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専修大学 vs 日本大学(関東大学春季大会グループC-2016.06.05)の感想

2016-06-07 02:20:07 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


スーパーラグビーの「サンウルブズ・ロス」の週末はやはり物足りない。しかし、関東大学ラグビーの春季大会が同時並行で進んでいるので寂しくはない。この大会は優勝したからといって表だって「いいこと」があるわけではない。しかし、だからこそチーム作りには最適の大会と言える。トレーニングマシンを相手の格闘も重要だが、実戦を通じて足りないところを自覚しながら練習に励む方が楽しいはず。この日は遠隔地の試合も含めると全部で8試合が組まれている。さて、何処に行くか?

稲城の日大の試合にするか法政グランドの拓大の試合にするか迷ったが、専修と日大の因縁の対決の方を選んだ。1部復帰を果たしたもののまったく安心できない日大に対し、残念ながら再昇格にチャレンジとなってしまった専修。どちらにとっても対戦相手は春の1つのターゲットといっていい重要な試合を見逃す手はない。専修のセブンズ仕込みのパス回しの巧みさもさることながら、日大もFWゴリゴリではなくパスに活路を開くラグビーを指向しているから、両チームの持ち味が活きればボールが大きく動くラグビーになるはず。そんな期待を胸に、久しぶりとなる稲城の日大グランドに向かった。

日大グランドの最寄り駅は京王線の(稲城ではなく)若葉台。かつては鋼板塀が目立った駅前も整備がすっかり終わり、モダンな街へと変貌を遂げていたことにまずは驚かされた。駅を降りてからは線路沿いに歩いてグランドに向かうが、ここはかつてと同じカントリーロードで一安心。しかし、グランドの入り口に着いたところでまたビックリ。「HURRICANES」のロゴが浮かび上がる立派なクラブハウスはかつてなかったもの。さらにしばらく歩いてグランドに着くと仮設のスタンドも用意されていた。以前は丘の上の木の間から試合を観ていたことを思うとこれも嬉しい。

思い起こせば、このグランドが出来たときのピッチは天然芝だった。大学選手権ベスト4進出も果たし、明るい未来が描けていたのが当時の日大。リーグ戦グループの1部校では関東学院に次いで芝生のグランドを持ったことで大きな飛躍が期待されていたことを思い出す。しかし、そんなこととは裏腹に、その後の日大は苦難の連続でなかなか上位に浮上できずにここまできてしまった感が強い。

新体制になって(何度目かの)再出発を期す日大に対し、12月には再び歓喜の嵐に浸りたい専修。両チームのメンバー表を眺めても正直なところお馴染みの名前は殆どない。日大は昨シーズンが最終学年だったキテを最後に留学生はすべて卒業した。試合前のアップを観ていると専修が纏まって効率的に身体を動かしているのに対し、日大はどちらかと言えば伸び伸びムードと対照的。戦前に頭の中に浮かんだのは、専修のアタックに日大が翻弄される光景だったのだが...



◆前半の戦い/日大の鮮やかな先制パンチの連打に出遅れた専修

初夏にしては涼しめの天候でやや強い風が心地よく感じられる。そして、なんとか雨も上がり安堵。ホームの日大のキックオフで試合が始まった。セブンズ仕込みのパスラグビーを信条とする(おそらく)の専修が自陣から果敢にアタックを試みるが、日大のディフェンスに遭ってノットリリースの反則。日大は専修陣ゴール前のラインアウトからモールを形成してゴールを目指すがアクシデンタルオフサイド。専修はタッチキックでいったんピンチを脱する。

3分、日大は専修陣10m付近のラインアウトからオープンに展開してアタック。9シェイプで接点を順目に移動させながらBKに展開とシンプルなスタイルだが小気味よいアタックで専修を脅かす。ここで早くも日大のキーマンはSH李とわかる。昨シーズンにデビュー(おそらく)を果たした遅咲きのSHでインパクトプレーヤー的な活躍が目立った有久と併用されていたと記憶。テンポよくボールを捌き、ミスがないため確実にボールが前に運ばれる。ここでも日大にスローフォワードがあり専修はピンチを脱するが、本来自分達がやりたいことを日大にやられてしまっている感が強く、防戦一方となる。

5分、日大はスクラムを起点とした相手キックに対するカウンターアタックからラインブレイクに成功して一気に専修陣奥深くへ。ここからしっかりオーバーラップを作って右WTB竹澤がゴール右隅に走り込む。右サイドの難しい位置からのGKをSO金が確実に決めて日大が幸先よく7点を先制した。日大の鮮やかな先制パンチに動揺が走ったのか、専修はキックオフでダイレクトタッチのミス。これはやってはならないミス、トップスリーの筆頭であり、相手のセンタースクラムからのアタックは高い確率で失点に繋がる。日大はエリアを取るキックを選択し、専修陣22mでバウンドしたボールがタッチを割るが、ここでも専修に痛いミス。ラインアウトのボールを日大にスティールされて確実にボールを繋がれ、WTB竹澤が早くも2トライ目を記録。GK成功で日大のリードは14点に拡がる。



勢いに乗る日大が完全にペースを掴んだ。15分には専修陣10m/22mの位置でのラインアウトからモールで前進。今度はFWで確実にボールを前に運び、最後はHO徳田がトライ。SO金の左足によるキックは安定しており、日大のリードは21点となる。日大のFWのキーマンは長身LOの孫(193cm、97kg)。現在サンウルブズで活躍するOBの細田を太めにした感じの選手だが、高さだけでなくフィールドプレーでも光る選手であることがその後分かる。専修はその後もたびたびラインアウトでマイボールをミスしたのも、スローイングが不安定だったことがあったにせよ、孫の高さが効いていたことは間違いない。

このまま日大が突っ走ってしまうかと思われたが、ボールを支配する時間帯が長かった日大の方にオーバーザトップやハンドなどブレイクダウンでの反則が目立ち始める。必然的に専修に日大陣でのラインアウトのチャンスが増えていくが、上で書いたようにマイボールをスティールされたり弾かれたりと殆どチャンスを活かすことができない。また、モールに持ち込んでも日大のモールディフェンスが機能したためゴールは遠い状況が続く。しかし元来BKのパス回しの巧さを持ち味とするのが専修。22分、日大陣10m/22mのラインアウトをクリーンキャッチしてボールを一気にオープンに展開。ここでCTBが絶妙のフェイクを入れてラストパスをWTB夏井に渡す。GKも成功して7-21と専修が一息ついたかっこう。

ゲームがようやく落ち着いたところで、専修が徐々に持ち味を発揮し始める。日大はテンポよく攻めるものの、あと一歩のところで反則を犯してチャンスを潰すが、専修もラインアウトが不調。そのため得点板が動かない拮抗した展開となったとも言えるのだが、前半も終盤に入った32分に専修が1トライを返して点差を縮める。専修はHWL付近のラインアウトからボールをいったんオープンに動かした後、反転してショートサイドを攻めてフリーとなったFB田辺が左サイドを一気に走り抜けてトライ。GKは失敗するが12-21と専修のビハインドは9点となる。このまま専修が後半に望みを繋ぐ形で前半が終了。両チームともBKでのパス回しに活路をひらくチームとはいえ、FWでのゴリゴリが少なくボールが大きく動く試合はやはり観ていて楽しい。



◆後半の戦い/先手を取りたかった専修だが、テンポよく攻める日大優位の展開は変わらず

シンプル・イズ・ベストでテンポよく攻める日大が優位に試合を進めた前半。しかし終わってみれば日大のリードは9点で終わっているのが意外だった。後半に逆転を期す専修としては、先手を取って日大にプレッシャーをかけたいところ。後半は専修のキックオフで開始。専修は日大の蹴り返しに対するカウンターアタックからFB田辺が大きく前進、パスを受けたWTB夏井が日大ゴールに迫る。この日一番というくらいに専修の応援席が盛り上がるが、夏井はあと一歩というところでタッチに押し出されてしまう。ピンチを脱した日大は7分、自陣10m付近のスクラムを起点としていったんショートサイドを攻めた後、SH李からパスを受け取ったPR1の金大毅が一気にゴールまでボールを運ぶ。GKも成功して28-12と日大が専修を引き離す。

試合の流れは完全に日大に傾くかと思われた。しかしながら、専修に起死回生の一撃が生まれる。キックオフされたボールを日大が自陣から蹴り返したところでチャージに成功。SO小田が日大ゴールにあと一歩まで迫ったところで日大に反則。専修は間髪入れずに攻めてPR3古屋主将がトライを奪いGKも成功して19-28。後半も接点での反則が目立つ日大は、一転して自陣22mからなかなか脱出できないピンチの連続となる。専修はFWに拘りをみせてラインアウトからモールを形成してトライを狙うものの、日大の粘り強いディフェンスの前になかなかゴールラインが超えられない。

FW主体で攻める専修に対し、FW8人の結束で堪える日大といった形で日大陣22m内での攻防が続く。あと一歩が超えられない専修の選手達に対し、応援席からの声援は一際高まるものの、ここでも明暗を分けたのがラインアウト。24分、日大陣ゴール前で専修がまたしてもマイボールをスティールされて万事休した。それでも日大のピンチは続く。27分、日大のFL山田が反則のくりかえしによりシンビンを適用されたことで、日大は残りの殆どの時間帯を14人で戦うことになった。

29分、専修は日大ゴール前で得たPKでスクラムを選択し8単からゴールを目指すが惜しくもパイルアップ。やり直しのスクラムで再度ゴールを目指すもののパスが甘くなったところを狙われて痛恨のインターセプト。ボールを確保したWTB星野は快足を飛ばして一気に専修ゴールまで到達。GK成功で35-19となり、残り時間からも日大の勝利がほぼ確定。専修がひとつ取っていれば逆転に繋がるトライだっただけに悔やんでも悔やみきれない。37分、日大はさらに1トライを追加して遂に40-19のダブルスコアとなる。ここまで100%の成功率だったGKは失敗に終わるものの、SO金の安定したGKが日大に勝利に華を添えた。



◆試合終了後の雑感

試合前の私的予想は「専修が日大のディフェンスを翻弄」だったが、始まってみれば主導権を握ったのは戦術を固めて積極果敢に攻めた日大。何となくだが、試合前のアップで自信を持っているように見えたのは専修の方だった。おそらく、専修は「自分達のラグビーができれば勝てる」と踏んでいたのではないだろうか。だから、開始直後から受けに回り防戦一方となってしまったことで選手達は動揺したのかも知れない。そう考えると、先制された後のキックオフのミス(ダイレクトタッチ)が本当に痛かった。

もちろん、ラインアウトの絶不調もあったが、15分間で3連続失トライを喫してしまったことが専修の歯車を狂わせたと言える。また、BKへの展開を持ち味とするチームがFW戦に拘った時間帯があったことも疑問。日大の戦術が一貫していたのとは対照的だった。日大の反則多発(前半5つ、後半8つの計13個)がなければもっと点差が開いたかも知れない。力が拮抗していれば、メンタルの差が明暗を分けるラグビーの怖さを観た想いがした。



◆再スタートに向けて視界良好の日大

新体制となることが伝えられてもなかなかスタッフが発表されないなど、不安を抱かせた日大の(今度こその)再スタート。しかし、この日の溌溂とした戦いぶりを観て、そんな不安は払拭された。突出した選手が居ないことで15人の纏まりで勝負するチームになっていることがプラスに作用していることは間違いない。かといって、組織に縛られたような窮屈さはなく、選手個々が役割を果たす形で伸び伸びとプレー出来ているように感じられた。旧体制の頃とは明らかにチーム内の空気が変わったとみていいと思う。

もちろん、ブレイクダウンでのプレッシャーが強力で、個々の強さもある上位校との対戦を考えた場合、日大はこのラグビーを遂行するにはパワー不足と思われる。しかし、ここまでに観てきた流経大、大東大、法政と比べると実はチームの基盤が一番出来ているが日大という印象を持ったことも事実。まだ潜在能力の段階だが、選手1人1人を見ていると結構個性派揃いという印象も受ける。それと、この日も印象に残ったパス回しは旧体制時代の遺産。選手起用法などいろいろと考えさせられところがあったとはいえ、いい部分もあるはずでそこは活かすべきだと思う。

◆余談ながら

日大の新体制では元監督の阿多氏を支えた人達が「復活」を担うことになるようだ。伊藤武コーチは流経大OBだが、1部昇格2年目の年に主将としてチームを引っ張った選手だったことをよく覚えている。そして、おそらくは対戦相手としての日大の強さを身をもって体験したはず。伝統を重んじるチームほど外部の血を導入することに躊躇があるようだが、チーム再建を考えるなら、チームの強さやいい部分を外から客観的に見てよく知っている外部の人材を活用することを選択肢に入れてもいい。懐かしい人の名前を目にしてふとそんなことを思った。

ラグビーマガジン 2016年 07 月号 [雑誌]
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インビクタスからサンウルブズへ/ラグビーが結ぶ点と点(2)

2016-05-31 02:21:52 | 頑張れ!サンウルブズ


スーパーラグビーの第14節でサンウルブズはブランビーズに惨敗し、遂に10敗目を喫した。ウィンドウマンス明けに行われる残り3試合も厳しい相手で最下位の可能性がより高まったと言える。しかし、悲観的な材料だけではない。少なくとも、春シーズンに最高レベルのラグビーを楽しめるのは過去にはなかったことだし、1戦1戦を大事に戦うことで日本のラグビーに足りないものを明確にしてくれる。もしもサンウルブズがなかったら、そしてその可能性はけして小さくなかったことを思うと、2015年9月19日は永遠のメモリアルデイになるだろう。

この日、英国ブライトンで起こったこと、すなわち、第8回ワールドカップでの南アフリカ戦勝利は世界から見ると「史上最高の番狂わせ」だが、日本のラグビー関係者の立場からは日本のラグビーを救ったという意味で「世紀の大勝利」に他ならない。思い起こせば大会前、日本のラグビーの実情を知る人ほど将来に対する希望が持てない状況になっていたことを考えると、その思いがより強くなる。

件のワールドカップ開催が目前に迫った某日、印象に残ることがあった。NHKラジオの夜の番組の「ワールドネットワーク」を偶然聴いていた時だった。海外在住の日本人に電話でインタビューをしてその土地の話題を語ってもらう番組で、海の向こうで受話器を握っていたのは南アフリカ在住の日本人女性。NHKのアナウンサー(男性)が「南アフリカではどんなことが話題になっていますか?」と問いかけたとき、「今は国中がラグビーのワールドカップの話題で持ちきりになっていますよ。」と。続けて「日本でも南アフリカの選手がトップリーグで活躍していますね。例えばサントリーにデュプレア選手(以下、チーム名と選手名がスラスラと出てくる)が所属していますし。」

ここで、アナウンサー氏の反応が「そうですね、南アフリカの強力な選手達の活躍は日本でも大きな話題になっています。」と答えることが出来れば100点満点だった。しかし、氏が海の向こうから電話回線を通じて届く熱い気持ちに殆ど答えられないでいるのが、ラグビーファンとしてはもどかしかった。そして、決定打がでてしまう。「ところで、南アフリカはどのくらい強いのですか。」 もうラグビーファンなら卒倒しそうな質問。中には頭に血が上って、「そんなこと(南アフリカが世界の最強国のひとつであることはラグビーに留まらず世界スポーツ界の一般常識)も知らないのか。」と抗議の電話の1本も入れたかも知れない。

しかし、アフリカ大陸の最南端にいる日本女性は賢明だった。おそらく、普段から彼の地と日本ではラグビーに対する空気がまったく違うことを肌身で感じて居たのだと思う。アナウンサー氏が抱いた素朴な疑問に丁寧答えることで、ワールドカップに日本が出ることや、緒戦の相手が南アフリカであること等を日本のリスナーに伝えてくれたのだった。今となっては笑い話だと思うし、件のアナウンサー氏も同じ機会が訪れたら、「日本に敗れた南アフリカですが、その後のチームの状態はいかがですか?」という質問が普通にできるようになっているはず。

こういった日常の一コマを見ても、ラグビーが宗教とも言われている国との間には体感以上の温度差があったことは間違いない。だから、南アフリカに勝利したことは想像を絶するくらいに大きな出来事だった。その後にサンウルブズが無事出陣できたことも「南アフリカ効果」のひとつと言って間違いないだろう。さらに言えば、日本にとって南アフリカがけして遠い国でなくなったことも大きい。

■映画『インビクタス』のこと

原作を読み終えた後、録画しておいた『インビクタス』を改めて観た。1995年に南アフリカが開催された第3回ラグビーワールドカップの決勝戦、すなわち南アフリカがひとつになった瞬間に至るまでの数年間を切り取って映画化したのがこの『インビクタス』。原作はそこに至るまでの苦難の道程をネルソン・マンデラの「戦い」を通して克明に描いているが、映画はそこにはあえて触れていない。

オープニングでは、道路を隔てて立派なグランドでラグビーの練習に励む欧州系の少年たちに対し、荒れたグランドでサッカーに興じているアフリカ系の少年たちの姿が描かれている。そこに通りかかったのが、大統領に就任したマンデラたちを乗せた車列。道路の両端でのまったく違った反応、方や熱烈な歓迎、方や「誰だ?何故騒ぐ?」の冷めた反応といった具合に、示唆に富んだ場面が続く。あえて細かい説明は避けて、観る者に「何か」を感じさせるスタンスでこの映画は作られている。

終盤の最高のクライマックスシーンもさることながら、スタジアムで熱狂する観客の姿が実際に試合を観ているかのように再現されている場面に驚かされた。試合の場面からは近接撮影ならではの肉体のぶつかり合いの迫力が伝わってくる。やはり、マンデラその人になりきっているモーガン・フリーマンが素晴らしい。そして、ピナールを演じるマット・デイモンも。最初に観たときに、ひときわ印象に残ったのは、この2人が出逢う場面。大統領が主将に託した使命を思うと、日本代表のキャプテンにここまでの重圧がかかることは今後もおそらくないだろう。それは、日本にとって幸せなことに他ならないのだが、スプリングボクスだけでなく、オールブラックスもたぶん同じなんだろうなと思った。

そして改めて感じたことは、この映画の製作にはアメリカの巨大資本と有名監督(クリント・イーストウッド)が必要だったということ。資金の問題は別にしても、南アフリカのスタッフで撮ることは困難だし、原作者の母国である英国のスタッフで撮ることも困難。人種問題を抱えるアメリカで、かつ有無を言わさずという力がある有名監督でなければ撮ることができない映画があることを実感させられた。そして、さりげないカットの中に込められたメッセージを読み取ることで、その背景にあるものに興味を抱かせる。2時間あまりという限られた時間の中で、「マンデラと南アフリカの知られざる物語」に目を向けるようにすることがこの映画の隠されたミッションでもあるのだ。

■原作『プレイイング・ザ・エネミー』のこと

映画『インビクタス』は上でも書いたように、ジョン・カーリンの “Playing The Enemy”の中のハイライトシーンを切り取って映画化したもの。原作はネルソン・マンデラが類い希なる人間的魅力と巧みな戦略により、如何にして「敵」を味方につけていったかを描いたヒューマンドキュメント(ノンフィクション)になっている。南アフリカをひとつに纏める困難な作業の最後の切り札になったのがラグビーだったわけだ。ラグビーファンはスプリングボクスが世界最強チームだと知っていても、なぜ世界のラグビーシーンから閉め出されていたかの真相を知ることになる。

アパルトヘイト時代の南アフリカでは、人種が4つに分けられていただけでなく、同一人種、例えば欧州系の人達の間でも格差があったことなどは日本では殆ど知られていなかったと思う。そんな様々な立場の人達(すべてがマンデラにとっては敵だった)を味方にしていく気の遠くなるようなプロセスを文章で追いかけていくのは正直しんどい部分がある。しかし、一刻も早くラストの歓喜の瞬間に到達したいという気持ちが前へと向かわせる。そういった意味からは、映画を先に観て感動を味わったことはプラスだったと実感している。原作を読んだあとで再び映画を観ると、新たな発見があるという具合に映画と原作は連動している。

確かに映画はアメリカでないと製作が難しい。しかし、ノンフィクションに仕上げるのはジョン・カーリンのような南アフリカ滞在経験を持ち、ラグビーやサッカーにも通じている英国人のジャーナリストでないと難しいことも実感した。マンデラの敵でなくなった多くの人達にインタビューを試みることは、並大抵のことではなかったはず。そういった意味でもクライマックスシーンを感動なくして読み終えることはできない。

■インビクタスからサンウルブズへ

時代も場所も背景も違うが、実はサンウルブズの戦い(苦闘)にインビクタスに通じる者を感じる。サンウルブズの直接の相手はスーパーラグビーの南アフリカカンファレンスに所属するチーム。何故か南アフリカという点はさておいても、間接的に見えてくるのは、日本のラグビーに立ちはだかる様々な問題や課題が相手でもあるということ。対立的要素であったり、矛盾点であったり、あるいは世界のラグビーから取り残されている部分をファンの気持ちをひとつにすることで溶かしていく潜在的能力を持つのがサンウルブズと言えないだろうか。

サンウルブズは南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、トンガ、フィジー、サモア、アメリカ、アルゼンチンといった国々からやってきた選手から成る多国籍軍。中でもひときわ注目の人になっているのが南アフリカ出身の鉄人フィルヨーン選手。堅実なFBとしてチームに欠かせない存在だが、プレーに南アフリカ魂といったらいいのか人一倍の芯の強さがある。派手さはなくても、ひとつひとつの確実なプレーは活きた教科書と言えるくらい。

フィルヨーンに限らず、南アフリカの選手達には肉体の強さの中にも激しさと優しさが同居しているようなところに人間味を感じる。例えばの話、トップリーグのチームに必ず1人は必要ではないかと思ってしまうくらいの存在感を感じる。『インビクタス』を観て、そして『プレイイング・ザ・ゲーム』を読んで、南アフリカの選手達の精神面のバックグラウンドが分かったような気持ちになったし、愛着が深まったことは間違いない。


インビクタス~負けざる者たち
ジョン カーリン
日本放送出版協会
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インビクタスからサンウルブズへ/ラグビーが結ぶ点と点(1)

2016-05-25 01:25:30 | 頑張れ!サンウルブズ


もはや週末のお楽しみの必須アイテムとなってしまったサンウルブズ。その戦いも残すところ4試合となってしまった。目下の戦績は1勝1分9敗と数字の上では惨憺たる結果になっている。しかし、その戦いを見守るファンはまったく別の風景を見ているはずだ。惜しい、悔しい、残念の連続ではあるのだけど、試合が終わると某かの感動が残され、「また来週も応援するぞ!」という気持ちにさせてくれる不思議なパワーを持ったチームだから。

そんな折も折、映画『インビクタス』をTVで観る機会に恵まれた。ちょうど中学生になったときにラグビーに出逢い、その後もしばらくはプレーを続け、そして一時期のブランクはあったものの、週末はどこかの競技場に行くことが楽しみなラグビーファン。だから「当然この映画は観てますよね?」と言われてもおかしくない。しかし、そんなことを聞かれないことが実は幸いだったりする。観ていなかったし、公開されたときも特段感心を持つに至っていなかったから。ラグビーファン失格だなぁ、まったくと今にして思う。

映画を見終わって、どうしてこの映画をスルーしてきたのだろうと思った。ネルソン・マンデラを演じるモーガン・フリーマンは『ドライビング・ミス・デイジー』や『ショーシャンクの空』でも名優ぶりをいかんなく発揮した大好きな俳優。後者の映画で演じた刑務所内での「調達屋」がロベン島に収監されたマンデラと見事にオーバーラップする。そして、件の1995年には日本代表の歴史的な惨敗(17-145)をリアルタイムで観ているから、もうひとりの主役フランソワ・ピナールが主将だったこともしっかり覚えている。

しかし、ものは考えよう。映画に関心をもっていなかったことがむしろ幸いしたような気がする。ピュアな感覚で映画を楽しむことが出来たから。そして、当然の帰結として、書店に原作を探し求めることになる。映画に全てを盛り込むことは不可能だし、作品の出来映えに満足で終わってもいい。でも、それで終わらせてしまうにはあまりにもマンデラや南アフリカのことを知らないことに気づいたのだ。

原作を読み終えた今、改めて映画を見直して観たくなったのはもちろんだが、もっとこの国のことを知りたいという想いも駆られている。映画をリプレイする前に、南アフリカとの関わりについて振り返ってみることにした。

■電波を通して出逢った南アフリカ



ラグビーとの出逢いは中学生になったとき。という話をすると大抵のひとは驚くようだ。しかし当時の大阪はラグビー部のない方が珍しいくらいに中学生のラグビーが盛んだった。そんなときに熱中したのがBCLだった。海外から届くニュースや音楽を短波帯が受信可能なラジオで直接楽しんでいた。BCLjは1980年代には空前のブームとなるものの、本筋とは違ったベリカード(受信報告書の御礼に放送局から返信されてくるベリフィケーションカード)集めの趣味になってしまったため、当然の帰結として(飽きられて)廃れてしまう。ちなみに、私が熱中したのは「空前のブーム」より前の1970年代で、当時はBCLではなくてSWL(短波聴取者)と呼ばれていた。

BCLを始めた頃によくダイヤルを合わせたのがアフリカ大陸の最南端から強力な電波を発信していたラジオRSA(南アフリカ共和国放送)だった。この放送局は珍しく高い周波数を使っていたため、混信もなく毎日安定した状態で受信できていた。おそらく多くのBCL初心者にとっても初めて聞いたアフリカ局になったはず。放送開始前に流れるギターと鳥のさえずりが印象的なインターバルシグナルは今でもはっきり覚えている。

南アフリカからは国際放送だけでなく、国内向けの放送も良好に受信することができた。両方の放送局に受信報告書を送って得たのが上の2枚のベリカードだ。右側のカードが国内向けのSABCのもので、英語の上に標記されているのがアフリカーンス語。ラジオRSAからの「御礼」はベリカードに留まらなかった。定期的に番組と南アフリカを紹介する刊行物が送られてくる。日本の英語もろくに読めない中学生にこんなサービスをしても何の徳のもならないのに。ラグビー選手の写真もよく掲載されていたので、南アフリカはラグビーの国なんだなぁということも理解できた。

同じ頃、新聞の連載記事で南アフリカのアパルトヘイトのことを連載記事で報じていたことも印象に残っている。アフリカ系の人達は大学を出ても馬糞拾いをしているとか、人種が違うと愛し合っていても結婚できないとか、当時の中学生には理解できないことばかりだった。社会科の先生が「南アフリカで日本人が飛行機に乗るときは特別席が用意される。」と聞いても「へぇ?」だったのだ。思うに、上に書いたラジオRSAのサービスは評判の悪さを気にした精一杯の気遣いだったのかも知れない。

■アフリカの苦悩をピアノに叩きつけた(かも知れない)ダラー・ブランド



高学年になってからだが、ジャズを聴き始めたのも中学生の頃。高校生になってもレコードは月に1枚と決まっていたので、「ジャズ」と名の付いた番組は片っ端から聴いていろんな人の演奏を楽しんでいた。そんな中でインパクトを残したのがダラー・ブランドの『アフリカン・ピアノ』。発売当時、かなりのセンセーション(スイングジャーナルのジャズディスク大賞銀賞などなど)を巻き起こし、よくラジオでも紹介されていた。ダラー・ブランドはその後改名してアブドゥーラ・イブラヒムになる南アフリカ出身のジャズピアニスト。

ジャズ初心者にはちょっと難しい音楽に聞こえたし、デューク・エリントンやセロニアス・モンクの影響を受けていると言われても?なのだが、左手で何度も繰り返されるシンプルなフレーズが理解でしがたい中にも耳から離れないでいた。実はそのパターンが5拍子で、しかも終わることのない永遠のリズムであることに気づいたのがごく最近だったりする。種を明かすと、終わりと始まりが重なることで終わった瞬間に始まっている魔法のリズム。

明るく楽天的な世界とは言えないが、どこかカラッとした雰囲気も漂うところがアフリカなのかも知れない。レコードの帯にある「アフリカの苦悩をピアノに叩きつけて」というのはちょっと大げさで、あくまでもレコードを売るための宣伝文句のような気もするが、ステディな左手との対比が実に魅力的。アメリカのジャズに聞かれるようなブルージーな感覚は意外と希薄。むしろ右手で時に激しく弾かれるフレーズは欧州伝来の知性の反映にも聞こえる。そこが欧州の影響を無視し得ない南アフリカ的な感性なのかも知れない。

■フォース・ワールドの感動の南アフリカライブ



「フォース・ワールド」と聞いてピンと来る音楽ファンは少ないかも知れない。ブラジル出身のアイアート・モレイラ(ドラムと打楽器)とフローラ・プリム(ボーカル)夫妻が1990年頃に結成した4人編成のバンド。残る2人はブラジル出身のギタリストのジョゼ・ネトと米国人サックス奏者ゲイリー・ミークで偶発的な発想から生まれた。南アフリカで1993年に録音された『ライブ・イン・サウス・アフリカ1993』はこのバンドの最高到達点を聴くことができる感動のライブ。

その感動の意味も、インビクタスを読み終えた後ならよく分かる。2年後にラグビーワールドカップを控え、南アフリカの体制が大きく変わりつつあった1993年は戦争、平和のどちらに転がってもおかしくないくらいに不安定な時期だった。そんな南アフリカの人達に少しでも勇気を与えたいという気持ちで演奏に臨めば自ずと結果も出る。この作品はフォース・ワールドがそれだけの実力を持ったバンドであることも証明している。

話がインビクタスからもラグビーからも逸れてしまったが、自分史を振り返ってみて、けっこう南アフリカとは遭遇していたことがわかった。(つづく)

アフリカン・ピアノ
ダラー・ブランド
ユニバーサル ミュージック クラシック
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流通経済大学 vs 明治大学(関東大学春季大会グループA-2016.05.01)の感想

2016-05-05 16:13:20 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


すっかり身近になったスーパーラグビーのお陰で、日本のラグビーファンにとって例年なら空白だった時期が完全に埋められた。先月末からは今年で5回目を迎える関東大学ラグビーの春季大会も始まり、関東地区限定かも知れないがさらにラグビーを取り巻く状況は賑やかになる。日本のラグビーの将来を担う大学生は、エディさんの言をまたず一番強化が必要とされている年代。それだけに、スーパーラグビーへの参入効果がどのような形で大学ラグビーを変えていくのかに注目していきたい。少なくともサンウルブズに加入して世界を舞台に戦いたいと願うヤングラガーが増えることが日本代表強化に繋がるはずだから。

さて、今シーズンの私的大学ラグビー開幕は明治大学の八幡山グランドで迎えた。春季大会Aグループの戦いで、昨年度リーグ戦グループ2位の流通経済大学(流経大)が同対抗戦グループ2位の明治大学に挑む。2013年、2015年と流経大がこの大会で明治を破っているとは言え、この対戦カードならば流経大はまだまだチャレンジャーというのが大方の感覚だと思う。キックオフの約15分前に試合会場に到着したが、大学でも屈指の立派な観戦用スタンドは既に熱心なホームチームのファンで満杯の状態。出遅れを反省しつつ、流経大サイドの端に見つけた最後列の立観スペースに土手をよじ登って潜り込んだ。ちなみにピッチ上ではこの試合に先駆けて行われたC戦がちょうど終了したところ。54-19で明治Cチームの圧勝だった。

いつもだとキックオフ前にメンバー表を眺めて両チームの出場選手を確認するが、メンバー表をもらい損ねたため断念。一昨年までは日本協会のHPを通じたウラ技で何とか2日前に出場選手の確認ができたし、今は各大学が公式サイト経由でメンバー発表を行ってくれるから助かる。しかし、流経大はサイト自体の更新も止まっているため、殆どの選手の把握は公式記録までお預けになるのが残念。もっとも、明治のメンバー表はプリントアウトして持参したものの、高校ラグビーに疎いこともあってどんなレベルのメンバーかは不明。予備知識なしに観た方が面白いことも事実だが、注目点が分かっていれば試合の見方がかわったかも知れない。

観戦体勢を整えたところでピッチに両校Aチームのメンバーが登場。主力選手の卒業でかなりのメンバーが入れ替わった流経大はお馴染みの顔が急速に減ったことは否めない。CTBのシオネ・テアウパ(私的願望ながら、将来サンウルブズやジャパンの13を担って欲しい選手のひとり)は存在感大だが、14番を付けて登場した新人のタナカブランドン・ムネケニエジもすぐに分かった。4月3日のYC&ACセブンズでの鮮烈なデビューが強く印象に残るアフリカ系の選手。ちなみに、同選手はジンバブエ生まれで7歳の時にNZに渡ったとのこと。アイランダー達とは違った身体能力の高さ、身のこなしの柔らかさに加えて低く鋭いタックルを連発してYC&ACでは注目を集めたが、性格の明るさでもアピールした選手だった。



◆前半の戦い/結果的には接戦もラグビーの内容には大きな差

明治のキックオフで試合開始。明治のエリア獲得を目指したキックに対し、流経大は自陣奥深くで何とかタッチにボールを出す。明治は敵陣ゴール目前でのラインアウトからモールを形成して得点を目指すが、流経大にモールコラプシング(おそらく)の反則。間髪入れずにPK(タップキック)からSH田がインゴールに飛び込み、僅か1分で明治が幸先よく先制した。SO堀米のGKも成功して7-0。誰もが明治の圧勝を予感した鮮やかな先制パンチだった。

リスタート(キックオフ)での両チームの攻防では、緒戦と言うこともありミスが散見される。ただ、チーム全体で組織的にボールを動かす意図が明確な流経大に対し、明治のアタックの意図は不明確で個々の強さで対抗している印象。時計が進むにつれて両チームのチーム作りに対する考え方の違いが顕著になっていく。10分、明治の自陣22m内からのフリーキック(フェアーキャッチに対する)がチャージに遭ってドロップアウト。リスタートのドロップキックに対し、流経大はCTBシオネからパスを受けたWTB14タナカが明治陣ゴール前に迫る。そしてタナカが明治のディフェンスを十分に引きつけてからWTB11桑江(弟)にラストパスを送る。早くも「新ホットライン」が機能する形でのトライが流経大に生まれ5-7(GK失敗)となる。

直後のキックオフで流経大のHO中村がウラに抜け、パスを受けたWTB桑江弟がゲイン。さらにボールはゴール前でフォローしたLO金山に繋がりそのままノーホイッスルトライ。GKは外れるが10-7で流経大が逆転に成功する。合谷兄弟のあとは兄がFBを務める桑江兄弟の活躍が期待される。リスタートのキックオフから流経大が反則を重ねて自陣ゴール前で明治ボールのラインアウトが続くピンチとなる。しかし、執拗なディフェンスで明治のノックオンを誘い何とかピンチを脱した。相手のミスに助けられたとは言え、結果的に流経大はここで失点しなかったことが大きかった。

20分、流経大が明治陣22mまでエリアを大きく挽回したところで、明治にラインアウトでのノットストレートのミス。流経大はスクラムを起点としてFWの連続アタックでゴールを目指す。しかしながら、FW中心の攻めでラックになることが多く、テンポアップができずに最後はノットリリース。昨シーズン、FWへの過度の拘りから重要な試合でことごとく相手ゴール前での得点チャンスを逃していたことを思い起こさせる。ウォーターブレイクの直後、流経大は明治のキックに対しFB桑江兄がカウンターアタックから大きくゲイン。ディフェンスの人数は足りていたが、エアポケットを作ってしまったかのようにスルスルと抜けてしまったのは明治にとって反省材料だし、逆に桑江本人もビックリといった風に見えた。



しかし、明治も流経大のミスに救われる。とくに流経大はラインアウトが安定せず、マイボール確保の失敗が続く。30分には自陣10m/22mでのラインアウトがオーバースローとなり、こぼれ球を拾ったSH田が大きくウラに抜ける。そして、最後はLO5の古川がゴールラインを突破し明治は14-10(GK成功)と逆転に成功。さらに明治は畳みかける。リスタートのキックオフからFB渡部のカウンターアタックを起点としてボールを繋ぎ左WTBの澤田がノーホイッスルトライ。堀米のGKも安定しており、21-10と明治がリードをさらに拡げる。

グランドでは明治圧勝ムードも漂うが、この段階でアタックもディフェンスも明治は殆ど組織として機能していないことが露わとなる。「まだ春だから」という声も聞こえてきそうだが、帝京も東海も既にチームの基本形は出来上がっていて、あとは戦術の熟成と選手個々の成長を待つような状態。流経大にしても、スーパーラグビー仕様を目指していることは明らか。明治は自陣からはキックでエリアを取る考え方のようだったが、これはアンストラクチャーからのカウンターアタックを試したい流経大には願ったり叶ったり(のように見えた)。35分、リスターのキックオフで明治にノックオンがあり、流経大はすかさずカウンターアタック。SO東郷が抜け出しをのままインゴールまでボールを持ち込んだ。GK成功で17-21と流経大のビハインドは4点に縮まる。

流経大も畳みかける。39分には明治陣22m付近のラインアウトからモールを形成してディフェンダーをはがしながらぐいぐい前進しゴールラインまで到達してしまった。かつての流経大は伝統工芸とも言えるくらいの巧みなドライビングモールを特徴としていた。東海大のような最後は駆け足になるスタイルとは違い、相手につけいる隙を与えることがないくらいにゆっくりだがガッチリとしっかり相手を押し込んでしまうモール。ラインアウトで苦戦しなければ確実な武器になるが、最近はモール練習の比率が減っているのかも知れないと思ったりもする。GK成功で24-21となり、流経大が逆転したところで前半が終了した。

点数から見れば前半は拮抗した戦い。しかし、ラグビーの内容がそのまま反映されたら流経大はもっと楽に点が取れていたかも知れない。序盤戦の段階でアタック、ディフェンスともに明治のぎくしゃくぶりが目立ったから。得意のアタックでも選手が重なったりして、辛うじて個々の能力の高さでトライが取れている印象。流経大はFWに拘らずにどんどんBKに展開していればと一瞬思ったが、FWの力も試しておきたいという意図があったのかも知れない。明治ファンには申し訳ないが、普段取り組んでいるラグビーの違いが明確になったと感じられた前半だった。後半はディフェンスを立て直さないともっと明治の失点は増えそうな雰囲気。だが、前半を見る限りはそれも厳しいように思える。相手の状況が分かったところで流経大はどのような形で後半を戦うのかに興味が移った。



◆後半の戦い/流経の組織プレーの前に為す術のなかった明治

後半のキックオフは流経。明治の蹴り返しに対し、流経大がカウンターアタックで明治陣22m付近まで攻め上がるがノックオンでチャンスを逸する。リスタートのスクラムから明治がハイパントで前進を図るが、流経大もハイパントで応酬。明治の選手がノックオンしたボールを流経大選手が拾って前進しラック。ここからSH釜谷が抜け出してゴールラインを超えた。GKも成功し流経大が31-21とリードを拡げる。直後にリスタートのキックオフでは、流経大はカウンターアタックで攻めてシオネがノーホイッスルトライ。38-21となったところで流経大が完全にペースに乗った。

BK展開勝負に切り替えた(おそらく)流経大はラインの組合せのテストも行う。14を付けていたタナカをアウトサイドのCTBに置いて外に11番の桑江弟を配する布陣。再度リスタートのキックオフに対するカウンターアタックからその新布陣?が功を奏する。右オープンに展開されたボールがタナカに渡ったところでそのまま勝負と思われた瞬間、タナカが右に超ロングパスを送る。パスの到達点には観客の視界からも外れていた桑江弟が突然現れた。ボールを持った段階ではもう前を遮るものはなく、2つ連続でのノーホイッスルトライ。開始から10分も経たない時間での3連続トライで明治のディフェンスは混乱状態に陥った。

しかし、流経大のトリッキーなプレーはこのトライくらい。あとは、スーパーラグビーにも通じる小ユニットでのリサイクルを基本としたアタックで確実のボールを動かし続ける。そして、明治のディフェンスに孔が開いたところですかさずシオネら走力のある選手が勝負を仕掛けるパターン。16分には明治が流経大陣10m付近でPKのチャンスを得るものの、キックはノータッチとなりカウンターアタックから一気にボールを自陣ゴールラインまで運ばれる。52-21と流経大のリードは31点まで拡がり、勝負はほぼここで決した。流経大は岡田、粥塚、中村龍といったフレッシュな選手達を次々と投入する。

防戦一方となる中にも、明治は組織ではなく個人で局面の打開を図る。確かに1人1人の突破力には目を見晴らせるものはあるものの、広く網を張った流経大の前に止められたら終わりの単発の攻めだからなかなか得点に繋がらない。明治はむしろ組織を見直すべきなのだが、個人突破に頼らざるを得ないところが苦しい。ディフェンスの局面で、絶えず「広がれ、広がれ」の声が飛んでいた流経大に対し、明治サイドからは指示の声もあまり聞かれない。流経大は22分にマイボールラインアウトのこぼれ球を拾ったFB岡田、27分にラインアウトでの反則を起点とした速攻からSH横瀬が相次いでトライを奪い66-21と点差は45点まで拡がった。

流経大はこのまま後半をゼロ封で抑えたいところだったが、明治の一発の怖さを経験させられる。34分に新人山村が卓越したステップとスピードでディフェンスを振り切りトライ。さらに38分にも渡邊がキックを拾ってそのままゴールラインまでボールを運び、最終的には66-33のダブルスコアで流経大が勝利を収めた。安定性を欠いたラインアウトや最後の2発をディフェンスの網を破られてしまう形で阻止できなかった点など反省点はあったものの、リーグ戦Gの覇権奪還に向けて幸先のよいスタートが切れたと言えそうだ。

さて、期待のタナカの名前があまり出てこないが、もちろんその後は消えていたわけではない。個人で行けそうな場面でも廻りを見てボールを活かすプレーを選択していたからで、身体能力だけでなくラグビーセンスもなかなかのように思われる。ゲーム終盤でタックルに行ったところで負傷し足を引きずるような状態となったが、流経大は既に交代枠を使い切っていた。簡単な治療を受けた後、コーチに促されて仕方なくピッチに戻る。ちょっと痛々しい感じもしたが、終了間際で抜かれたらさらに1トライを確実に許す状況で、渾身のタックルを決めてボールを持ったFWの選手をタッチラインから押し出す。気持ちの強さがあることも印象づけたプレーだった。



◆試合終了後の雑感

春とは言え、ダブルスコアで、もしかしたらトリプルスコアになったかも知れない敗戦は明治にとってショックだったに違いない。梶村らの主力選手を欠く中、CチームでもAチーム勝ってしまうかも知れないほどの選手達が所属する明治だから、有力選手をAチームに集約し、戦術を絞って徹底させることで今年も秋にはトップを狙えるチームを作ることは可能なはず。「今は選手を試している段階」とか「まだ春の段階だから」という声も聞こえてきそうだ。しかし、もし今日の相手が赤色や青色のジャージーのチームだったら得点は減り、失点が増えることは確か。3Tとして大学ラグビーに君臨する帝京、東海、筑波は春の段階でもAチームをしっかり作っている。

そもそも上で挙げたチームには通年でチームを作り仕上げていく考え方が定着しているように思われる。まずは戦術ありきでラグビーに取り組むことで、必要なフィジカルの強化や技術の向上に取り組む。チームによっていろいろな考え方あることが大学ラグビーでは許容されるとしても、1年1年が勝負という考え方から脱却しないといけないチームがまだまだ多い戸感じる。チーム事情に疎い部外者の勝手な意見だが、明治は普段から一丸となってチームを作り上げていく体勢になっているのだろうかという思いに駆られる。少なくとも、今日の相手の流経大は20年以上前の1部昇格前から組織作りとコーチングの重要性に気付き、数多の失敗を重ねながら改善を進めて現在に至っている。チームの体質を変えることは恐ろしく時間がかかるのは多くのチームが経験し、結局は挫折したケースも多い。

◆大学ラグビーに求められるガラパゴス状態からの脱却

この20年、大学ラグビーを主体に観てきたからかも知れないが、大学ラグビー界はいわばガラパゴス状態にあったと感じる。トップチームだけを見ても、個人よりも組織、そして新たな戦術の導入に熱心に取り組んできたチームは限られる。個人的な印象で言えば、リーグ戦Gなら関東学院、流経大、東海大が該当し、対抗戦グループなら帝京大と筑波大が拘りを廃してラグビーに取り組んでいるように感じられる。その他のチームでとくに「伝統校」と呼ばれているチームはいろいろなしがらみがあるためか、チーム改革になかなか乗り出せていないように見える。

コーチも大学スポーツであるが故にOB主体になるのはやむを得ないとしても、その人達が大学でプレーしていた頃とはラグビー自体が大きく変化している。むしろ選手達の方が新たな戦術の導入に積極的であり、OB諸氏の「俺たちは頃こうだった」はなかなか通じなくなってきているはず。そして、場合によっては選手とコーチ間にラグビー観の違いから軋轢も生まれているのではないだろうかと危惧する。例えばだが、明治の選手達が東海なり流経大なりのコーチングシステムでラグビーに取り組めば、恐ろしいチームになること間違いなしと思いつつ、OBやファンがそのやり方を許容するだろうかという思いも頭の中をよぎる。

日本代表が昨年のW杯で南アフリカに勝利し、グループリーグで3勝を挙げたことは、日本のラグビーにとって起死回生といってもいい画期的な出来事だった。しかし、それだけでは十分ではなかったと思う。二の矢としてサンウルブズが放たれたことで大学に限らず日本のラグビーはガラパゴス状態から脱するきっかけを確実に掴んだように思えるのだ。とくにサンウルブズの奮闘(であり苦闘の連続)は大学ラガーメンにとって大きな刺激になっているはず。「世界」にダイレクトで繋がるサンウルブズが出来たことで、完全プロとしてラグビーに取り組む道が開けた事を歓迎し、日々のトレーニングに対する意気込みが変わった選手が居ると信じたい。



◆流通経済大学への(今度こそ)の期待

猛威を奮ったリリダム・ジョセファやリサレ・ジョージがチームを離れたことの影響かも知れないが、流経大がこの試合のようにステディなラグビーを指向するように変わりつつあるように感じた。このスタイルに徹すれば、大学選手権での永年の不振からも脱却できるはずだし、そうなることを期待したい。個人的な印象だが、特別な試合に普段着のラグビーを忘れて特別なことをやろうとして失敗し続けたのがこのチームだった。1部に昇格したばかりの純白のジャージーに身を纏って戦い、強いインパクトを残したチームがあったからこのブログはある。他に気になるチームはあっても、「今度こそ」の期待に応えて欲しいという気持ちが強いのは偽らざるところだ。

ラグビー「観戦力」が高まる
斉藤健仁
東邦出版
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祝初勝利!サンウルブスが日本のラグビーを変えた日

2016-05-02 01:57:48 | 頑張れ!サンウルブズ


サンウルブズの悲願の初勝利達成から1週間が経った。今週末はBYEウィークなので束の間の「サンウルブズ・ロス」の週末になっているのは嬉しい誤算。あと1週間は余韻に浸ることができるという意味で。予想に反して(といっては失礼なるが)初勝利も近いと思わせる戦いが続いた中で、何とかひとつ勝てたのは大きい。毎週末に連敗の数が確実に1つずつ増えていくのは覚悟していたとは言え応援していて辛いものがあった。こうなったら2つ、3つと勝って欲しいし、こんな形でハードルが上がって行くのは大歓迎だ。

キックオフまであと1時間を切ったところで外苑前駅に辿り着いた。秩父宮ラグビー場に向かう歩道は既に人波でごった返すような状態になっている。今度こそ「初勝利」を祝いたいサンウルブズを応援する人達が多数。つい1週間前に南アフリカのブルームフォンテーヌでの悪夢のような惨敗があったわけだが、そんなことは忘れてしまったかのように表情は明るい。ちょっと救われたような気持ちになってラグビー場の門をくぐった。



心配された天候も回復し、いよいよキックオフ。ホームゲームとはいえ、サンウルブズのメンバーは約1ヶ月間の長期遠征を終えて帰国したばかり。対するジャガーズも遠征の締めくくりがこの試合で似たような状況ではある。ただ、昨年のW杯でベスト4に残ったアルゼンチン代表を軸に結成されたチームなので、サンウルブズと同様に連敗中とは言え厳しい相手であることに変わりない。

だが、ホームに戻って気持ちの切り替えに成功したのか、溌溂とした動きを見せるサンウルブズの選手達に比べると、ジャガーズの選手達のプレーには明らかに疲れが感じられる。自陣からでも果敢にパスを繋ぎ、キックは控えめというのがロス・プーマス(アルゼンチン代表の愛称)に被るジャガーズのイメージ。そんなチームがハイパントを多用する状況で、サンウルブズに勝利の方向に向かう追い風が吹いているように見えた。

そんな中で幸先よく先制したのはサンウルブズ。5分にピシがPGを決めた。しかし、遠征疲れの見えるジャガーズもこの試合に連敗脱出をかけている。7分と10分にラインアウトとモールの強みを活かす形で2連続トライを奪い10-3と逆転に成功。SOエルナンデスのGKが不調だったことが最終的に明暗を分けるが、サンウルブズの勝利はまたしても遠のくのかとファンは思った。

しかし、サンウルブズを後押しするホームのファンは今日も熱い。ファーストスクラムの場面で印象的な出来事があった。ジャガーズはスクラムの強さが売り物のチームであり、観客は固唾を呑んで見守った。そしてしっかりと踏みこたえたところで大きな拍手と安堵の「おーっ!」という声にスタジアムが包まれる。セットプレーが課題のサンウルブズにあって懸念材料のひとつがクリアされた状況を選手とファンが一体となって共有した感動的とも言える瞬間。こんなことは滅多に経験できないし、選手達にとっても力になったのではないだろうか。

20分には待望の得点がトライによってもたらされる。ジャガーズ陣内でラックを連取して左に展開しWTB笹倉がゴール左に飛び込んだ。座席の関係でちょうど目の前でそのシーンを目撃することになったわけだが、WTBで取り切れるところがサンウルブズの強みでありファンを魅了するところ。32分にピシがHWL付近からのロングPGを決めて同点に追い付いたところで観客席は最高レベルに盛り上がる。

しかし、ジャガーズも簡単には引き下がらない。サンウルブズの課題のひとつは得点を取った直後の失点が多いこと。とくに相手キックオフに対するボール処理は要注意だ。この点、ジャガーズは巧みだった。浅く蹴ってコンテストのところは高い確率でマイボールにする。もっとも、サンウルブズはFBのフィルヨーンを除けばハイボールの処理を苦手としている。ジャガーズのハイパント多用はそんな弱点を突いてのこと。前半終了間際にもジャガーズはPGを決めて、13-18の5点ビハインドでの折り返しとなった。



後半も先制はサンウルブズ。5分にフィルヨーンがPGを決めて16-18とする。しかし、ここで落とし穴。相手陣内に攻め込みながらインターセプトに遭っての被弾がブルームフォンテーヌでの悪夢を思い起こさせる。2点ビハインドにまで迫ったサンウルブズだったが16-25と点差を拡げられる。ただ、インターセプトの場面で思ったことは、ジャガーズに疲れからか焦りが見られること。ディフェンスの局面では、オフサイド気味で前に出てきてリスクを覚悟の上でのインターセプト狙いのようにも見えたのだ。

今まで勝てる可能性があった試合を落としてきたサンウルブズ。武器は粘り強いディフェンスとボールを動かせばゴールまでボールを持ち込める決定力があること。16分にこの日一番のトライが生まれる。ジャガーズ陣22m付近のスクラムから右に展開し、立川から絶妙のアングルチェンジでトップスピードに乗ったカーペンターにパスが渡る。ガッツポーズでゴールに飛び込むフィニッシャーに観客も立ち上がってガッツポーズ。ラインアウトで苦戦を強いられているサンウルブズだけに、安定したスクラムは強力な武器になる。23-25となりビハインドは2点でファンの応援のボルテージも上がる。

これまで接戦をものに出来なかったサンウルブズ。敵陣でPKの場面も積極的に仕掛けることで活路を見いだしてきたが、この日は慎重にショットで3点を積み上げる慎重な戦いぶりを見せる。ジャガーズに反則が目立ったこともあったが、ピシが神がかり的なくらいに当たっていたことも幸いした。25分にそのピシがPGを決めてリードは僅か1点だが遂に逆転に成功する。

しかし、この日のサンウルブズの課題でもあるのだが、点を取った後が鬼門。ここまで3回、得点のあとすぐに失点している。果たして4回目が2分後に起こる。ジャガーズがまたしてもPGを決めて残り時間10分あまりとなったところで再度逆転に成功。ジャガーズがキックオフを浅めに蹴ってコンテストし、ボール確保に成功したことも大きいがちょっとした気の緩みはなかっただろうか。残りの試合ではハイボール対策も含めてしっかりと修正して欲しいところ。

ただ、サンウルブズには強い味方が居た。時間が経つごとに力強くなっていくホームの声援だ。とくにスクラムの場面では自然発生的な手拍子がスタジアム全体にこだまする形となり感動的ですらある。ラグビーファンを何十年もやっているが、いまだかつてこんなにスタジアム全体から選手達を奮い立たせるような応援に出逢った記憶がない。リードを奪ったとはいえ、ジャガーズにはプレッシャーになっただろう。そんなジャガーズに焦りが出たのか、自陣で痛恨の反則。ここもピシが確実に決めて29-28となる。

残り時間は9分を切る。このまま敵陣でボールキープし、どんどん時計を進めていく。1点差に泣いたサンウルブズだから、今度は1点差で歓喜の瞬間を迎えたい。誰もがそんな想いを抱いたと思われた中で、しかし、むしろサンウルブズは積極的に前を向いてアタックを仕掛ける。ジャガーズゴール前のスクラムの場面ではスタンドから手拍子がFWの8人にさらにパワーを注入し続ける。もう少しでカウントダウンが始まりそうな中で、この日もっとも観客席を沸かせたトライが生まれる。スクラムを起点としてピシから渡ったラストパスを立川がインゴールに持ち込み勝利を確実にした場面。

そして試合終了のホイッスル。劇的な逆転勝利は何度も観てきているが、こんなに気持ちよくファイナルを迎えた記憶はない。というか今までの思い出をすべて消し去ってしまうくらいに感動的だった。最終的に決めたのはピシであり、カーペンターであり、立川だったが、それも最前線で身体を張ってボールをBKに供給し続け、ディフェンスの場面ではフィジカルが強いジャガーズのアタックを止め続けたFWの健闘があってのこと。1週間前の戦いでチームが崩壊してもおかしくなかったところを見事に立て直して最良の結果に繋げたハメットHC以下、チーム全員を讃えたい見事な幕切れだった。



■試合終了後の余韻/応援風景が変わった

主役はもちろんピッチの上で戦った選手達。しかし、自然発生的に起こった拍手など、終始選手達を奮い立たせたであろうスタジアムからの応援は力になったに違いない。それも大学ラグビーやトップリーグでは経験できない特別なもの。本当のファンはチームのいいところも改善すべき所も知っている。だから、寧ろ力が入るのはピンチを迎えた時だ。そこで誰にも強制されることなく手拍子というシンプルな方法で気持ちを伝える。他のスポーツではすっかり定番となっている「にっぽんチャチャチャ!」だと完全に浮き上がってしまう。きっかけは偶然だったとしても、ピンチの時には力を与えるという意味で最善最高の方法かも知れない。

実はサンウルブズの戦いを生で初めて観た3月19日にも不思議な体験をしている。観客席の空気が明らかに違っていると感じたのだ。大学ラグビーのような重苦しい雰囲気は皆無だし、トップリーグのように会社社会の延長戦みたいな雰囲気もない。ファミリーや若い世代も目立ち、観客はラグビーを楽しむために来ている。その当たり前のことがいつの間にか失われてしまっていたことに気づき、心地よいショックを受けている。だからこそ、暖かい観客に勝利という最高のプレゼントを授けてくれたことは大きい。



■サンウルブズは日本発の国際宇宙ステーション

サンウルブズの記念すべき船出となった2月27日のライオンズ戦。FW第3列など、スタメンに多くのカタカナの名前が並んだことに違和感を覚えたファンも多かったかも知れない。しかし、今やモリ、デュルタロ、カーク、ピシ、フィルヨーンやその後加わったロロヘアとカーペンターといった人達の居ないサンウルブズは考えられないような状況になっている。また、ここまでに生み出されたトライの多くは、日本で誕生したサンウルブズの持ち味が活かされた立派な「メイド・イン・ジャパン」だと思っている。

上で挙げた人達の中でも、とくにカーク、ピシ、フィルヨーンは私的「3ウルブズ」(3賢人であり3鉄人でもある)と呼ばせて頂いている。「プロとして仕事をしているだけ」なのかも知れないが、日本代表強化が前提で成立したチームではあっても、チームの勝利にとって力になる人材が「代表に関係ないから」という理由で排除されるようなことがあってはならないと思う。

たとえ生まれや国籍は違っても、ひとつのチーム(ファミリー)になることができるという意味で、サンウルブズは言わば国際宇宙ステーションだと思う。数多の困難を宇宙船(チーム)の乗組員(メンバー)が地上のサポート(スタッフやファン)を得て解決していかなければならない。だからこそ、国境の壁を取り払った多国籍軍で戦う国際リーグに所属するサンウルブズの成功は、国際化が求められている日本社会にも貴重な経験をもたらすものと信じたい。

あとひとつ。当日のスタジアムにはラグビー観戦を楽しむ外国人の姿も目立った。ジャガーズの母国からといった海を越えてやって来た人だけではなく、日本在住でハイレベルのラグビー生観戦に飢えていた人達も多く含まれていたと思われる。これもサンウルブズ効果とは言えないだろうか。海外から日本を訪れる観光客にとって、ラグビー観戦もメニューになり得る。スーパーラグビーなら、オリンピックのように短期間限定にならないから国の施策でもある観光客誘致に貢献できると思う。

とにもかくにも、日本からスーパーラグビーに選手だけでなくチームを派遣できるなんて10年前には考えられなかった。それが今、確かに実現している。サンウルブズの活躍だけでなく、そのことによって起こる様々な「いいこと」をメディアはしっかり伝えて欲しいと願う。

ラグビーマガジン 2016年 06 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
ベースボールマガジン社
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