大木昌の雑記帳

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いぬゐ郷」の活動と自然農で感じたこと

2013-10-09 08:47:40 | 食と農
「いぬゐ郷」の活動と自然農で感じたこと


前回の記事で,「いぬゐ郷」について簡単に触れましたので,今回はその活動について少しくわしく紹介しておきたいと思います。

「いぬゐ郷」は,2013年の3月末に千葉県幕張に発足したばかりの,まだNPOにもなっていない,私も含めてたった6人のメンバー
から成るちいさなグループです。

活動のミッションその他の詳しい内容について,ホームページ 「いぬゐ郷」(http://www.inoui-go.com/home/index.html
の中の「いぬゐ郷」をクリックしていただければすぐに見ることができます。

大ざっぱに言ってこのグループは,食(食育)・農・健康,環境とエネルギー問題を考え,そして地域の活性化も同時に行う,とても
欲張りなグループです。

安全な食べ物を農家に作っていただき,消費者に食べてもらうために,前回も紹介した「消費者支援農業」(CSA)の活動も行って
います。

現在は,無農薬のお米を作っている農家のお米を買い取って口コミやインターネットのホームページ(この中の「ショッピング」)で
販売しています。

また,この玄米を発芽玄米に変え,それで「おむすび」を作り,さまざまなイベントや千葉の定期市で売っています。

将来的には,お米だけではなく,無農薬野菜を消費者に届ける,本来のCSAシステムを作りたいと思っています。そのためには,
無農薬野菜の栽培を引き受けてくれる農家と契約する必要があります。

しかし,大部分の農家は,土壌の消毒から始めて除草剤,殺虫剤を何回もかけ,化学肥料を使って栽培する「慣行農法」をこれまでずっ
と行ってきたため,無農薬での栽培には非常に多くの抵抗があることが予想され,これは今後の大きな課題です。

第一,無農薬なんかで作物が満足にできるわけはない,という気持ちがとても強くあります。実際,病に食われたり病気に罹って作物が
ダメージを受けることはあります。

ちなみに,CSAの発祥の地アメリカでは,消費者がグループを作り,農産物を前払いで買い取り,それによって小規模農家を支える
ことに重点を置いていますが,必ずしも無農薬にこだわっているわけではありません。時々,有機野菜(オーガニック)と表示されます
が,それが本当に無農薬かどうかは分かりません。

ここで,若干の誤解が使わない栽培法ですが,有機栽培は必ずしも無農薬とは限りません。

国が認証している「有機農産物」とは2年以上(多年生植物の場合は3年以上),化学肥料や人工的に合成された農薬・化学物質を使
わないで栽培された農産物を指し,第三者機関の認証を受ける必要があります。ただし,国際基準で認められた30種の農薬の使用は
可能です。

有機栽培というのは化学肥料を使わず,有機物の肥料とする栽培法ですが,実態としては牛、鶏,豚など家畜の糞を発酵させたものを
使います。

日本では通常,家畜の飼料として配合飼料を与えます。この配合飼料には家畜の病気を防ぐために多くの薬が入っており,また成長を
促進するためにホルモン剤などが入っていることもあります。

したがって,これらの化学物質が入っていない配合飼料(実際にはほとんどありませんが)や,山の腐葉土や堆肥用に特別に栽培され
た植物や草などから作った堆肥を別とすれば,通常の有機栽培で作られた作物にはどうしても,さまざまな薬や化学物質が入ってしま
います。

私たちは,化学肥料や農薬を使わないのはもちろんですが,できたら家畜系の糞から作られた有機肥料も使わないことを望みます。

しかし,そんな方法で通常の収穫量を得られるのでしょうか,病気や虫にやられないでしょうか?

こんな疑問が当然,おこってきます。そこで,「いぬゐ郷」では,もっとも極端な栽培方法ではありますが,「自然農」を実践してい
ます。

ただし,一口に「自然農」といっても,その具体的なやり方は,10人やっていれば10通りの方法があるくらい多様で,それぞれが
状況に合わせて工夫しているのが実態です。

「いぬゐ郷」は千葉県の幕張に,20メートルx40メートルほどのちいさな畑を借りています。この畑は「コミュニティ・ファーム」
という位置づけになっていて,だれでも参加できます。

現在,毎月第4日曜日を定例の作業日としていますが,この日以外にも,さまざまな活動のため集まる機会があったときには畑の作業
を行っています。

また,メンバー以外では,現在,都内の大学生や,知人を通して何人かが参加しています。

今年始めたばかりの畑は,当初は文字通り草ぼうぼうといった状態で,土はとても硬く,とうてい作物ができる状態ではありませんで
した。

しかし,一応,「自然農」を実践するという目的のため,不耕起・無農薬で,除草をせず,人工的な肥料は使いません。

雑草は抜かず,ただ土の上の部分を刈り取ってその場に置き,草のマルチに利用し土の乾燥を防ぐと同時に自然の肥料にします。

播種と苗の植え付けの際には,必要最低限の穴を掘り,そこに種苗を入れます。ただし,ジャガイモの植え付けには畝立てはします。

土壌の消毒もせず,殺虫剤も除草剤などの農薬は一切使わず,刈り取った草以外の肥料も投入しません。

ずいぶん荒っぽい栽培方法ですが,それは次のような考え,作物や雑草の根が固い地中に伸びては腐るというサイクルを繰り返すこと
で,土地を耕してもらい,腐った根が肥料になり,併せて空気と水の通り道になることを期待しているのです。

もうひとつ,耕さない理由があります。

土の中には無数の微生物が生息していて,これら微生物の働きがあって初めて植物は根から土中の栄養素を吸収できるのです。

植物と微生物は,一つの生態系を形成しているといえます。ところが,土を耕すことによって,この生態系を壊してしまうのです。

耕すことのマイナスを補うために,植物が吸収しやすい化学肥料を与えることになります。しかし,化学肥料を与えていると,土は
固く締まってしまい,水も空気も浸透しにくくなり,さらに植物の根が伸びにくくなります。

こうした状況に加えて,人工的な肥料を与えると,植物は栄養素を摂るために地中深く根を降ろそうとはしません。

たとえば,一昔前の優良な稲田(水田)では,イネの根が1メートルほども伸びていましたが,現在の慣行農法によるイネの根はせい
ぜい15センチから20センチ,地表に伸びているだけです。植物にとって栄養素は地中深くにあるのではなく,上からやってくる
のです。

さまざまな利点はあるものの,不耕起で無肥料,無農薬の自然農の場合,地中の微生物生態系や栄養素の蓄積ができてくるには10
年くらいはかかるのではないでしょうか。


今年は,3月と4月,畑の一部に4種類のジャガイモを二畝,植えました。

次に,6月の終わりに,陸稲用に,畑の片隅に設けた苗床(陸苗代)で育った稲の苗を畑へ移植(田植え)をしました。現在,草
との競争をしながら必死で実を付けつつあります。写真は,田植え直後の「稲田」です。よく見ないと,どれがイネでどれが雑草
かわかりません。



コミュニティ・ファームの最初の収穫はジャガイモでした。今年は梅雨時に雨が降らなかったため,あまり豊作とは言えませんで
したが,それでも,7月21日の収穫時には,かなりの量(残念ながら重さは量りませんでした)を収穫することができました。
早速,料理に使ってみんなで食べました。

もちろん大満足です。

これ以後,大豆の種蒔きをし,現在,実を付けつつあります。

さて,以上のような自然農を実践した経験から,いくつか分かったことがあります。

一般に,このような自然農は収穫が落ちると考えられています。私たちの経験ではまだ,ジャガイモを収穫しただけなので何とも言
えませんが,思ったより良くできるという印象です。

今年は,コミュニティ・ファーム(ここは台地の上にあり,土は乾燥しがちな悪条件にあります)がある地区は,雨があまり降らず,
メンバーの1人で
自然農のベテランの話では,順調に雨が降れば,この土地でも3倍くらいは収穫できたと言っていました。

ということは,少なくともジャガイモのように地下に作物を作る野菜なら,自然農でもかなり収穫が見込めると言えます。土の持っ
ている生産力にはただただ驚くばかりです。

私は以前,愛知県にいたころ,山の荒れ地を開墾して8年ほど,ほとんど専業農家くらいの密度で農業をやっていましたが,当時は
乳牛を飼っている農家から生に牛糞を買ってきて,発酵させ堆肥を作り,必死に土作りをしました。

しかし,無肥料でこれだけできれば敢えて,それほど堆肥作りにがんばらなくてもいいな,と思います。

当時私は農薬を使いませんでしたので,葉物野菜とトマト・キュウリなどの瓜類はかなり虫と病気にやられました。

自然には1つ大きな問題があることが分かりました。

最近,畑で作業をしていたら,隣接する畑の持ち主から,私たちが草ぼうぼうの状態に放置していることに苦情を言われました。

コミュニティ・ファームの周囲は,まるで教科書に出てくるような,完璧な「慣行農法」で,雑草1本も生えていない耕地なのです。

実際,見ていると1つの作物の収穫が終わるとトラクターできれいに整地し,草1本も生えてない状態にすると,すぐに病虫害を防
ぐために土壌消毒をしています。

その農家の方の苦情というのは,私たちの畑の雑草の種が周囲に飛び散って,せっかくきれいにした彼の畑に雑草をはびこらせてしまう,
ということでした。

これには,大変申し訳なく感じ,それからせっせと雑草刈りをしましたが,実際にはもう手遅れで,雑草のタネが飛び散る前に,草を
刈っておかなければならいないのです。

自然農を行う人は,ともすると,独りよがりな自己満足に陥って,自分は素晴らし農業をやっているんだ,と言わんばかりな気持ちに
なりがちですが,周囲への迷惑のことも決して忘れてはならなないな,とつくづく思った次第です。
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