。結果15本の中から2作品…コメディ路線の「明海大学テニスコートの話」とシリアス路線の「総合公園湾岸沿いの話」…を選び、更に今回のために書き下ろした「神の御子とバスジャックの話」という三本でいくこととなる。

リメークに際してはプロットは2010年版のまま、台詞は現在の感覚、演者達の個性に合わせ殆ど書き直した。その過程でジェネレーションギャップを感じたことが二つ。一つ目は「シャラポワもやるバギーホイップショット」という台詞。当時はシャラポワの全盛期であったが今はドーピング発覚で引退云々の話が出ている。六年という月日を感じた一節だ。二つ目は「諦めて。でも人生は諦めないで」という台詞。当時はわたし渾身の台詞であったが、今の子達に言わせると真矢みきらしい。なんか悔しい。

「神の御子とバスジャックの話」は書き下ろしと言いつつも2011年の「lab~亀井戸~」と2015年の「lab~六識~」からインスパイアされた作品。とにかくこれまでの作品を総動員した内容となった。本気で全力だ。


こちらの上演は設備整った舞台で出来なかったため、これまでわたしが少しずつ密かに溜めてきた照明機材と小劇場で使うレベルの音響機材を持ち込み、大人の財力を最大限駆使した公演となった。舞台とはまた違った趣きが出たのではないだろうか…まぁ舞台で出来るのが一番なのだが…


以下各役について思ったこと。

○沢松
どこにでもいそう、普通なんだがどこか可愛く、愛らしく見える。今回の役者の中でも彼女にしか出来ない役であると思った。物語終盤、意を決してコートに入る直前の戸惑い演技が良い。

○瀬間
沢松を引っ張っていく先輩ポジション。彼女の演技は観る者にグイグイと迫ってくる。圧力ある。各シーンの「間」を良く考えていてくれたなぁと思う。

○伊達
普段は「受信」の演技に重きをおいてもらっていたので、今公演では全力で「発信」の演技に傾倒していただく。期待以上。観る人間を引きつける力が彼女にはある。

○杉山
曲者。以前から思っていたが正統派も出来るのにあえて曲者ポジションを好むのはセンスのある証拠。顔芸というよりも魅せ方が上手い。「しうねっこ」シーンはまだまだいけた。

○浅越
普段の演技がどこかミステリアスで高圧的な印象(良い意味でね!)を持っていたため、この役は抜群にハマっていた。が、だからこそもっと彼女の別の魅力を引き出したかったなぁと後悔。

○神尾
器用なのですよ。以前に演じていただいた飛び道具ポジションも今回の清楚ポジションもなんでも出来てしまう。だからこそ、身体能力、ジャックナイフもきちんと出来て欲しかったなぁ~

○港
繊細な演技が出来る子。2010年の港とはまた違った味わい。後述の花とのコンビネーションを考えた時に、この子の演技の方が今の感覚に近いのかなぁとも思った。大丈夫、自信持って良いよ。

○花
きちんと「ヒロイン」が出来る子。実はいそうでなかなかいないのだ。犬掻きに苦しんでいたようだがきちんとヒロイン犬掻き出来ていましたよ。この手の役はお手の物だ。

○海斗
初立ち稽古では少年設定をぶち破りとても大人びたテイストであったが、チームの皆と稽古する中でどんどん役にはまっていった。今公演一番の成長株であり、チームでの稽古ってやはり大事なんだなぁと思い知らせてくれた子。

○ジョン
2010年版ではただのおっさんキャラであったが彼女のやりたいことによりイケメンキャラに変貌。花、海斗とのバランスが良かったなぁ。黒コート髪一つ結びがまぁイケメン。

○ラブ
確か2010年も「レディー・ガガ」を意識して書いたキャラ。今回の彼女の要望も「レディー・ガガ」。運命としかいいようがない。急に「ポールダンスして」という無茶振り、ごめんね。でもこれが普段のわたしなのだよ。

○猫実
過去の拙作「lab~新浦安~」「lab~雨月~」に登場した郵便局員。今回の彼女の希望「クレイジー」に合わせ配役。わたしが書いていて一番楽しい役。厳しくリクエストしたのも成長して欲しいから。まだまだいけるぞ。頑張れ頑張れ。

○塩浜
「lab~亀井戸~」に出てきたバスジャック犯。普段の豪快で爽快な彼女の演技を少しでも変えたく、ナイーブで卑屈な役を設定。チームの皆との稽古で着実に変わっていく様は観ていて感動。

○栗林
わたしの作品の主題「神の御子」の幹部。唯一の男子であり、その能力を活かしたダイナミックで怪我を恐れぬ笑い転げの演技は実に見事。小難しい長台詞をよくぞ覚えてくれた。本当に感謝。

○百瀬
やりたい役「林家パー子」は本当にどうしよかと悩んだが、笑う爆弾魔は皆もわたしも納得のキャラクターとなった。「神の御子」シリーズは人が神の領域に挑む内容なのだが、今回の「神の御子分派微笑み」誕生はパー子あってのもの。スイッチ押す瞬間の足をクイっとした立ち姿、好き。

○枇杷島
やりたい役「メンヘラ」がわたしの中で消化しきれず、厨二+ネット中毒+恨みがましいという最強のモンスターが産まれる。「ググれカス」は今公演で一番好きな台詞。笑いしっかり取れた。ラストシーン、音ミスっちゃってごめんね。



人数少なく(といっても16人)時間も取れたので「コミックエディット」とは異なる稽古に。「コミックエディット」は役者のキャラクター、テンポ重視に対し、「新浦安」は役の綿密なプランと客観性を重視。実際にはどちらを重視ということではなく、どちらも意識しなければならない。役は戯曲の中で生きており、役者はその役を生きるものである。目立ちたいという自分本位な演技は役に忠実ではなく役と芝居を裏切る。しかしその一方で脚本そのままを忠実に再現する芝居もまた人として「そこに居る」役者を殺すこととなり結果芝居と観客を裏切る。脚本上でも観客の眼前に立つ己自身としても「生きる」演技が出来てこそ、初めて観客に提供出来る芝居になる…と思うのである。

設備状況あったが、それ含めでも今公演も充分料金取れるものになったと思う。皆凄いぞ。




一年を通し時間が足りないと切に思ったのは今年が初めて。本当に良い経験となった。そしてこの公演を通しピンッとくるものがあった。それはまた今後の話だ。



振り返り終了。んー実に良い時間を過ごせたと改めて思う。少し寂しいぞ。

1修了公演「コミックエディット」とは

2016-03-15 10:32:48 | Weblog


26人という過去最多の人数をどう捌くか、が最大のポイント。しかし「己がやりたいこと、役柄」を全員に聞いたために作品の方向性が見えない五里霧中状態に。

そりゃ

「真面目なバレエダンサー」
「へたれなボス」
「薬で綺麗になったけど実は婆」
「女装男子」
座敷童子

と挙げられた日にゃ一体どんな芝居を書けばいいのやら…しかもこれが26人分…だが今回はかつての1修了とは明らかに違うという並々ならぬ想いがある。無い知恵とこれまでの経験値を絞りに絞りプロットを思案。結果四グループに分け漫画三作品とそれを扱う漫画家チームという構成を思いつく。

そしてそれだけだと芸が無く面白みも無いので…各作品の台詞に出てくる同音異語の単語がシャッフルされ物語が混沌としていく…という要素を足したのだが、同音異語を台詞で説明することが思いの外難しくこれは視覚的に表現した方が良いと反省。数多くの同音異語を配置し矢継ぎ早にドタバタしてもらう予定であったが、時間の関係で「勝者」「商社」「照射」の「ショウシャ」のみとなった。「ショウシャ」だけでも無茶苦茶な展開になってしまったのでこれに他を加えていたら一体どうなっていたことか…と恐々。ちなみ他には「キル」「ハイシャ」「シカク」「セントウ」と候補沢山。物語がどうなっていくのか検討もつかない。

漫画三作品、実は始め「インディアンポーカー殺人」「スクラップ工場ミステリー」「皇室歯医者」の三作品を考えたが話が全く進まずすぐに全ボツ。なんだよな、皇室歯医者って…更に練ること数週間、皆のやりたいことを考慮し、かつわたし自身のやりたい設定、やって欲しい役柄を改めて見つめなおした結果、ソリッドシチュエーションスリラー作品の椅子取りゲーム、ファンタジー作品の妖怪探偵、熱血スポコンの文化部バトルという設定となった。結果どの作品も最後にはコメディになってしまったのだが…

以下各役について思ったこと。

○ニャン子先生
衣装、佇まい、台詞の吐き方、その全てがニャン子先生としてそこにいた。目を引く。

○住谷
是非クールキャラをしていただきたかった。原稿のマイムが上手い。

○定岡
おっとりしているけどズゲズゲと悪態ついていただきたかった。イメージ通り。

○毛利
コミカルおじさんキャラ。会話ベースの漫画チームのダイナモ的存在。相手役を取りこむくらいの吸引力を。

○白石
おバカキャラの指定通りきっちりこなしてくれた。声量が大変に素晴らしい。

○式根
悪女の指定を少しひねり犯罪者に。一番難しい役どころではないかと。雰囲気良し。がまだまだ怖くなれる。

○新
式根と対象の「正義」の役を。式根に次ぐ難しさか。阿波踊り、徳島弁では苦労をかける。対峙した相手との呼吸をしっかりと。

○小笠原
嫌味でやり手な女社長。俯瞰ポジションを軽快に演じていただく。ニヤリ笑顔がとても良い。

○八丈
照明をやりたいとの想いをひねり照明家として舞台上に。ライト、ベビースポットにしてあげればよかったなぁ。

○利
雰囲気や演技が冷静なので医者として設定。本当はそのスキルで物語を更に引っ掻き回す予定であったのだが…時間の関係で…申し訳ない。小笠原とのランニングマン、格好良い。

○三宅
キャラクターもそうだったのだがそれ以上に格好良く台詞を吐ける人。初回の稽古で驚いた。

○大島
今回唯一の語録「ワンエイト大島」を己の力で築き上げてくれた。無茶振りダンスこなしてくれて感謝。性格手のひら返しのメリハリが異常。

○覚
妖怪探偵。なんでもOKということでその髪を活かした役に。コメディキャラ似合うと思うのだが本人的にはどうなのだろうか…

○袖引き小僧
探偵の助手という使い勝手のよいオファー。ポップなキャラがにじみ出ていて良い。

○百目
こちらも情報屋という使い勝手のよいオファー。探偵助手とのセットで「妖怪探偵」の設定が出来た。衣装で大変困らせた。百個の目って…

○玉藻前
姫…の解釈を少し変えて妖怪界の姫君に。撃たれるシーンはお気に入り。

○座敷童子
今公演の最大の悩みどころ。「幸福が訪れる」というキャラクターのお陰で作品のオチがついた。やられっぷりは見事。

○画皮
先述した「女装男子」の結果。中国妖怪でこいつを見つけたときには思わず吼えた。殺陣の蹴りが格好良い。

○狼男
殺陣したいという要望により凶暴な役を。経験者ゆえボディバランス素晴らしい。次は身体的ではなく魅せる殺陣が観たいですね。

○雪女
女装男子を犯人にする予定であったが、貰った要望「薬で綺麗になったけど実は婆」で真の黒幕に。もともとキャラクター芝居の勢いが素晴らしく、この役もイメージ通りに。

○落合
笑いとる役。作品にちなんだ落語二つ打ってもらったが良い感じであった。王城とのボケツッコミは大変だったんじゃないかな。

○樺島
カバディありきの役。が、このチームは基本ボケしかいないのでツッコミ要員として重宝、そしてそのツッコミの間が大変良い。

○王城
もともとファニーな人。それに会うよう本当に全く何も考えずただただふざけたことを台詞として書き綴った。ここまで何も考えなかったのは初めてってくらい。

○石鍋
唯一の男子。どう活かすか…と考えた時、自然となじられるボスキャラとなる。目立つポイント少ないのだが、その中でも存在感を出してくれた。食物で引用は彼が面白くしてくれた。

○天野川
彼女の良さをキャラクターに出来たのではないかなぁ。石鍋ぶん殴るところは秀逸。衣装のメガネセンスが大変良い。

○茶谷
初回での読み合わせを聞き「こうさせたい!」と思い急遽台本を変更。茶谷がこのハチャメチャなチームをまとめてくれた。


人数が多いのでそれぞれ手短に。


皆はどう思ったかは分からないけれど、わたしとしては外部に見せても恥ずかしくない作品になりました。この作品は100%皆さんの作品です。皆さんがいなかったらこの作品は生まれなかったでしょう。拙いわたしの台詞を皆が熱心に読むその姿に、ニヤニヤが止まりませんでした。演出の納得感とも父性ともなんともいえないこの感情、一体なんだろうか。名前をつけておくれ。

本当に良いものが出来たと思います。ありがとう。

2修了公演とは

2016-03-14 12:07:44 | Weblog
わたしが携われなかった公演。一観客として観にいく。緊張。


1「私が嫌いな世界から愛を込めて、あなたに魔法をかけてあげる。」

あるアイドルの引退と彼女が過ごす学校での仲間関係を「具象+抽象」で表現。独白を効果的に用いることで全員に見せ場とそれぞれの個性を出すことが出来ていた。オープニングのダンス、後半の怒号合戦など稽古ちゃんとしたのだなぁという跡が見て取れる。配役も一人一人の個性に合った役にして有り、チーム一丸で作ったのだなと感慨深くなった。
初めましての子達もきっちり芝居出来ていた。共に学んでいきたかったと歯がゆく思う。

2「絶叫学級」
原作とあるから元ネタがあるのかなと。学校に古くからある言い伝えとスクールカースト制度を用いた恐怖劇。オープニングに可愛らしいダンスがあるのだがそこで突如とある女子がノートを引き裂き辺りにばら撒いていくという演出。ポップの中に見える恐怖…このコントラストの素晴らしさったら!今公演で一番の演出であった。観客の中には「何だあれは」と思う人もいるであろう。揺さぶることが表現の第一歩であると思う。
一年前は消極的かなと思っていた子達も役としてちゃんと板についていた。感動。

3「魅られた光はレンズの中に」
写真部の中で繰り広げられる青春群像劇。福島さんの作品は前から拝見していたのだが演出上手い子なんですね。音ハメしていることもそうなのだが、それ以上に台詞が音楽なのですね。若者の心の葛藤を表現するには適した手法であろう。出演者もそれを理解し精一杯台詞を吐いていた。あの年にしか出来ない芝居。羨ましい。
主役の佐々木さんがとても光っていた。ホラー好きなファニーな子であるという印象だったのだが、繊細な良い芝居するなぁ。


加えて、冬公演の時に拝見した芝居で良い演技するなと思っていた玉利さんにもお会い出来た。非常に良かったと感想を伝えられたのは嬉しかった。怒涛の勢いで言ったので彼女は引いていたが…彼女とも実技で絡んでみたかった。残念。いずれその機会が持てればと思う。


三作品に共通するのは「叫喚」「ダンス」「暴力」。若い人の芝居独自のもの。以前若い人の作品をドラゲナイ脚本と評価したが、時代の傾向なのだろう。


結果、非常に完成度が高い公演だった。料金取れると思う。



苦労や戸惑い、心配を掛けた期であった。わたし自身も生涯の宿題として、とても印象に残る期となった。これからもどんな形でも良いので表現に携わって欲しいなと切に思う。