Exhilaration / Peter Leitch
ペッパーアダムスの晩年(1984年から1986年)というのは人生の中で最悪の時期だったかもしれない。
この頃、世間はフュージョンブームにのって人気バンドのアルバムは飛ぶように売れ、ベテラン達も数多く行われたジャズフェスティバルで復活していた。同郷の仲間で一時コンビを組んだドナルドバードはこの流れに乗って、いわゆるアメリカンドリームを確実に手にしていた。
しかし、一匹狼のソリストとして活動を続けたアダムスは、この世間の動向とは無縁であった。ソリストとして活動はアメリカ国内だけではその活動が限られるせいか、よくヨーロッパを訪れていた。何も、名声やお金だけが人生のすべてではないと割り切り、ソリストとして一緒にいい演奏をできる友人達の間を巡りながら、そこで日頃の憂さ晴らしをしていたようにも感じる。
しかし、此の時期はその活動すら満足にできない期間であった。
84年は脚の怪我でほぼ1年近くを棒に振ってしまった。10月になってやっとプレーを再開し、レコーディングも始めることができた。年が明けて85年はヨーロッパでのツアーもできるまでに回復した。しかし、3月11日渡欧中のスウェーデンで体調を崩し、現地で診断の結果、肺がんであることを宣告される。それから亡くなる翌年の86年9月10日までは今度はガンと闘いながらの最後の活動を続けることとなってしまった。
脚の怪我では歩く事もできず、外に出掛けることもできず部屋に閉籠ることが多かった。そんなアダムスの元を訪れたミュージシャン仲間の一人に、ギタリストのピーターライチがいた。
ライチはカナダ出身、ニューヨークに出てきて間もなかった、彼が頼りにしたのがアダムスであった。アダムスは隣国のモントリオールにもよく訪れていた。そういえば、アダムスの参加したラストアルバムもカナダでの録音であった。ライチとは、ニューヨークに来る前にアダムスのモントリオール訪問がきっかけで知り合ったのであろう。
ある時、アダムスはライチからアルバム作りで相談を受けた。母国カナダではアルバムを作った事があったが、アメリカでは初のリーダーアルバムであった。色々相談事や心配事もあったと思う。結局、相談相手であったアダムスもレコーディングに参加することになり、自宅で2人きりでの練習も始まった。
最初ライチはすべてセロニアスモンクの曲でアルバムを作ろうと考えていた。レーベルが決まりプロデューサーやメンバーも決まり詳細が詰まってきた。結局、レコーディングする曲はモンクの曲以外にライチのオリジナルなども加わった。
そしてスタジオはルディーバンゲルダースタジオに。アダムスにとっては若い頃から通い慣れた場所、しかしライチにとってはいきなりの晴れ舞台。高校球児がいきなり甲子園に登板するようなものであったのであろう、必要以上に神経質になったという。
そのような新人を最後まで支えたのが怪我も癒えたアダムスであった。しかし、アダムス自身の体調もけっして良さそうには見えなかったという。進行していたガンの影響がこの頃すでに体を蝕んでいたのかもしれない。
長い準備期間を経て、録音が行われたのが11月17日。このアルバムがアダムスにとっても長い療養明けの初録音となった。リーダーはあくまでもライチだが、アダムスとの共作といってもいいアルバムだ。
メンバーは、ドラムはアダムスとは付き合いが長く一緒にアルバムも作っているビリーハート。ピアノとベースは当時ニューヨークで活動をしていた中堅の2人が加わる。アダムスにとっても初顔合わせだったようだが、相性はよかったようだ。此の後、彼らと一緒にプレーするようにもなる。
モンクの曲を中心にという構成も良かったのかもしれない、伝統的なストレートアヘッドなプレーが繰り広げられる。ライチの演奏も、多少線が細い感じを受けるが、その後の活動の起点となるようなプレーだ。
タイトルのExhilaration。浮き浮きした気分にさせるという意味らしい。このセッションが塞ぎ込んでいたアダムスを気分よくさせたのか、この録音の直後、12月にはアダムスは久々に昔からの仲間のケニーバレルと、そしてアルコーンと一緒にクラブ出演した。ギター奏者とはあまり一緒に演奏する機会が少なかったが、このアルバム作りをきっかけに久々にライブでもギターと一緒にプレーしたくなったのかもしれない。
1. Exhilaration Peter Leitch 7:16
2. Round Midnight T. Monk 6:59
3. Thinkle Tinkle T. Monk 6:50
4. Slung, in the Far East Peter Leitch 6:21
5. How Deep Is The Ocean? Berlin 7:00
6. Played Twice T. Monk 8:30
Peter Leitch (g)
Pepper Adams (bs)
John Hicks (p)
Ray Drummond (b)
Billy Hart (ds)
Arranged by Peter Leitch
Produced by Robert Sunenblich & Mark Feldman
Recording Engineer : Rudy Van Gelder
Recorded at Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, N.J. on November 17, 1984
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