風塵社的業務日誌

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『教養としての現代社会入門』

2020年05月26日 | 出版
某日、ある方から電子体温計が贈られてきた。その方は、なんでも数年前にインフルエンザにかかってひどい目に遭われたそうで、以来、体温計を箱買いなされていた。そこでこのコロナ騒ぎのなか、小生もおすそ分けにあずかったという次第である。ありがたい話だ。早速お礼のハガキを出そうとしたのだけれど、実は、ハガキに認(したた)めるのがかなりおっくうになってきている。老眼が進行しているため、自分の書いている文字に焦点が合わないからだ。
そのうえ、小生は元々かなりの悪筆であり、なおかつ、漢字が思い出せなくなっている。ハガキを書くとき、下書きをする人なんて少数派だろう。小生も、そんなことをするわけがない。お礼と簡単な近況を記すくらいのものである。それだけの作業のはずなのだが、おのれの書いている文字にポイントが定まらないと、どういう文字を書いたのかすら怪しくなってくる。そのうえ、漢字が出てこないのだ。「世相」を「世想」と書きそうになり、ふと心配になり辞書を開くとやはり「世相」である。こんなんでよく校正をやっているなあと、われながら感心してしまった。そのうえ、辞書の活字は小生の書いている文字よりずっと小さいはずなのに、ところがなぜか不都合なく読める。なぜなのだろうか。世のなかは不思議にあふれているのだ。
これは前に記したかもしれないが、このコロナ禍のもと、ある人からはマスクを2回もケースでいただいた。ありがたい話である。しかし、当然ながらというべきか、それでも小生はマスクなど着用しない。3密とはまったく縁のない職場環境で仕事をしているのだから、マスクの必要なんてないわけだ。いただいたそのマスクは、妻が使い切ってしまった。そこにもって、今度は体温計である。いろんな人のお世話になっていることを、素直に感謝しておきたい。
それはともかく、朝刊を読んでいたら、大統領選を前にした米国では民主党支持派はマスクを着用し、共和党支持派はノーマスクとあった。すると、ノーマスク派の小生も共和党系かと、どこか苦笑してしまう。しかし前にも記したように、共和党の建党理念にはアナキズムの要素が色濃く交じっている。つまり、国家の干渉を極力排除し、わが身は自分で守るという精神が根強いということである。したがって、マスク着用を命じられることには反発を覚えてしまう。その気分は、小生も共有しているところがある。したがって、マスクなどしない。
問題はもちろん、そんなところにはない。「わが身は自分で守る」という精神が、全米ライフル協会なりトランプなりのような「力こそすべて」という結果に転じてしまったところに問題がある。これは共和党にかぎったものでもない。それが生れたときの理念が別の禍々しいものに転じてしまった例はマルクス主義にも見出せるし、ウェーバーの『プロ倫』でも描かれている。したがって、現在の共和党を小生が支持するはずもないのに、マスクをめぐる現象では同じ行動様式をとっている。そのゆえに、苦々しい笑いがこみあげてくるわけだ。
ところで、そうした理念の変転を鮮やかに描いた弊社刊の名著『教養としての現代社会入門』が、某大学の日本語の入試問題で使われましたと、著者のKMさんからメールがあった。ヘーと思い、添付されていた入試問題のpdfを読んでいて、該当箇所に誤植がなくてほんとによかったと胸をなでおろすことになる。もちろん、誤植があれば出題者もその訂正くらいはするのだろうし、実際、本書にはないルビが振られている語もある。それでもだ、間違いがあれば恥ずかしいに決まっている。
そして、せっかくなので、小生もその入試問題を解こうと思ったのだが、1問目からしてわからない。これは単純な漢字テストなのだけれども、辞書を引かなければ見当もつかない。そして、しばらく漢字テストが続いてから、どの語義が正しいのかという問題となる。そこで感心してしまった。正しいもの、誤っているものを含め、いくつかの例が示されているのだけれど、出題者はその字数をすべて同数にそろえているではないか。なかなかの手練れだなあと感じ入った。
昔からよくある話に、ある文章が試験に使われたとき、その著者の方も試験の内容に答えられないというものがある。『教養としての現代社会入門』が小生の著作でないのは当り前であるものの、編集者としてその試験内容を考えたとき、やはり答えにくいものがあるのを感じる。特に、その某大学の入試はマークシート方式なので、似たような意味の文章から「これ」というのを抽出しなければならない性格のものである。それは中学生のころから苦手であった。
なにせこちとら車の免許を取るときも、筆記で3回くらい落ちたことがある。その後その免許は失効し、車の運転からおさらばできてサッパリした気分ではあるものの、そのくらいマークシートを苦手としている。おつむの悪そうなヤンキーちゃんでも一発で通る試験なのに受からないのだ。そんなんで3流大学とはいえ、一浪してからとりあえず大学によく入れたなあとわれながら感心してしまった。そんな編集者がたずさわった本で、受験生に不幸が生じなかったことを祈っておこう。

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