長野Uスタジアムでの開幕戦で第2試合を戦う東海大と拓大は、あくまでも個人的な感覚だが不安を抱えてこの日を迎えたと言えそう。東海大は春から夏にかけての試合(多くは練習試合だが)での戦績が芳しくなかった。また、拓大も昨シーズンの入替戦は冷や汗タラタラの辛勝で、ひとつ間違えばこの日を迎えることができなかった。試合開始前からチームのムードがよくなかったことも印象に残っている。
第1試合が終わり、法政と中央の選手がピッチから姿を消したあと、東海大と拓大の選手がアップのため登場。まずは、ここで少し安心モードになる。両チームともにビルドアップされた肉体を持つ選手が揃っていて、第1試合を戦った2チームとは明らかに胸板の厚みが違う。もちろん、法政や中央にも筋肉自慢は居るだろうが、選手全員が平均的に鍛えられた身体を持っているかには疑問符が付く。また、アップの状況をみても直前までとは違った張り詰めた空気が流れ込んできたように感じられる。
東海大のメンバー表を眺めると、先発メンバーに占める4年生はアタアタ主将以下5人。1、2年生が6人含まれるフレッシュな陣容で、春は苦戦続きだったことが窺われる。この日欠場している主力の復帰が待たれるところ。一方の拓大では、昨シーズンに主将を務めながら、ケガのため公式戦出場が成らなかったシオネ・ラベマイが復帰。昨シーズンにCTBからLOにコンバートされ、ラインアウトなどでの空中戦を制する形で入替戦勝利に貢献したアセリ・マシヴォウはFLでの出場。さらにCTBには新人のマヒナ・クイントンが起用されている。言わば筋肉の鎧を纏った戦士を揃えた拓大のパワーが東海大にどこまで通じるかがこの試合の見どころの1つだった。
◆前半の戦い/東海大ペースで試合が進む中、強力スクラムで一矢報いた拓大
キックオフからコンタクトの音が競技場内に響き渡るような肉弾戦が展開される。第1試合とはパワーもスピードも違い、そこで戦ったどちらのチームが出ても怪我人が続出するのではないかと危惧されるくらい。序盤戦のスクラムで拓大が東海大を押し込み、場内がどよめいた。拓大にはシオネのような強力な選手がいるが、LOの木村も遜色ないくらいに体幹が強い。
さて、序盤戦から主導権を握ったのは東海大。自陣からもキックは封印し、BK展開主体でボールを大きく動かすラグビーは東海大の持ち味と言える。拓大も強いタックルを武器に易々とは全身を許さないものの、なかなかボール奪取ができず自陣での戦いを強いられる苦しい展開となる。東海大は5分に拓大陣ゴール前のラインアウトからモールを形成して押し込みFL深見がトライ。14分にもモールを押し込んでHO加藤がトライ。さらに20分、絶妙のキックパスがSH山菅に渡りトライが決まる。この日司令塔を務めたのはルーキーの丸山。レギュラーの眞野の不在を感じさせないくらいに溌溂とプレーしていた。
このまま東海大のトライラッシュが続き、一方的な展開となるかと思われた。が、緒戦ということもあり、東海大にもミスが目立つ。タックルに遭ったところで前にボールがポロリとこぼれる形で、拓大にもしばしばチャンスが転がり込む。残念だったのは、せっかくアンストラクチャーを活かしてターンオーバーできても、選手が慌ててしまったためかミスでことごとく逸したのが本当に残念。そんな中でも、拓大のスクラムは優勢。28分の左WTB橿原のトライは、そのスクラムの強力なプッシュから生まれた。
拓大がここであと1つトライを取れたらと思わせたがゴールラインは近いようで遠い。終了間際の40分に東海大がまたしてもキックパスを活かしたトライを奪い26-7のリードで前半が終了した。SO丸山は安定したゴールキッカーでもあることをアピール。また、CTBアタアタにマークが集中する中、1年生ながら強力な突破を見せた大型WTBの望月も楽しみな選手。
◆後半の戦い/ゴールラインは遠かったものの、手応えを感じさせて拓大
後半も東海大は自陣からのキックを封印してボールを動かしながら攻め続ける。拓大は我慢を強いられる局面が多く、東海大のミスにより生まれるチャンスを活かせない。東海大のキックが少ない事もあり、アセリが見せ場を作れるはずのラインアウトが少ない事も痛い。後半早々の3分と7分に東海大がトライを奪って40-7となる。
最初にも書いたように、1、2年生が6人を占める東海大だが、SO丸山、WTB望月の他にNo.8山田、FB酒井、LO小池らも溌溂とプレー。テビタ、眞野、モリキといった主力選手が復帰すれば何人かは控えに回るのかも知れないが、このまま出場を続けて成長して欲しいという願望も禁じ得ない。今シーズンは春から1年生を積極的に登用してきたことが成果を示し始めているのかも知れない。いずれにせよ、首脳陣にとって贅沢な悩み。
拓大にも楽しみな新人がいる。13番を付けて登場したマヒナは、後半には頻繁にSOの位置に立ってラインをコントロール。チームに馴染んでいけばBKの要として活躍できそう。そしてシオネ・ラベマイはやはり強力。1年生の時から潜在能力では日本代表やサンウルブズに欠かせない存在となっているヘル・ウヴェを上回ると期待させた選手だけに、より強い気持ちでピッチに立っているに違いない。そんな楽しみな選手達の身体を張った活躍もあり、8分以降は得点板がまったく動かない拮抗した展開となる。
さて、前半は拓大が優位に立っていたスクラムだが、東海大もしっかり修正。両者がほぼ互角か逆に東海大が押し込む場面も増えたことがまた観客席をどよめかせる。局地戦とはいえ、まさに意地と意地とのぶつかり合いは見応えがある。最終的に終了間際の36分に東海大が1トライを追加して47-7がファイナルスコアとなった。東海大のトライはFWによるものが多かったが、元来は大きくボールを動かしてWTBで取ることを目指しているチームだと思う。WTB望月がビルアップしたらそんなシーンをたくさん見ることができそうだ。
◆試合後の雑感/スコアは一方的だが見応えがあった好ゲーム
第1試合は43-10で第2試合も47-7とスコアからは一方的な展開に見えた2つの試合。だが、第1試合の2チームは前途多難を思わせ、第2試合の2チームはまずまずのスタートと言った具合に印象はまったく異なるのがラグビーの面白くて難しいところ。東海大、拓大ともにキックオフ前に抱いた不安感は解消されたと言ってよさそう。東海大は主力の復帰、拓大は経験の積み上げと言った具合に楽しみなプラス要素がある。とくに拓大は台風の目となることが期待される。鍛え上げられた肉体を武器とした展開ラグビーの開花に期待したい。
◆スタジアムについて想うこと
本日が初体験の長野Uスタジアムだったが、最後まで快適に観戦を楽しむことができた。座席数15000人余りのJリーグ規格を充たしたフットボール専用の競技場。改めて、このクラスのラグビー専用の競技場が本当に少ないことに気付く。言い換えれば、サッカーファンにとってはこのような観戦環境がスタンダードになっている。ちなみに、ここをホームとするAS長野パルセイロはJ3で戦いの場だ。
サッカースタジアムのJリーグ規格の事が気になり、ネットで見つけたのが日本サッカー協会により2010年に纏められた『スタジアム標準』(サッカースタジアムの建設・改修にあたってのガイドライン)。一般的にスタジアムの建設にあたってキーワードになるのは、収容人数であったり、アクセスであったり、競技以外の興業への活用であったりする。如何にたくさんの観客を集め、興行収入を増やすかがカギ。そう思い込んでいたところで出逢ったこの『標準』に記された内容は(ラグビーファンにとって)羨ましくもありとてもショッキングな内容だった。
「スタジアムが提供すべきもの それは、ここに来て良かったと思えるような感動の時空体験(以下、省略)」と記された序文にまずは心を奪われる。そして、「第1章 スタジアム建設の基本方針」の最初に記載されているのが「快適性」。スタジアムの建設に当たって何よりも優先されるのは「観客に快適な観戦環境を提供出来るように配慮すること」で、もう溜息しか出ない。Jリーグのチームが生まれる際に、必ずこの『標準』に基づいた協議が行われる。そのプロセスを経て生まれた競技場のひとつがここ長野Uスタジアムだということに納得させられた。
『スタジアム標準』は2002年サッカーワールド杯開催時に作られた標準がベースになっている。そう考えると、2019のラグビーW杯開催にあたって、観客の快適性にどのくらいの議論の時間が割かれただろうかと考えてしまう。観客の快適性は優先的に議論されていいはず。失われてしまった時間のことはさておき、そう気付かされただけでも長野Uスタジアムで観戦した価値があったと思った。