2011年読書記録
52; 『世界の詩 5 室生犀星詩集』
室生犀星 (著)
山室静 編
彌生書房
昭和38年
197P
『世界の詩 5 室生犀星詩集』を楽しむ。
久しぶりの室生犀星は以前読んだ時とはまた違った印象。
基本好きなものが多かった。
わたしの読みが悪かったためか、たった一編、「唾」だけは気持ちが悪かった。
「三月」という詩に感心した。
この詩は縦書きしたい。
ここでは便宜上、横書き。
三月 室生犀星
うすければ青くぎんいろに
さくらも紅く咲くなみに
三月こな雪ふりしきる
雪かきよせて手にとれば
手にとるひまに消えにけり
なにを哀しと言ひうるものぞ
君が朱なるてぶくろに
雪もうすらにとけゆけり
『世界の詩 5 室生犀星詩集』彌生書房を写す
「三月」
言葉も意味も美しい。
色感が豊か。
詩をたてに見ると、視覚感覚が素晴らしい。
三月の【三】
この三本の横棒が、あちこちに織り交ぜられている。
とくにここと奪われたのは 【手にとるひまに消えにけり】
【三】を【手】でてまいに引き寄せる
【雪かきよせて】の言葉が引き立つ。
その間に【三】そして【雪】は【消えにけり】
掛詞が織り交ぜられた【さくらも紅く咲くなみに】
この部分も好き
わたしは室生犀星を読んで、今回はこの詩が好きだった。
次のような詩「かんしゃく」があった。
特別に好きな詩という訳ではないが、ヴェルレーヌの冷たさに触れた後だっただけに、室生犀星の優しさを感じた。
こんなに人として暖かな「かんしゃく」を書いた室生犀星が、実は癇癪持ちだったと言う。
室生犀星は萩原朔太郎の子のために立派なちゃんちゃんこをみつくろい、自分の子どもにも少し控えめなちゃんちゃんこを購入した詩「ちゃんちゃんこの歌」がある。
こういう暖かな方の詩は安心して読むことができる。
かんしゃく 室生犀星
君のかんしゃくを記すと
そのかんしゃくすら
美しいものの限りをつくした
かんしゃくがあんなに美しいものであることを
僕は知らなかった
君はものを食べながら
こんなに噛んでゐたらあじがないといひ
つひにかんしゃくを記した
あはれ配給の肉も
にはとりのささみも
空しいかんしゃくのたねになつた
ささみも
肉も
雲霧のごとく掻き消えた今
かんしゃくだけ燐としている
『世界の詩 5 室生犀星詩集』彌生書房を写す
おつきあいいただきありがとうございました。
今回も題名記録だけで失礼申し上げます。