先に「コミックエディット」の構想が出来ていた。はてこちらの16人はどうしようかと思った時に、完全オリジナルの「コミックエディット」に対して、わたしが拙いながらもこれまで劇作してきた作品をリメークしてみようと思い立った。前のブログにも書いたが今公演は並々ならぬ想いがあるのだ。コンセプトを明確にし、やりたいことは全てやっておかないと…何かあった時に後悔するのはもう嫌なのだ。
この年代に適し、且つ人数を豊富に使え、且つわたしが今やりたいこと…以上を考えた時「lab~再開発~」に行き当たった。
この「lab~再開発~」、2010年に上演した計15本からなるオムニバスで、全ての作品の舞台が新浦安となっている。その後の作風の原型となっており、とにかく愛して止まない作品群なのである。
15本全てを読み返してその幼さ(なんせ6年前)と情熱(今とはまた違ったギラギラ感)を思い出し、是非この作品にこの子達を巻き込みたいと思った。
こちらのチームのやりたい役柄要望、「コミックエディット」チームよりも縛りが緩かったため、キャラありきではなく作品ありきで15本の中から選ぶことが出来た。結果15本の中から2作品…コメディ路線の「明海大学テニスコートの話」とシリアス路線の「総合公園湾岸沿いの話」…を選び、更に今回のために書き下ろした「神の御子とバスジャックの話」という三本でいくこととなる。
リメークに際してはプロットは2010年版のまま、台詞は現在の感覚、演者達の個性に合わせ殆ど書き直した。その過程でジェネレーションギャップを感じたことが二つ。一つ目は「シャラポワもやるバギーホイップショット」という台詞。当時はシャラポワの全盛期であったが今はドーピング発覚で引退云々の話が出ている。六年という月日を感じた一節だ。二つ目は「諦めて。でも人生は諦めないで」という台詞。当時はわたし渾身の台詞であったが、今の子達に言わせると真矢みきらしい。なんか悔しい。
「神の御子とバスジャックの話」は書き下ろしと言いつつも2011年の「lab~亀井戸~」と2015年の「lab~六識~」からインスパイアされた作品。とにかくこれまでの作品を総動員した内容となった。本気で全力だ。
こちらの上演は設備整った舞台で出来なかったため、これまでわたしが少しずつ密かに溜めてきた照明機材と小劇場で使うレベルの音響機材を持ち込み、大人の財力を最大限駆使した公演となった。舞台とはまた違った趣きが出たのではないだろうか…まぁ舞台で出来るのが一番なのだが…
以下各役について思ったこと。
○沢松
どこにでもいそう、普通なんだがどこか可愛く、愛らしく見える。今回の役者の中でも彼女にしか出来ない役であると思った。物語終盤、意を決してコートに入る直前の戸惑い演技が良い。
○瀬間
沢松を引っ張っていく先輩ポジション。彼女の演技は観る者にグイグイと迫ってくる。圧力ある。各シーンの「間」を良く考えていてくれたなぁと思う。
○伊達
普段は「受信」の演技に重きをおいてもらっていたので、今公演では全力で「発信」の演技に傾倒していただく。期待以上。観る人間を引きつける力が彼女にはある。
○杉山
曲者。以前から思っていたが正統派も出来るのにあえて曲者ポジションを好むのはセンスのある証拠。顔芸というよりも魅せ方が上手い。「しうねっこ」シーンはまだまだいけた。
○浅越
普段の演技がどこかミステリアスで高圧的な印象(良い意味でね!)を持っていたため、この役は抜群にハマっていた。が、だからこそもっと彼女の別の魅力を引き出したかったなぁと後悔。
○神尾
器用なのですよ。以前に演じていただいた飛び道具ポジションも今回の清楚ポジションもなんでも出来てしまう。だからこそ、身体能力、ジャックナイフもきちんと出来て欲しかったなぁ~
○港
繊細な演技が出来る子。2010年の港とはまた違った味わい。後述の花とのコンビネーションを考えた時に、この子の演技の方が今の感覚に近いのかなぁとも思った。大丈夫、自信持って良いよ。
○花
きちんと「ヒロイン」が出来る子。実はいそうでなかなかいないのだ。犬掻きに苦しんでいたようだがきちんとヒロイン犬掻き出来ていましたよ。この手の役はお手の物だ。
○海斗
初立ち稽古では少年設定をぶち破りとても大人びたテイストであったが、チームの皆と稽古する中でどんどん役にはまっていった。今公演一番の成長株であり、チームでの稽古ってやはり大事なんだなぁと思い知らせてくれた子。
○ジョン
2010年版ではただのおっさんキャラであったが彼女のやりたいことによりイケメンキャラに変貌。花、海斗とのバランスが良かったなぁ。黒コート髪一つ結びがまぁイケメン。
○ラブ
確か2010年も「レディー・ガガ」を意識して書いたキャラ。今回の彼女の要望も「レディー・ガガ」。運命としかいいようがない。急に「ポールダンスして」という無茶振り、ごめんね。でもこれが普段のわたしなのだよ。
○猫実
過去の拙作「lab~新浦安~」「lab~雨月~」に登場した郵便局員。今回の彼女の希望「クレイジー」に合わせ配役。わたしが書いていて一番楽しい役。厳しくリクエストしたのも成長して欲しいから。まだまだいけるぞ。頑張れ頑張れ。
○塩浜
「lab~亀井戸~」に出てきたバスジャック犯。普段の豪快で爽快な彼女の演技を少しでも変えたく、ナイーブで卑屈な役を設定。チームの皆との稽古で着実に変わっていく様は観ていて感動。
○栗林
わたしの作品の主題「神の御子」の幹部。唯一の男子であり、その能力を活かしたダイナミックで怪我を恐れぬ笑い転げの演技は実に見事。小難しい長台詞をよくぞ覚えてくれた。本当に感謝。
○百瀬
やりたい役「林家パー子」は本当にどうしよかと悩んだが、笑う爆弾魔は皆もわたしも納得のキャラクターとなった。「神の御子」シリーズは人が神の領域に挑む内容なのだが、今回の「神の御子分派微笑み」誕生はパー子あってのもの。スイッチ押す瞬間の足をクイっとした立ち姿、好き。
○枇杷島
やりたい役「メンヘラ」がわたしの中で消化しきれず、厨二+ネット中毒+恨みがましいという最強のモンスターが産まれる。「ググれカス」は今公演で一番好きな台詞。笑いしっかり取れた。ラストシーン、音ミスっちゃってごめんね。
人数少なく(といっても16人)時間も取れたので「コミックエディット」とは異なる稽古に。「コミックエディット」は役者のキャラクター、テンポ重視に対し、「新浦安」は役の綿密なプランと客観性を重視。実際にはどちらを重視ということではなく、どちらも意識しなければならない。役は戯曲の中で生きており、役者はその役を生きるものである。目立ちたいという自分本位な演技は役に忠実ではなく役と芝居を裏切る。しかしその一方で脚本そのままを忠実に再現する芝居もまた人として「そこに居る」役者を殺すこととなり結果芝居と観客を裏切る。脚本上でも観客の眼前に立つ己自身としても「生きる」演技が出来てこそ、初めて観客に提供出来る芝居になる…と思うのである。
設備状況あったが、それ含めでも今公演も充分料金取れるものになったと思う。皆凄いぞ。
一年を通し時間が足りないと切に思ったのは今年が初めて。本当に良い経験となった。そしてこの公演を通しピンッとくるものがあった。それはまた今後の話だ。
振り返り終了。んー実に良い時間を過ごせたと改めて思う。少し寂しいぞ。