大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

「森友問題」の本質と暗い闇(3)―追い詰められているのはどっち?

2017-04-02 14:28:55 | 社会
「森友問題」の本質と暗い闇(3)―追い詰められているのはどっち?―

政府・自民党は、籠池氏の国会証言を経て、とりわけ100万円の寄付と、安倍晋三記念小学院の名前を印刷した寄付の依頼用紙
に関して、偽証の可能性が強まったので、国政調査権を視野にいれて証拠を集める、と息巻いています。

しかし、政府は、自分たちの言っていることの客観的な姿と意味を本当に分かっているのでしょうか?

事の本質は、なぜ籠池氏の小学校設立が、異例の速さと甘い条件で「認可適当」になったのか、また、国有地の売却価格がなぜ、
8億円も値引きされたのか、という根本的な国民の疑惑にたいして国政調査権を発動しないで、寄付の問題と寄付依頼用紙の問題
に国政調査権を発動する、というのは、いかに政府が焦っているかを自ら曝露しているようなものです。

政府(とりわけ官邸)がこれほど焦っているのかにはいくつかの理由があります。

一つは、政府側の誤算です。今回の国会喚問で、籠池氏はさすがに偽証罪に問われることを恐れて、しどろもどろになって、喚問
の場で彼がいかに信用できない人物であるかを国民の前にさらそうとしたのに、籠池氏はまったく動ずることなく従来の主張をは
っきりと述べました。これは、大きな誤算だったでしょう。

自民・公明・維新の議員が執拗に問い質しても、「事実は小説よりも奇なりです」とか、「私の言っていることが正しゅうござ
います」と言い切って、追及をかわしています。

これには、追及した議員たちも、反撃する言葉をとっさに失ってしまいました。

たしかに政府側は、偽証の「しっぽ」くらいはつかんだでしょうが、もし告発することになると、偽証を証明しなければならず、
少なくとも証人として、安倍昭惠夫人、財務省幹部、国交省の担当者も籠池同じ土俵の証人喚問に出る必要があります。これは、
安倍内閣としては到底受け入れられないでしょう。

しかも、たとえ国政調査権を行使して調べても、寄付がなかったことを明らかにできる保証はありません。

自民党の西村議員は、籠池氏が偽証罪に問われる可能性を語ったことに対して、籠池氏の弁護士は、3月31日付で抗議書を西村
氏に送付しました。「籠池氏は自己の記憶に忠実に、質問に答えた。偽証はしていない」と。西村議員らの発言について「法的根
拠を欠き、名誉毀損(きそん)だ」として、撤回を求めています。西村氏はどう対応するでしょうか?

ある閣僚経験者は「官邸の圧力でやっているだけ。告発するつもりはないだろう」と指摘しており、自民党幹部も「問題が収束し
かけているのに、また注目されてしまう」と、むしろ告発に懸念をしめしています(『東京新聞』、2017年3月30日 朝刊)

二つは、事のなりゆきによっては、安倍政権にとって命取りになりかねない事情があるからです。

安倍首相は、この問題が発覚した直後の2月17日の衆院予算委員会では強い口調で、「私や妻が関係していたとなれば、首相も
国会議員も辞めると申し上げておきたい」と、強弁しました。これは、もう決して取り消しできない重大な発言でした。

そこで、首相サイドは安倍首相および昭惠夫人と、国有地売却の問題とは無関係であることを主張し安倍首相を必死に守ろうとし
ます。

まず安倍首相は、籠池氏との関係さえ否定しようとし、2月28日の参議院予算委員会で、籠池氏とは「一対一や少人数で会った
ことはない。個人的な関係は全くない」と語っています。

しかし、民法が放映した、2014年12月の塚本幼稚園での講演会の動画で昭惠夫人は、「(籠池氏から)主人にお手紙をいただい
たり電話でお話ししたり、実際にお会いしていただいたりもしていた」と話していました(『東京新聞』2017年3月17日)(注2)。

昭惠夫人が嘘をついているとは思えないので、この点では安倍首相は嘘をついていることになります。

また、籠池氏の怒りが爆発したと思われる、安倍首相の籠池氏に対する「しつこい」んです、という言葉から、籠池氏とは何度も話
したことがあることは確認できます。

ただし、例え会ったことがあったとしても、問題はないのに、安倍首相は「会ったことはない」と断言してしまうので、問題になる
のです。

昭惠夫人は森友学園が経営する「塚本幼稚園」で2015年9月5日に講演し、そこで森本学園の愛国主義的な教育方針を絶賛し、瑞穂
の國小学院の設立を大いに激励しました。これも道義的には疑問はあるが、法的には問題ありません。

深刻なのは、今回の国有地売却にたいする昭惠夫人の関与の有無です。ここが崩れると、安倍首相は公言した通り首相と議員を辞任
しなければならないからです。

ここで重要になるのが、喚問の場で籠池氏が言及した、首相夫人付の谷査恵子氏から籠池氏の陳情の手紙(10月26日)に対する返
事として送られたファックスで(11月17日)、これは昭惠夫人の関与を匂わせます。

ファックスは4項目、2枚にわたっています(注1)。

そのファックスの前文で、
    先日は、小学校敷地に関する国有地の売買予約付定期借地契約に関して、資料を頂戴し、誠にありがとうございました。
    時間がかかってしまい申し訳ございませんが、財務省本省に問い合わせ、国有財産審理室長から回答を得ました。
    大変恐縮ながら、国側の事情もあり、現状ではご希望に沿うことはできないようでございますが、引き続き、当方とし
    ても見守ってまいりたいと思いますので、何かございましたらご教示ください。

ここでわかることは、首相夫人付(通産省から出向)の官僚が、財務省の国有財産審理室長に問い合わせ、回答を得ていることです。
しかも、一般の個人が問い合わせても、ここまで親切に答えることはないでしょう。ここで「当方」とは昭惠夫人の「バックアップ」
チームを指すものと解釈すべきでしょう。

さて、このファックスは、籠池氏が谷氏を通じて昭惠夫人に陳情した、①10年の定期借地の是非、②借地期間を50年に延ばしてほ
しい、③汚染や埋設物の撤去期間に関する賃料を半分くらいにして欲しい、④これまで森友学園が立て替えているゴミの撤去費を早く
返して欲しい、という点に関する回答でした。

以上にたいして、ファックスでは、①と②については、規則上できない、③については無回答です。ただし、(今は賃料を下げること
はできないが)「買受の際に考慮される」としています。

ここまでの記述で、半年後には、賃借料は実際に半額に減額され、土地の価格は9億5600万円から1億3400万円で8億円以上の
値引きが行われました。

以上の3点は、財務省管轄でしたが、4点目は少し性格が複雑で重要な内容です。ファックスでは以下のように書かれています。
    
    (4) 工事費の立て替え払いの予算化について
        一般には工事終了時に清算払いが基本であるが、学校法人森友学園と国土交通省航空局との調整にあたり、「予算措
        置がつき次第返金する」旨の了解であったと承知している。平成27年度の予算での措置ができなかったため、平成
        28年度での予算措置を行う方向で調整中。

ここでは、「一般には」と書かれていることから、今回の事案は特別である、との認識が財務省側にあったことが分かります。

次に、財務省が、この立て替え払いに関する当事者である国土交通省との調整に動き、その結果、平成27年度では予算措置はできな
いが28年度予算で「調整中」と書いてある点です。

官僚の世界で、省庁を越えて調整に乗り出すことはあり得ません。そして、「調整中」とは、官僚用語で言えば、「話がついている」
ことを意味します。

これをみても財務省が昭惠夫人側からの問い合わせに、積極的に動いていることが分かります。

安倍首相も菅官房長官も、このファックスは安倍夫人付の谷さんの個人的な文書であり、昭惠夫人と何の関係もない、と繰り返して弁
明しています。

しかし、谷氏がファックスを送った時間は、午後5時4分か5分、つまり勤務時間内です。その時間に個人的な文書を作成し、公用の
ファックス(電話器)を使って送っていたことになります。そうだとすると、これは公務であるか、谷氏の公私混同になります。

財務省は、一般の人から、こうした問い合わせに親切に答えることは通常の業務だといっていますが、翌年度の予算措置まで、自ら国
交省と調整すること、決して一般人にたいして行うことではありません。この答弁には嘘があります。

夫人とは言え、昭惠氏の背後には安倍首相がおり、谷氏の安倍首相夫人付という肩書は官僚の対応に大きな影響を与えたはずです。

最後に一つ指摘しておくと、このような「問い合わせ」を、昭惠夫人に何の相談もなく行うことは、官僚の世界では絶対にあり得ません。
やはり、ここには昭惠夫人の、森友学園にたいする思い入れがあったと考えるのが常識でしょう。

一方の籠池氏には、これ以上失うものは何もなく捨て身で事に当たっています。対して首相と昭惠氏は失うものが多くありすぎます。

私には、追い詰められているのは、官邸と官僚の方であると思えます。

次回は、今回の一連の問題の全体の構図をどう理解すべきかを、私の個人的な意見を中心に書いてみたいと思います。

(注1)この動画は見る音ができませんが、この時の写真(テレビ画面を写したものと思われる)は、
     http://xn--nyqy26a13k.jp/archives/27485
    で見ることができます(2017年4月1日閲覧)。
(注2)籠池氏は後に、ファックスの全文のコピーを配りました。その写真版は、The Huffington Post | 執筆者: ハフィントンポスト編集部
    (2017年03月23日 18時18分 JST 更新: 2017年03月23日 20時17分 JST)で見ることができる。
     http://www.huffingtonpost.jp/2017/03/23/moritomo-gakuen_n_15558714.html
(注3)『毎日新聞』デジタル (2017年4月1日)
 http://mainichi.jp/articles/20170401/k00/00e/040/230000c?fm=mnm


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする