◆書く/読む/喋る/考える◆

言葉の仕組みを暴きだす。ふるい言葉を葬り去り、あたらしい言葉を発見し、構成する。生涯の願いだ。

BF#3/感想7(ネタバレあり!)

2005-10-23 17:59:40 | 創作
7.『Der Freischuetz』 Kaleido Scope

【粗筋】 私、リーザリッツ・ルン・ヴァレスタシアは貴族として生まれた。十三才の誕生日に魔力で母を殺し、二人の使用人も殺して、監禁されていた牢獄から外に出た。父はすでに殺していた。そう。私はその日、魔女として覚醒したのだ。先祖がえり、というやつらしい。それから六年後、ヴァレンスタシア家の代表となった私は、唯一の使用人レイアとともに屋敷に暮らした。
 アルアジフ魔術学院――魔術に携わる意思を持った者達が集まる古代からの知識のるつぼ。十九才になった私はそこに通っている。お気楽で身勝手で、衰退していく人間たちと一緒にいると、魔女としての誇りだけは失っちゃいけないと思う私だった。だが、日本からの留学生にして学院の首席、明神千夜、「にぱっ」と笑う目の弱いカルストル嬢(ジョゼ)らと、ひょんなことから知り合って交友関係を持つ。
 しかし、この学院にも、カトリック教会の魔女狩りの手が忍び寄る。あわやのところで狩られそうになった体験を持つジョゼは、意を決したかのように「倒そうよ」という。それをキッカケにして、私たち三人は魔女狩りの騎士に反撃を開始するのだった。

  *

 彩世さんもそうだったが、この作品は「BF#3」にはめずらしく、かなり本格的な物語形式を持っている。物語の舞台(魔女、魔女狩りから推測されるようには、決して古代を舞台にしてはいない)、キャラクター設定、しっかりと構成されたストーリーとプロットに、それが現われていると考える。また採用されているエクリチュールは現代的なのに、どことなく古代の叙事詩を再現してみせもする。魔女狩りの物語に特有のジャーゴンだけではなく、漢字の多用にもそれは現われている。これらの点からだけでも、BFにとっては大切な作者のひとりだということがわかる。
 しかし、この作品の優れた特徴は、そうした小説テクの水準だけにあるのではない。ある明確な世界観を持っている、ということだ。大塚英志的にいえば、設定された世界観の上に作者は意識的に物語を走らせている。そしてさらに重要だと思えるのは、作者によってはっきりと意識されている世界観が現代への痛烈な批評になっていることだ。筆者としては、物語る作者の過剰に真摯ともいえる姿勢を天の河よりも高く評価したい。

 感想の最後として、結びに選ばれた感動的な言葉を引用しておこう。
「そう、きっと彼女は素晴らしい世界の架け橋となるだろう。だって後に彼女はこう呼ばれるのだ。
――魔女にして人間と共存する道を選び、魔界と人間界の手を取った女神、と。もう彼女に、魔弾はいらない。」

 これが現代を見据えた言葉でなくて何だというのか。
 自分の損得ばかりを見つめるクズが多い、この世界に。 《続》


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