建築・環境計画研究室 (山田あすか)

東京電機大学未来科学部建築学科

元木望,山田あすか:戸建住宅における 「子育て要素」と住空間構成に関する研究,地域施設計画研究シンポジウム2019

2019-09-09 12:40:50 | 書架(こども関係)

日本建築学会地域施設計画研究シンポジウム2019,論文誌『地域施設計画』掲載の論文(論文本体は1年以内のアップダメなので草稿,でもほぼ本原稿と変わりありません)と,発表プレゼンです。

この論文誌はしばらくオンラインでアプローチしにくいままので,興味のある方にお届けしたいと思い。

*画像悪いよ,本原稿見たいよ,という場合は,建築学会にお問い合わせいただければ上記論文誌ご覧いただけます。

*前半に論文(10p),後半がプレゼンPPTです。初見の方には後半の方がわかりやすいと思います。

 

 

商品化住宅と呼ばれる住宅形態があります。

1950年代に工業化住宅が普及し始め,その後1970年代後半には工業化、在来工法の別を問わず,

ライフスタイルを切り口にパッケージ化した商品としての住宅が多く売り出されるようになりました。

これらがいわゆる「商品化住宅」です。

 多様な商品化住宅の中には,子育て期の世帯を対象とした住宅も多く,

 ライフスタイルに合わせて変化する可変型のプランや家事動線に配慮した計画等,様々な提案がされています。

 これらの住宅がターゲットとする主な購買者層は,子供をこれから育てる,または育て始めて間もない時期の家族です。

その後,住宅を購入した時の価値観と、子育てのプロセスを一通り体験したあとの価値観は,

必ずしも一致しているとは限りません。

 

そこで本研究では、

①「子育て」を住宅設計の主たるコンセプトとする「子育て住宅」としての要素,すなわち住宅購入時の評価要素の整理と,

②子育て期の終わり時期での住宅の評価を比較を行います。

これによって、長期にわたる「子育て」の器となる住まいの在り方についての知見を得ることを目的とします。

調査概要を示します。調査内容は2つです。

まず「子育て住宅」を取り扱うハウスメーカー8社の子育て住宅誌を対象とし、そこに掲載されているコンセプト・説明文から抽出した単語を分析しました。

また,モデルプランの空間構成を整理し、さらにテキスト分析ソフトを使用した抽出語の分析をしました。

二つ目の調査として,大学生を子に持つ保護者9名へのヒアリング調査による「子育て」の視点からの自宅の評価とその変遷を調べました。

まず 各社のコンセプトや説明文章を、場所・キーワードと効果に着目して整理します。

場所キーワードは,家族が共有する空間,家族の構成員のための空間,家事関係の空間の3つに分類しました。

【場所・キーワード】の例を挙げます。1階が共用空間,2階が個室群だとして,帰宅した子供が自室に行く際に共用空間に居る家族が帰宅した子供への声かけができる「おかえり階段」や

子育て,特に子供の見守りをしながらの“母親のための”家事空間、兼保護者が見守れるこどもの作業空間である「ママコーナー」,

見守りや家族との交流をしながらの作業がしやすい,子供の家事参加がしやすい「キッチン」などが掲載されていました

  

【効果】の軸を見ると,「家事のしやすさ」は全ての社が言及しています。

また「見守り・安心」、「家族との交流」は7社、「気配を感じる」は6社あり,家族との関係性は言及頻度が高いと言えます。

また,例えばA社の「キッチン」には「子供の家事参加,見守り,安心,リラックス・憩い,家族との交流」の効果があるとされているなど,

個々の場所キーワードについて,複数の意味や効果が関連づけられていることが読み取れます。

【場所キーワード】と【効果】の,該当数が多い3つの組み合わせについて,各社での詳しい提案内容を見ます。

「変化する子供部屋×間取りの柔軟性」には6社が該当しています。

5社は“可動間仕切り壁や収納を用いることで間取りを変えられる”としています。

これに対し,C社は“廊下と開放的に繋がる共有スペースを,将来間仕切り壁をつくることで子供の個室に変えられる”提案をしており,販売時の優先事項に,差異があリます。

これは,将来の子供の数の希望や,子供の主たる滞在場所をどう想定するかの対応の差異と理解できます。

「収納×子供の自立」の組み合わせには4社が該当し,各社で様々な提案がなされています。

このうち,大まかに見ればC,D,G社は何らかの場所の近くにある収納空間の提案です。

見守りや介助,指示がしやすく保護者が家事や自分のことを「しながら」の子育て視点が重視されていると理解できます。

これに対して,E社は家族構成員それぞれの個人専用の収納ワゴンという家具の提案です。

家族の共用空間に家族それぞれのものの拠点を持つことで片付けの習慣づくりを支援することが重視されていると理解できます。

 

  「キッチン×見守り・安心」の組み合わせには5社が該当します。

キッチン正面にカウンターがある提案が2社,キッチン正面にダイニングテーブルがある提案が3社あります。

いずれとも調理をしながら子供を見守れる点は共通しています。

キッチン正面にカウンターがある提案はこれに加えて子供やテーブルにいる家族とのコミュニケーションを取りやすさが記載されています。

これらのように、同じ場所と効果の組み合わせであっても,提案されている空間性に差異がある場合があります。

次に、8社のうち,モデルプランを掲載していた6社の図面を機能図として整理しました。

機能図を見ると,6社のうち5社が階段とリビングが繋がっている(リビングに階段がある場合を含む)関係で,階段を設けています。

 

しかしながら先ほどの図を見ると,「お帰り階段」は4社のみ説明文で取り上げています。

このように,同じ空間構成で計画されていても積極的価値を見いだし優先的に説明する点には,社によって差異が見られます。

ベランダ・バルコニーと部屋との繋がりに着目すると,6社のうち5社がベランダ・バルコニーに出入りができる部屋が複数あります。

例えばC社はバルコニーにファミリールームと洗面室が繋がっており,D社はベランダに子供室と主寝室が繋がっています。

このように,部屋の利用者が異なる複数の部屋を繋げることでベランダ・バルコニーの利用者に柔軟性を持たせ,

洗濯物を干す,取りこむといった作業に対する家族の家事参加を促していると読み取れます。

廊下の構成に着目してみます。

6社のうちA,C,D,G社は吹抜け(A社)やファミリーライブラリー(D社)等,家族全員が利用する空間であることを積極的に活かして,

家族同士が自然にコミュニケーションを取るきっかけとなるように計画されています。

次に、出現パターンの似た語を線で結んだ共起ネットワーク図による分析を説明します。

この図の見方ですが,円の色が赤に近いほど中心性が高く,青に近いほど中心性が低いことを示します。

また,円を繋いでいる線が太いほど共起関係が強く,円が大きいほど,語の出現回数が多いことを示します。

子育て住宅全体の傾向として、「家族」「子ども」「成長」が中心性が高い語です。

また、「子育て」「ママ」「家事」「キッチン」が共起関係にあることから、

子育て=母親という前提で説明文が構成されている傾向があることが指摘できます。

(どうかと思いますね。)

また,「収納」「場所」「スペース」が共起関係にあることから,

子育て住宅における収納の場所と広さが重要視されていると読み取れます。

さらに,「家族」「コミュニケーション」「自然」が共起関係にあることから,

家族間のコミュニケーションが自然に喚起されることが重要視されていると理解できます。

頻出単語と各社の関係性を示す対応分析をみます。

寄与率の高い「子供の成長と家事」の軸を見ると,

原点から離れた位置にプロットされた「家事」「ママ」という語とG社が近くに位置していることから,

「母親による家事」がG社を特徴づける語であると理解できます。 

そしてA社は安心やコミュニケーション、B社は家族構成員個々の生活を重視していると読み取れます。

複数の分析の関係を,G社を例にみます。先ほどの場所・キーワードとその効果の図と合わせて見ると,

G社は「子供の家事参加」では4つの場所キーワード,「家事しやすい」でも4つの場所キーワードにおいて効果があるとしています。

このことからも,G社は家事を重要視していると理解でます。

この表は,他社と比べて特徴的な語の上位10語を示しています。

各社での特徴的な語を先ほどの対応分析と併せて見ると、

 

それぞれ,重視している項目は,(A社)家族とのコミュニケーション,(B社)子供の遊び,(C社)家の空間性,(D社)子供の学習,

 (E社)子供の安全,(F社)家族での時間の充実,(G社)“働きママ”の家事効率,(H社) 家の機能性,このように抽出できます。

また,F社とG社で同じ「時間」という語が見られます。

しかし,語の前後の文を見るとF社ではポジティブな意味(幸せな時間,など),G社は効率性の意味(忙しい朝の時間,など)で用いており,

より詳細に見ると会社ごとのコンセプトや理念の差異が見られました。

各社のモデルプラン機能図と合わせて見ます。

例えばA社では玄関とLDKの関係,LDKと和室の関係のように機能同士が曖昧に区切られている,又は部屋内にエリアとして計画されています。

 

一方,「家族での時間の充実」を掲げているF社の機能図には,こうした曖昧な構成が一切見られません。

F社の提案では,各部屋の独立性が高く,それぞれの部屋での“充実した時間”を重要視していると理解できます。

「働きママの家事効率」を掲げているG社の機能図は,洗面室,家事室,

テラスが繋がる構成によって家事動線を集約し,家事効率を高めていることが読み取れます。

次にヒアリング調査について、特徴的な事例を報告します。

h家のように、間取りは父親が全部決めてしまったという例が3件ありました。

その理由として、母親が子育てや学校行事への対応で時間がなかった、ということが挙げられました。

「子育て」を担うが故に子育てをする場である自宅の計画に携われないという、逆説的な状況です。

ベランダが子供部屋に隣接している事例は2件あります。

c家は2階の子供部屋に隣接しているため,1つのベランダしか利用できず不便であるという意見が得られました。

主に洗濯物を干す際に利用するベランダにどの部屋から出入りができるかを,

その部屋の機能と関連付けて計画することが重要だと言えます

次に、リビングに階段を設けている4件のうち、e家では、子どもの幼少期は階段に上ってしまう危険性から柵を付けていました。

先ほど説明した通り、「おかえり階段」による利点はあるものの、

採用を決める際には家族構成員の年齢や住まい方の変化に柔軟に対応できる間取りが重要です。

子育て住宅誌の分析とヒアリング調査の分析結果を比較します。

子育て住宅誌の分析から見守り・安心,家族との交流,家事のしやすさに着目して住宅が作られていることが分かる一方,

子育てを終えてこれらが重要だと感じたと述べた家庭は9件中2件ありました。

また,子育て住宅誌の中で子供の安全について取り上げた会社が8社中2社であるのに対し,ヒアリング調査では9件中8件でした。

また、6社中5社のモデルプランがベランダに複数の部屋が繋がっているのに対し,ヒアリング対象者の自宅では,3件のみでした。

このことから,売り手の意識と実際の住宅の居住者の住宅購入に対する考えに差異があると言えます。時差も考えられます。

まとめです。

子育て住宅誌の分析では,「見守り・安心,家族との交流,家事のしやすさ」に着目し「家族,子供,成長」を軸に文章が構成されていること,また母親をターゲットに子育てや家事のしやすさがアピールされていることなどを示しました。

また,家族のコミュニケーションや子供の安全性,遊びなど,会社ごとに重視する点に差異が見られました。

ヒアリング調査からは,いくつか特徴的な事例が見られました。

間取りを決める際の父母の話し合い等の必要性,また「子育て住宅」としてのウリとされている間取りなどの子育て要素も,「おかえり階段」に柵がつけられた事例からわかるように、実際の生活のなかでは危険につながりうるため住みこなしの工夫が必要な場合があることも指摘されました。

 

 

  

 

 

筆頭著者の元木さんは,この研究も,プレゼンテーションもとても頑張っていたのですが,発表当日にどうしても仕事の都合で自分で発表が出来なかったので。

なるべくたくさんの人に読んでもらえるように,アップしておこうね! と約束してから1ヶ月半・・結構経ってしまってごめんなさい。

研究成果はせっかくなので,時間と空間を超えて,興味関心を共有できる方に届くと嬉しいです。

  

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2019年度日本建築学会大会 ... | トップ | 次の記事へ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

書架(こども関係)」カテゴリの最新記事