クタビレ爺イの二十世紀の記録集

二十世紀の2/3を生きたクタビレ爺イの
「二十世紀記録集」

見えない心

2009年02月23日 | 日本関連
見えない心

凶行を競い合うかのような少年たちの凶悪犯罪が連発して、大人たちを困惑させている。彼等の共通点の中に神戸の少年を英雄視していることがあると言う。人間関係に傷つき、挫折して、生活に充実感を持てなくなった少年たちには、世間に大きな反響を引き起こすことで空虚感を埋め、生きた証しを実感したいと言う願望が強い。そこには善悪の判断が存在しないようである。そして、その願望を体現してみせたのが、『神戸の少年』と言うことらしい。先日のバスジャック事件の少年は2000年 6月 5日に広島家裁に送致された。残虐さや陰湿さの度合いを増し、時に衝動的で動機さえ見えにくくなっている少年事件の暴発の深層を探ってみる。

①連鎖
1997年、神戸で起きた連続児童殺傷事件で逮捕された 14 歳の少年は、少年鑑別所で大声を上げ『騙された』と言って一瞬怒りの表情を見せた。家庭裁判所の審判の時である。少年は捜査員から犯行声明の筆跡が一致したと告げられて自白していたが、実際の鑑定は、『本人の物かどうか分からない』と結論していたのである。そのことを担当の弁護士から知らされて、少年は口を歪めて怒鳴ったのである。少年が僅かでも感情を見せたのは、それが最初で最後であった。弁護士の接見は30回にも及んだが、担当弁護士は一度として人間らしい言葉を受けとる事は出来なかった。少年の心は今も見えないままである。
大きな事をやって認められたい。しかし、現実には誰も評価してくれない。そんな思いの繰り返しの果てに暴発が起きる。
1999年 8月 9日、愛知県西尾市で女子生徒を待ち伏せして刺殺した 17 歳の無職の少年の犯行は半年も前から少年が 16 冊の大学ノートの日記の中で想像していた『殺害計画』その儘の犯行であった。少年の日記には『実行日まで後10日』『後 9日…』とカウントダウンが記されている。『クラスで一番の成績を取りたい』とは中学二年の 12 月、期末テストを終えた時の日記である。この時の成績は 500点満点で 433点であった。しかし、三年に進級したある日を境に、日記は異様さを見せ始める。1997年 6月 28 日、神戸の事件で同じ14歳の少年が逮捕された日、『凄い悪いことをしてマスコミを騒がせた。尊敬する』と日記に書いた。自らを『猛末期頽死』と呼んだのは、明らかに神戸の少年が脅迫状に使った『酒鬼薔薇』の名前を意識した物である。この少年は、1998年 10 月、同級生の女子生徒に交際を申し込んで断られている。半年後には希望の高校に入り、この女子生徒も同じ高校に進んだが『中学の時に殺して置けば良かった』と日記に書き、三か月で高校を中退する。手紙や電話でその生徒に嫌がらせをするようになったのはその頃からである。
『人生に失望した。殺人をすれば帳消しになる』『乱暴して切り刻み殺してやりたい』とは1999年 3月の日記である。そしてその年の夏、カウントダウンが始まった。
西鉄バスジャックの佐賀の少年も犯行直前に書いたメモの中で『京都で切られ、沼津で切られ、そして豊川で切られた。素晴らしい』と綴っている。京都市の小学生殺害事件、沼津市の女子高校生刺殺のストーカー事件、豊川市の 17 歳少年による主婦殺害事件など、昨年末から今年に掛けて相次いだ事件を強く意識したメモである。このバスジャック少年に付いて広島県警も『動機の奥底に神戸の事件への憧れがある』と分析しているが、この少年のパソコンには、神戸の事件を特集したホームページに何十回もアクセスした形跡がある。
今年の五月、神奈川県内のJR根岸線車内で乗客をハンマーで殴った高校二年生も警視庁に送った予告文で『またもや 17 歳の凶行』と書き込んでいる。愛知県西尾市の女子生徒刺殺事件の少年は、捜査員に自分の犯行を扱った新聞の切抜きをねだり『自分のニュースは神戸のときより大きく報道されているか?』と尋ねたと言う。

②衝動
五月二十四日、鹿児島県姶良(アイラ)町のスーパー内で事件が起きた。店員の一人はその少年が『殺してやる』と呟いたのを確かに聞いていた。その瞬間に少年は、調理台の上にあった包丁を手にしていた。包丁は店長の左胸に刺さった。少年は更に俯せに倒れた店長に馬乗りになり、何度も包丁を振り下ろした。客の一人に羽交い締めにされた少年の視線は宙にさ迷っていた。その衝動は、揚げ物のパン粉の付け方が悪いと注意されたことだけで起こってしまっている。少年は昨年の春に中学を卒業したことになっているが、三年生の時は一日も登校せず、自宅に閉じ籠ってテレビゲームに熱中していたのである。そして今年の四月に惣菜店にアルバイトとして採用される。店長は少年のセンスの良さを認めて、普通ならアルバイトにはさせないことになっているパン粉付けを担当させる。店長が少年にしばしば注意をしたのは、早く習熟させて正社員にしてやろうと言う気持ちがあったからである。この事件の捜査員は『何時も注意されていたことが積もり積もっていたらしい。それがその日の極めて些細な一言でキレた』と見ている。しかし少年は、このような対人関係のストレスの爆発でキレた自分の心を説明することができない。
昨年の十月、東京八王子の私立高校で、一年生の女子生徒が授業中、黒板に向かっていた男性教師に突然ナイフで切りかかった。幸いにしてこの教師は軽傷ですんだが、女子生徒は、遅刻を注意されムシャクシャしたと供述している。彼女はクラスに馴染めず、イジメにあっていると悩んでいたそうである。この日、始めて学校にナイフを持って来たのも、誰かに襲われると言う不安に駆られたからである。しかし彼女はその様な心の内を、家族や学校には打ち明けていない。この少女も惣菜店アルバイト少年と同じように、学校生活の悩みを心に溜め込み、それがある日突然爆発したのである。
長野県では、昨年の十月に高校一年の男子生徒が、包丁で父親を刺殺している。この父親は躾には特別に厳しく時には殴ることもあったようである。少年は一人暮らしをしたいと頼んだが、認めては貰えなかった。いつもの口論の中で父親は『未だお前には負けない』と言った。この一言で少年は震えだし、包丁を持ち出したのである。
衝動的に事件を起こす少年を数多く見てきたある大学教授は『彼等の多くはテレビやゲームに囲まれ、生身の人間と接する機会の少ないまま育ってしまった。これでは人との接触にストレスを感ずるのである。そして、それが究極まで高まると、自分の意に沿わない刺激に対して風船が破裂するように感情が爆発する。これがキレルと言う現象である。ここでは、爆発したと言う記憶がない場合も珍しくない。詰まり少年の衝動殺人の増加は、
対人関係の築けない若者が増えている証拠である』と説明している。

③深い傷
昨年の八月、東京都内共同生活寮一階食堂で定時制高校二年の少女は、擦れ違いざまに、一歳年上の少女の胸をナイフで刺し、三週間の傷を負わせた。『消さないと自分が消される』『消される前に消してしまおう』とは、少女が取り調べの時に漏らした言葉である。ナイフは、一年生のときに購入し、肌身離さず持ち歩いていた。少女はナイフがないと不安であったのである。彼女は流血を伴う夫婦喧嘩を目の当たりにして育ってきたし、父親から受けた体罰も数知れない。七歳のときに両親が別居したので母親の実家に移り住んだが心の休まる時はなかった。今度は母親から『生むんじゃなかった』『湯船に沈めて殺せば良かった』等の容赦のない言葉の暴力と体罰を受けるようになったからである。いつしか、彼女は周囲を敵と味方に分けて見る事しかできなくなっていた。猜疑心も極端に強くなり、ナイフを買ったのも身を守るためであった。この事件の切っ掛けは、食堂で被害者から無視された事であり、自分は殺される、先にやらなくてはと言う唐突な思いに駆られた。この少女は、簡易鑑定で外傷性ストレス障害と認定されるが、虐待が心の傷として心に刻み付けられていたのである。家裁の裁判官は『人に対する信頼を失い、些細な事にも生命の危険を感じていた』と指摘している。
一昨年の一月、茨城県の県立高校の一年生の教室で悲鳴が走る。教室の前の扉から入ってきた十六歳の男子生徒が、そのまま最前列の女子生徒の額に包丁を突き刺し重傷を負わせた。この少年は中学時代から苛めに悩んでいた。女生徒は彼のことを『バイ箘』と呼んで蔑んだ。高校入学後、少年は悲しい誓いを立てる。女子生徒とは話をしない、女子の体と持ち物には絶対に触れないと言うものであった。その事件の当日、一時間目の休み時間に校内放送で呼び出され、宿題を提出しなかったことを教師に注意される。ここで彼に、また苛めが始まると言う恐怖心が芽生える。その直後に教室で立ち話をしていた女子生徒の背中に自分の肘が偶然触れ、『誓いが破られた』と感じた。少年が混乱した頭で、校舎を出て自転車に乗り、シヨッピングセンターまで包丁を買いに走ったのは、二時間目の終了後である。そして三時間目の始まりから十五分後に包丁を持って教室に帰り凶行に及んだのである。家裁が決定した医療少年院送致の『処分の理由』には、『こうした精神状態に至ったことは、苛め体験が大きく影響している』『劣等感を刺激されると、激しい不安や緊張を生ずる』とある。
五月十二日、JR根岸線の中で乗客の一人をハンマーで殴り付けた私立高校二年の少年は小学校のときにされた悪戯の復讐であると言う。彼等は何故に心の傷を反社会的な行動に転化するのか?苛めや虐待で損なわれた自我を取り戻そうとしているのか?傷を負って心が萎縮したままでは大人になれない。しかし心に植え付けられた周囲への不信感からの自我回復の叫びは不健全な形を取ることが多い。西鉄バス乗っとりの少年も、やはり学校で苛めを受けた一人である。この少年の母親は、精神科医に当てた手紙に『苛めが原因で、中学三年の夏から荒れ始め、まるっきり違う人格のようになり、家庭内暴力になってから二年半…』『落ち着いては来たものの、反面何か違う方向へ行く危険もあり不安でした』と書いていた。
                                       ④仮想世界
今年の初め、首都圏の住宅街で刃物で無残に傷つけられた猫が相次いで見つかった。あるものは耳を切られて顔面血だらけ、あるものは足を切り取られ路地に蹲っていた。周辺にはキャットフードが散らばり、明け方には烏か群がってきていた。怒った住民たちは張り込みを続け、近所の高校生が深夜、路上にキャットフードを撒き、野良猫を呼び寄せている姿を目撃する。この少年が猫の耳や足をナイフで切り落としていた犯人であった。
大企業に勤める父親と専業主婦の母親に育てられたこの少年には、苛めを受けたことも、非行に走った経験もない。但し、小学生の頃からテレビゲームに夢中になり、外で遊んだ経験が殆ど無かった。高校に入った年の秋から、『集団生活に馴染めない』と言い出して自宅に引きこもり、テレビゲームとナイフ集め以外には何の興味も示さなかった。
母親から相談を受けて面接したクリニックの医師は、『切れ味を試しただけなのに』と
屈託なく話す少年の態度に驚愕する。動物虐待に於いては、虐待は悪であると承知しながら苦しむ動物に快楽を求めるケースが多い。しかしこの少年は、猫の耳や足をロボットの部品ぐらいにしか考えていなく、罪悪感などは全く無かった。この時の医師は『テレビゲームの影響かどうかは分からないが、ゲームのように現実感がないまま、命を弄んだ事は間違いない』と判断している。
今月の五日、新潟地裁三階の第一号法廷では、青白い能面のような表情をした十八歳の少年への被告人質問が行われていた。『遺族の気持ちが分かるか?』と言う検察官の問いに『分からない。悪いことをしたとは思っていない』と答えた。この少年が『殺すのは誰でも良かった。被害者とは一面識もない』と言って自首してきたのは昨年の五月の事、その四か月前、新潟県小千谷市の会社員宅で、留守番をしていた 75 歳の女性が撲殺された。家では、テレビゲームしかしなかったと言うこの少年は、逮捕直後に『朝目覚めると、ふと自殺したくなった。人を殺せば自分も死ねる筈だと思った』と言う供述をしている。
そして被告人質問でも、何度もこの言葉を繰返した。
昨年の五月、横浜市泉区の会社員宅で、当時中学二年生の三男が母親を包丁で刺殺した事件を担当した捜査員は、この少年が逮捕の直後に『無断欠席を注意されてカッとなった』と供述していたのに、包丁を事前に準備していたことを追及されると供述を変え『家族が一人死ぬとどうなるか?人を殺すとどうなるかが知りたかった』と言ったのを聞いて、背筋が寒くなったと言っている。この少年にその前夜にも乾電池を積めた袋で、寝ていた兄を殴り殺そうとしたが、寝返りをうったので断念したとも供述した。
『何の迷いも無く、人を殺したいと言う少年たちの凶行、これらは単なる偶然の出来事ではない』とするのは、新潟の少年を精神鑑定した専門家である。彼等には現実感がない。新潟の少年は自分が殺人をしたことすら忘れ掛けているから、後悔もしないのである。
どうやら、ゲームやインターネット等、少年たちを仮想現実の世界に引き込む要因が多すぎるのではないか?テレビゲームで人を殺しても、死の恐怖や痛みは伝わらない。他人との触れ合いよりも、仮想現実を選んだ少年たちは、死への恐怖も痛みも感じていないのである。先月豊川市で見ず知らずの主婦を殺害した高校三年生は『殺人は僕にとってどうしても経験しなくてはならない事だった』と言ったが、今も供述を変えていない。

⑤居場所
高校一年の少年は、札幌市の自宅二階の自分の部屋で、エアガンの狙いを定めていた。遊び仲間の一学年上の少年とその弟の中学二年の少年が標的であった。そして数㍍しか離れていない二人にプラスチック弾を命中させる。それに飽きるとライターで真っ赤に熱した安全ピンを腕や足に押しつけた。木刀で殴りベットに全裸で座らせて写真も撮った。少年がこの二人から現金を脅し取るようになったのは、昨年の五月頃からだった。最初は百円単位であったが、その内に一万、二万、五万円とエスカレートしていった。十一月頃からは、数日おきに自分の部屋に呼び付けるようになり、親の金でも通帳でも盗んで来いと言っては異常な暴力を繰返した。兄弟は今年の一月、自宅から残金百万円の預金通帳と印鑑を持ち出す。少年は百万円の札束を受けとると、ご褒美だと言って兄弟に十万円づつを渡している。周囲にはあの三人は仲が好いとだけ写っていた。少年は被害者の二人に付いて『彼らとは遊び仲間だと思っていた。何時も一緒にいたのでそんなに悪いことをしたとは思っていない』と供述した。しかしこの兄弟は、恐怖で食事も喉を通らず、体重が数キロづつ減って行っていたのである。
先月六日の夜、埼玉県入間市内の公園で、四人の少年・少女が高校二年の少年を取り囲んでいた。竹で腹を殴り無理やり立たせて蹴り続けた。暴行は二時間も続き、やがて少年は動かなくなった。少女が手首に触れたが、もう脈は無かった。少年らは男子生徒を担ぎ、数百㍍離れた狭山市内の雑木林に捨てた。リーダー格のアルバイト少年十六歳が狭山署に出頭して来たのは、十二日の事である。翌日には別のアルバイト少年十六歳と、県立高校二年の女子生徒二人、中学二年の少年が逮捕された。発見された男子生徒の遺体の顔は、無残に腫れ上がり、内臓は破裂していた。
この場合は、加害の少年二人と被害少年は中学の同じグループの仲間で当時からこの被害者は、玩具のように苛められていたと言う証言がある。リーダー格の少年も、中学二年までは一学年上の不良グループに呼び出され殴られており、下校時には人目を避けて裏口から帰宅していた。しかし、三年になると髪を茶色に染め、苛める側に回ったのである。中学卒業後は、静岡県内の工場に住込みで就職したが同僚とトラブルを起こして、今年の四月には自宅に戻っていた。当然の事ながら地元の仲間たちは高校に進学しており、遊び相手は居なくなっていた。こうして少年はどこにも居場所がなくなり追い詰められていたのである。そして少年は昔の中学のグループに声を掛けて呼び集め、自分の悪口を言ったなどの理由を付け、リンチを加えるようになった。自分の居場所を取り戻すのに暴力しか見つからなかったのである。被害者も転んだなどと言って苛めを隠し続けた。
これら少年たちは『一人だけ弱虫と言われたくない』『仲間外れにされたくない』と言う思いから、グループの行動にひたすら自分を合わせようとする。そうした彼等が、時には加害者となり、時に被害者になる。自分本来の居場所を見つけられない中で、手近な仲間との関係が断ち切られる事への不安を本能的に感じている。だから苛められても集団にとどまり、見えない心の不気味さをそこに広げるのである。
これを書いているうちにも、岡山で高校三年の野球部員が母親を撲殺し、部員の下級生に重傷を負わせて逃走する事件が起きている。

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