大木昌の雑記帳

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天才棋士・藤井聡太の衝撃と魅力―天才が経験と知識が吹き飛ぶ―

2018-02-04 09:26:42 | 思想・文化
天才棋士・藤井聡太の衝撃と魅力―天才が経験と知識を吹き飛ばす―

昨年から、将棋がにわかに世間の脚光を浴びています。

言うまでもなく、天才棋士・藤井聡太君の登場がきっかけでした。

全ては、一昨年の12月24日、将棋界の最年長者の天才プロ棋士、加藤一二三氏と、当時は14才で最年少のプロ棋士
になったばかりの藤井4段との対局で、藤井4段が勝ったことから始まりました。

これは鮮烈な印象を世間に与えたデビュー戦でした。

以後、破竹の勢いで上級者、ベテラン勢を負かし続け、ついに、これまでの連勝記録28を破って29連勝を達成してし
まいました。

それ以後、今日までの記録が、これまた尋常ではありません。

現在、勝ち数でも勝率でも、全棋士の中でトップなのです。

2月1日に行われた対局で勝って、またまた記録を破り、中学生(15才)で5段に昇段したのです。

厳密な意味では加藤一二三氏の方が月数で、わずかに早く5段に昇段しましたが、かれは早生まれのため、高校1年生と
いうことになります。

プロになって1年、中学生が5段になる、という事実に私は衝撃を受けました。

テレビやインターネットでは、対局中に藤井君が昼食や夕食に何を注文したかが、“速報”として流れてきます。すると、
対局場に観戦に来ていた人や近くの人が、どっとその店に押しかけ、直ちに長蛇の列となってしまいました。

もちろん、同じ店の同じものを食べるためです。

また、2018年1月号(17年12月発売)女性誌『家庭画報』は、付録に将棋盤と駒をつけたところ、たちまち完売
となったそうです。

街の将棋教室はたちまち申込者が殺到し、第二、第三の「藤井」を目指す少年・少女棋士で盛況を極めているようです。

藤井少年が小さい時、キュボロという玩具でよく遊んだという話が伝わると、注文が殺到し、いまでは数か月待っても買
えない状態です。

また、藤井少年が通った「モンテッソーリ」という自由な教育方針をもつ幼稚園に通った、と聞けば、各地のモンテッソ
ーリへの問い合わせが急増しました。

こうなると、もう、完全に「藤井現象」ともいうべき社会現象です。

その特徴は、子どもは言うまでもなく、大人も女性も藤井現象の熱気に煽られている感じです。

私自身は囲碁のファンで、囲碁番組はよく見ていますし自分でも実際に碁を打ちますが、将棋にはあまり興味はありませ
んでした。

ただ、多くの囲碁ファンがそうであるように、将棋の指し方は一応知っていて、将棋の一手・一手の意味はわかります。

私が、藤井新五段に関して、感動するのは、以下の4点です。

まず、中学生とは思えない、落ち着きと冷静さをたたえていること。これは、とうてい中学生とは思えない淡々とした雰
囲気を対局中に漂わせています。

次に、中学生の口から、「自分にとって望外なので、素直にうれしい」あるいは「自分の実力からすれば僥倖としか言い
ようがない」など、普通の大人でさえめったに使わない難しい言葉が、すらすら出てくるところに彼の教養を感じます。

三つは、現在、コンピュータのAI(人口頭脳)・ソフトを使っての研究は棋士の間では当たり前ですが、藤井君の場合
は、その使い方がちょっと普通ではありません。

あるテレビ局の記者に、藤井君もコンピュータを使っての研究をしますか、と問われて、「最近やるようになりました」
と答えたあとの、その理由に私は、驚きました。

彼によれば、コンピュータ・ソフトを使うのは、コンピュータによって新手や妙手を発見するためというより、それで研
究している棋士への対応策を考えるためだというのです。

これも普通の発想ではありません。コンピュータで研究している棋士の一枚、上をいっている印象を受けました。

最後に、私は、29連勝した時の対局も、今回5段に昇段した時の対局も、その他の対局もテレビやインターネットで見
てきました。

彼のすごさは、上級の解説者でさえ思いつかない思い切った手を打つことです。しかも、打ったその時は、この手にどん
な意味があるのか分からないような手が、実は相手を負かす重要な手であったことが、ずっと後になって判明することが
しばしばあります。

もう一つ、藤井将棋の魅力は、リスクをおかしながらも、最速の勝ちに向かって直進してゆく勇気と読みの確かさです。

普通の棋士は、自分の方が有利で余裕があれば、多少、遠回りでも安全・確実に勝つ手を打ちます。つまり「安全勝ち」
を目指します。

しかし藤井君は「安全勝ち」ではなく、敢て危険を冒してまで最短の詰みを目がけてまっしぐらに突き進んでゆきます。

もし、少しでも自分の読みに間違いや見落とし、さらには自分の考えの上を行く手を相手が打ってきた場合には、あっと
言う間に逆転してしまいます。

このような緊迫した場面でも、彼はあくまでも冷静に勝負の展開を読み、そして結論がでると、一気に攻めて勝ってしま
います。

これこそが天才の天才たるゆえんでしょう。

見ている方はハラハラしますが、本人は最後の勝ちまでを読み切った、いわゆる「読み切り」の状態にあるのです。

プロになったばかりの中学生が、8段とか9段のベテラン棋士にはかなうわけはないと、考えるのが普通でしょう。

というのは、これらベテラン棋士には長年にわたって培った知識と経験、熟練、対局観などがあるからです。

しかし、藤井君のような天才が出てくると、こうした知識や経験などどこかに吹っ飛んでしまいます。

今や、4段より9段の方が強いとは言えないのです。

将棋から他の分野に目を移してみると、同じようなことがあちこちで起こっています。

男子卓球の張本選手(14才)は、リオ・オリンピックで個人銀メダルの水谷選手(27才)に引退を考えさせてしまう
ほど圧倒的な強さで破ってしまうし、女子卓球界では、福原愛選手はもう、遠い過去の人となり、これまでのホープだっ
た石川佳純選手(27才)は、伊藤美誠選手(17才)、平野美宇選手(17才)には勝てなくなっています。

スノーボードでもスキーのジャンプでも、つい2~3年前まで日本のトップ・アスリートが、若手、しかも10代の選手)
に勝てなくなっています。

これは実に残酷な現実です。

アスリートの世界では、世代交代が急速に進んでいますが、いわゆる全盛期というもが、非常に短くなっています。

再び、藤井君に戻ると、もはや長年にわたって培ってきたベテラン棋士の経験と知識は、天才によって情け容赦もなく吹き
飛ばされてしまいます。

昨年、佐藤現名人が藤井四段に敗れた時の、佐藤名人の心中はどのようなものだったのだろうか?

今後の藤井君が才能に加えて経験と知識が蓄積されてゆくと、どこまで伸びるのか、これからが楽しみです。




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