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『なぜ君は総理大臣になれないか』-パロディー映画と思いきや、実はまじめで真剣なドキュメンタリー映画

2020-10-10 23:20:16 | 最近見た映画

   【 2020年8月3日 】     京都シネマ

 映画を見てから2か月以上もたってしまった。
 この間何をしていたかと思うと、8月の炎天下は家の中での暑さと息苦しさと低周波音を避けて、もっぱら外をうろついていた。北山の倒木だらけの道を分け入り林間に車を停めてその中に籠ったり、大津の琵琶湖あたりまで出かけ涼を求めたり、解禁になった映画館で過ごしたりと、家のパソコンの前に座ることはほとんどなかった。9月に入り、前半は機関誌の原稿書きに追われ図書館か喫茶店に居場所を求める日が多かった。9月15日は何を思ったのか好天に誘われて山に登ってきた。これが、その後の体調と日常生活を崩した契機だった。2週間たち、ようやく今まで通り(低周波音での不調とコロナ過での変則的日常は変わらないが)の生活が出来るようになったと思ったら、突然の首相交代劇である。胸騒ぎがして、2か月前に見た映画のことを思い出し、パソコンの前に《耐えて座る》ことを促された。

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 一番納得ができないことは、前首相の悪政をそのまま受け継ぎ、基本方針も何ら変えず、自らもその当時者であったその人が首相になって名前が「安倍」から「菅」に変わっただけなのに、内閣の支持率が跳ね上がったことだ。「どうしてこの国はこうなんだ!」、とやりきれない気持ちが充満した。それと、なんで、どうして菅なのか。どういう力が背後で働いているのか?その辺をすっきり説明できる何かが欲しかった。

                    


 『なぜ君は総理大臣になれないか』はパロディー映画かと思っていたら、そうではなかった。実にまじめで真剣なドキュメンタリー映画だ。

 この映画は一人の、誠実に政治に向き合う一人の議員に焦点を当て、彼がどうして総理大臣になれないかを解明している。それは、《どうして今、自公政権なのか》、《どうして管首相なのか》という事と背中合わせになっていて、《今、どうしたら野党が政権を取れるか》、《どうしたら、【まじめな君ら】が総理大臣になれるか》という問題解決の方向を暗示していたように思う。

       

 映画の中心人物・小川淳也議員の選挙区は衆議院香川一区である。宿敵の自民党議員に何度も苦杯をなめさせられているが、比例区重複候補で何度か復活当選している。香川一区といえば2016年の参議院選挙で全国唯一、共産党の田辺健一さんが野党統一候補として立った選挙区だ。因みに同県の衆議院2区は今焦点の人となっている玉木議員いる選挙区である。

 話を元に戻して、大島監督は2003年(H15年)から小川純也を追いかけている。というのも、大島監督の妻が小川淳也の高校時代の同級生のよしみでカメラを回し始めたというが、その年というのは、それまで勤めていた総務省の官僚の職を、周囲や家族の反対を押し切ってまでして、辞めて衆議院に民主党から初めて立候補した年である。衆議院はご存じのように小選挙区であり、自民の候補にあえなく敗れるが、小川はここに何かを感じたようである。2年後(2005年)の選挙では、選挙区で敗れたが比例区で復活して初当選をする。4年後の次の総選挙、2009年(H21年)では宿敵の自民候補を小選挙区で破り当選している。その年は、民主党が圧勝して、9月に鳩山政権が誕生した年である。3年後の2012年11月(H24年)に民主党はあえなく終わりを告げるが、小川議員は比例区でかろうじて当選する。

               

 民主党政権が崩壊した後の2014年の選挙でも比例区で当選を果たすが、2016年に民主党が日本維新の党と合流して民進党に衣替えをするが、この頃から小川議員の《迷走》が始まる。下の小川議員の所属経歴図は自身のプロフィールからの引用であるが、

    民主党→民進党→希望の党→無所属(平成30年〔2018年〕5月~)
    →立憲民主党・市民クラブへ会派入り(平成30年〔2018年〕9月~)
    ※平成31年1月~名称変更立憲民主党・無所属フォーラム
    →立憲民主党(令和2年〔2020年〕9月~)
      (自己のプロフィールより引用)

 迷走ぶりがよくわかる。野党が離合集散を繰り返していた当時、『ワシは今、何党かねと、秘書に聞き』という川柳があった。自己の地位保全と利益だけを考え、無節操で無責任極まりなく、中身のない議員を風刺し、見事に17文字で描いたものだが、小川議員の場合は違ったようである。

 民進党が希望の党に合流した時が、小川議員にとって最大の試練の時だった。周知のように、前原民進党代表の《愚行》に対し、希望の党の代表である小池百合子が《踏み絵》を突き付けたのである。前原の側近だった小川議員は、小池百合子にはじかれた一部の議員たちによって立ち上げられた「立憲民主党」には加わらず、「希望の党」に合流という苦渋の選択をして、以後悪夢の日々を迎える。

             

 このドキュメンタリー映像の中で一番の見どころは、2019年の選挙中にあった。小川は「希望と党」から立候補するが、元の小川の熱烈な支持者から「恥を知れ!」と公然と罵られるシーンである。(その時、共産党は、小川議員が希望の党から出馬しているにもかかわらず、それまでの経緯を含めて、独自候補を下ろし小川を支援している。というのは、2016年の参議院選挙で、その香川県が32ある1人区の選挙区の中で全国唯一、共産党の田辺健一さんが野党統一候補として立った選挙区だったのだ。小川議員は民進党の県代表としては共産党との選挙協力に積極的に取り組み、「自衛隊や天皇制など意見の違いは野党共闘には持ち込まない」等の内容を含んだ「基本的事項の確認書」の締結にも中心的な役割を果たしていた。

               
               田辺健一候補とともに宣伝カー上でマイクを握った民進党の小川淳也衆院議員(手前)2016年7月、高松市内
                                      
 この選挙では、議員に立候補すること自体最初から反対だった妻や娘も総動員で戦う”涙ぐましい”姿も描かれている。

            

 繰り返しになるが、この映画タイトルをもじって『なぜ菅義偉は総理を大臣なれたか』を紐解いてみたら、支配者側の構造や行動力学が分かりそうな気もする。それは《岸田でも、ましてや石破でもない管を選ぶ》伏魔殿のような現政権に対し、誠実にしかも真剣に政治に向き合う一人の議員の過去の行動を教訓にして、今《野党がどうしたら政権をとれるのか》のヒントを映し出している。

 今、立憲民主と国民民主党が合流して、新たな局面を迎えているが、新たな市民を含めた野党共闘の発展を願うものにとって見逃せない映画で、2003年から17年間、彼を追いかけカメラを回し続けた大島新監督の執念の一策と言える。因みに監督は小川議員の妻の高校の同級生であり、大島渚・小山明子夫婦の次男だそうである。

      




 『なぜ君は総理大臣になれないのか』-公式サイト
 この公式サイト、盛りだくさんで一見の価値があります。特に、緒氏のコメントが面白く、参考になります



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