原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

エゾアカガエル

2013年04月16日 07時48分42秒 | 自然/動植物

 

雪が消え、新芽が目を出す頃。山の池、湿原ではカエルの大合唱が始まる。冬眠から覚めたカエルたちが子孫を残すための活動開始の合図なのだ。わが山の二子池はカエルの卵で埋め尽くされる。だが臆病で警戒心の強い彼らは、人が近づくだけで一斉に鳴りを潜める。だが所詮、カエルだ。じっと10分も静かにしていると、あっさりと警戒心を解く。水面から顔を出して声をあげ始める。鳴き役はもっぱらオス。メスを呼ぶのだ。短い北国の春の時間の中で、彼らは子孫を残すための大切な仕事を懸命に果たそうとしている。

 

北海道に生息するカエルはニホンアマガエルとエゾアカガエルの2種だけと思われていたが、現在は4種から5種ほどいるらしい。でも普通に見ることができるカエルと言えば先の2種。わが山で大合唱を繰り広げているのはエゾアカガエル。全体にぼてっとした体型で、他のアカガエルに比べると後ろ足が短いとか。体長は40~70ミリぐらい。体色は灰色がかった焦げ茶から黄土色までいろいろな個体変化がある。背中に黒い斑点が目立つものから目立たないものまである。けっこう個性が個体に現れる種族らしい。ユニフォームをまとったように、みな同じでないのがいい。

 

抱き合っているカエルが目に付く、カエルの愛の時期であることを強く感じるが、この抱擁は人間のような行動と少しばかり意味が違う。カエルは体外受精(鮭などと同じ)なのだ。メスの体に背中から抱きつき(おおむねオスの方が小さい)、産卵するメスの後ろから精子をふりかけて受精させるのである。メスが卵を産まないといつまでも抱きついている。これは一種の本能行動で、三匹も四匹も同時に抱きついてしまうこともある。くんずほぐれつの大相撲にさえ見える。この様子を見た小林一茶が「瘦せガエル、負けるな一茶、是に有り(これにあり)」と詠んだ。オスの方が身体が小さい場合が多く、懸命に背中にむしゃぶり付いているような哀れな姿に、一茶には見えたのであろう。わが池の中でも同じような光景が繰り広げられていた。時代が変わっても種類が違っても、やることは同じらしい。

 

(四匹ほどが抱き合っていた。相撲と言うより、喧嘩に見える)

 

カエルの行動を見ていると、時折、頬を膨らましている様子が見て取れる。これは鳴き袋に空気をためている様子。カエルは鳴き袋にためた空気を、いったん肺に吸い込んで口に押し出す。そして音をたてる。カエルの鳴き声はこうして出る。そのため口をひらくことなく、「クワワッ、クワワッ」とか「ギエル、ギエル」と鳴き声を発する。鳴き袋に空気を入れると姿が変形するので、ちょっと驚かされる。案外、外敵にもこの姿を使っているのではないだろうか。

 

(少し見えにくいが、首のあたりが異常に膨らんでいる。鳴き袋を膨らませているところ)

 

エゾアカガエルの学名はラナ・ピリカ。ラテン語のラナはアカガエルの一般名称。ところがピリカはアイヌ語の可愛いとか美しいの意味。ラテン語とアイヌ語が一緒になって学名となっている。このカエルが美しいかどうかは別にして、北海道のカエルとして認知されたことから、ピリカが使われたのであろう。なんとなく嬉しく感じる学名だ。

 

(池を埋め尽くす卵。時にはとんでもない場所にも卵を産む)

 

現在、このエゾアカガエルの個体数が減少傾向にあるという。理由は湿原の減少にある。環境の変化が彼らの身辺にも大きな影響を与えている。春の合唱団の声が途絶える事態にならないことを切に願いたい。

カエルの合唱が響く湿原は、まだまだ大丈夫というわけだ。


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