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「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」~世界最高峰のピアニストの素顔に迫る~

2014-10-25 23:33:24 | 地球おんがく一期一会


ラグビー観戦のない週末。ということで浦和のユナイテッド・シネマに映画を観に行った。タイトルは『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』で、世界最高峰のピアニストのひとりとして名高いマルタ・アルゲリッチの「素顔」を三女のステファニー・アルゲリッチ(監督と撮影)が捉えた作品。

マルタ・アルゲリッチは1941年にアルゼンチンのブエノスアイレスで生まれたピアニスト。10代でデビューを果たしているが、1965年のショパンコンクールで優勝したことで世界的に有名になり、以後世界のトップピアニストであり続けている偉大な音楽家だ。ちなみにステファニーはアメリカ出身のピアニスト、スティーブン・ビショップ・コヴァセヴィッチとの間に生まれている。



しかし、彼女の人生を音楽記号に置き換えると、「恋愛」→「結婚」→「出産」→「離婚」のサイクルをリピート(繰り返し)記号で括ったような感じになってしまう。それも、繰り返しは3回以上あり、旋律はそのたびに変化する。また、「結婚」と「離婚」が「同棲」と「破局」になっている場合もある。

とまあ、こう書いただけでも映画にするには辛すぎる内容。もし、現在のクラシック音楽界で10指に入るピアニストの名前がキーワードになっていなかったら、観に行く方も痛い映画になってしまう。実際にオープニングで登場するご本人のありのままの姿を観るとファンはショックを受けるかも知れない。とうに白髪のお婆さんになっていることは知っていたけれど、まったく偉大な音楽家の生涯を描いた映画らしくない始まり方になっている。

でも、そこが実の娘であるステファニーの狙いでもあるのだ。世界中で絶賛され続けている「雲の上の人」をずっと間近に見てきて、インタビューにも一切応じることのない母親の素顔を知ってもらうことが映画製作の動機でもあるようなのだ。実際、世界的なアーティストが自身の姿をさらけ出すことに躊躇していないのだが、そのことは彼女の音楽そのものでもあることがわかる。



アルゲリッチのピアノ演奏から聴かれる音楽の魅力は、ほとばしる感性をありのままに爆発させたかのような情熱的なところ。プロの演奏家が何十年も積み重ねて得るものを、何事もなかったかのように一瞬にして自分のものにしてしまう。装うことを知らないし、また、できない。映像から伝わってくる姿と音楽が(レベルは度外視して)ぴったりと一致するから不思議。おそらく、その場での閃きを正確に音にできるようにテクニックに磨きをかけた人なのだと思う。

アルゲリッチ生体験は一度だけある。ギドン・クレーメルとの来日公演で聴いたバルトークのヴァイオリンソナタは衝撃的だった。興奮の極みに達した瞬間、身体の中に電気が走ったような感じになったのは、このときが最初で(おそらく)最後。でも、実は曲が始まる前に指ならしにパラパラと弾いたバッハ風のフレーズがものすごく魅力的だったりした。どうかこのまま止めないで続けて!と叶えられるはずのない願いを込めてしまった。

さて、この映画のもっとも感動的なシーンは、フィナーレでそれぞれ父親の違う3人の娘達が母親を囲んで一同に会する場面。複雑すぎる過去を振り返ると言うよりも、母親の愛情を介して、本来は会うことさえ難しいはずの3人が、前向きに生きていこうよというような未来志向の爽やかなエンディングが強く印象に残った。

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