投稿者:ゆうこ
息子の異変に気づいたのは、2学期が始まって間もないころでした。
起き抜けに「おなかいたい」とうずくまる。
どうにか朝食のテーブルについても、一向に箸は進まず。
それでも、なんとか間に合わせてお迎えのバスに乗せてしまえば、特段の問題もなく過ごして帰ってくる。
そんな日が幾日も続きました。
最初は、夏休み明けの「おさぼり病」とタカをくくっていましたが、「イタたたた……」と顔をゆがめるその様子は、あながち仮病と言えそうにありません。
そういえば、生後6ヶ月ごろから原因不明の下痢に悩まされ、1年もの間、投薬治療をしていたことを思い出しました。
念のためかかりつけ医に相談し、血液検査を行いましたが、異常は見つかりません。
じゃあなんで? こんなに痛がるの?
「これはねお母さん、登校拒否の子どもさんに多い症状で、反復性腹痛という病気です。幼稚園で何かあるのかな?」。
まさか!
イジメにあっているとか?
先生とウマが合わないとか?
いろいろ考えましたが、見当がつきません。
近ごろは「今日は何して遊んだ?」「いま誰と仲よしなの?」と尋ねても、「べつに」とか「ヒミツ」と返ってくるばかり。
担任の先生に相談してみると、「毎日楽しそうにやっています。お友達にも積極的に関わって、いつも遊びの輪の中心にいるタイプなんですが……」と、少し驚いた様子。
正面から本人に問いかけるのも躊躇され、腫れ物に触るような感じで、しばらくは過ぎていきました。
ところが、ある晩のことです。
その日は少し早めにベッドに入ったので、息子と妹を相手に、簡単な影絵をやってみせました。カニや、チョウチョ、オオカミなど、どれも単純なものばかり。
しかしこれが案外ウケたので、気をよくした私は、犬にみたてた片手を息子の顔に近づけ、何気なく話しかけました。
「やあ! ぼく、わんわん。キミがなおきくんだね? あのさ、何か今日、幼稚園でいいことあったかい?」。
すると、いとも簡単に彼は口を開きました。
「あのね、幼稚園つまらないんだ」
「え? なんで?」
「今月からバスが2便でしょ。幼稚園に着いてお着替えしたら、すぐにお片づけだよ。遊ぶ暇ないの」。
息子の園では、6コースに分けた地区を3台のバスでやりくりするため、2ヶ月ごとに早便と遅便が交代し、出かける時刻に1時間の違いが出るのです。
なあんだ、そんなことだったのか。
大人が考えるほど深刻なことじゃなくて、よかった!
それでも本人にとっては一大事なわけです。わんわんはすかさず答えました。
「でもキミって、ラッキーじゃん? だって、こんど1便になるのは10月だよ。10月っていえば、庭にどんぐりがいっぱい落ちる季節! 朝着いて、飽きるまでどんぐり拾いしていいよ。その次の1便は来年の2月。2月っていったら、大好きな雪の季節! 一番乗りでそり遊びだ! キミってツイてるなぁ!」。
してやったり!でした。
みるみる彼の顔は明るさを取り戻し、
「そうだね、わんわん!」
と言うと、嬉しそうに眠りに入りました。
そして翌朝から嘘のように、腹痛は消えたのです。
以後わんわんは、よき相談相手としていくつもの問題を解決してきました。
人前で歌うのがイヤで祖父母参観をサボろうとした時も、運動会で一等を取るにはどうしたらよいか焦っていた時も、母には決して明かしてくれない悩みを聞き出し、息子を支えてくれたのです。
すごいなあ!
あっぱれ、わんわん!
一方、妹も、わんわんの魔力には完敗の模様。
2歳の誕生日を迎えた彼女は、いつの間にか野菜嫌いが定着してしまいました。
みじん切りの野菜を一つ残らずつまみあげてはお皿の淵によける、そのワザはお見事。
いくら言い聞かせても「寝たフリ」や「ふくれっつら」でかわすので、ある日作戦を変更し、“ダメもと”で食卓にわんわんを登場させました。
「やあ! ぼく知ってるよ。キミって頑張り屋さんだよねえ。フレフレっゆいちゃん! それっ!」。
すると彼女は突然スプーンを握り直すと、よけた野菜をパクパクと口に放り込むのであります。
いや~驚いた!
恐るべし、わんわん。
しかし、それじゃあ母の存在意義って、いったい……?
育児サークル「わはは」
投稿者:ゆうこ