まちと表現、そして劇場  Town, expression, and theater

横浜を拠点に演劇公演を見て回るとともに、地域の芸術文化、まちづくり、ビジネス、歴史など幅広く取材する中で……山田ちよ

野田秀樹作品の面白さもきっちり

2007年05月14日 01時19分01秒 | OFF演劇時評
楽塾歌劇『真夏の夜の夢』/下北沢・本多劇場/5月5日夜観劇
楽塾は、流山児祥が10年前、自分と同年代(ふだんは自分より若い世代の俳優を相手に芝居をつくってきた)と演劇のワークショップをしよう、と思ったのをきっかけに、45歳以上の男女5人で結成された劇団。創立時唯一の男性メンバーは退団したが、あとの女優4人は今回の「創立10周年記念公演」(写真は、記念公演を祝う文字を掲げた劇場ロビー)に顔をそろえた。その後加わったメンバーもいて、今回の出演者は48~65歳の女優12人。助っ人として流山児★事務所の男優4人も出演した。
私は神奈川県内の地域演劇を見て回っているので、主婦やサラリーマン、リタイヤ世代が出てくる舞台には慣れている。そういう人々には生活感があり、変なウケ狙いや、技術を誇示するところが無い、といったことから、いわゆるプロの役者たちにない魅力を感じることは多い。だが、「技術の不十分な俳優ばかりの舞台は苦しいな」と思うこともある。楽塾にも、正直言って「やっぱり、まだるっこしいな」と思える部分はあるが、中高年の女性の魅力と、経験とけいこ(多分、観劇経験もかなりあるのだろう)に裏打ちされた技術で、しっかり楽しませた。
脚本は野田秀樹。1992年8月、『野田秀樹の真夏の夜の夢』と題して、東宝の制作、野田の演出、大竹しのぶ、毬谷とも子、唐沢寿明、堤真一らが出演し、日生劇場で初演された。シェイクスピアの原作に『ファウスト』と『鏡の国のアリス』を少し絡め、舞台を日本に移してアレンジした。楽塾では2年前に、流山児★事務所のアトリエであるSpace早稲田で初演している。私は15年前の野田演出版を見たが、ほとんど忘れている。その時のメモによると、上演時間は休憩時間を除いても2時間半、今回の楽塾は2時間弱。野田お得意の言葉遊びのせりふは、楽塾ではだいぶ切っているようだ。
そのせいもあるのだろうが、野田が書いた入り組んだ構造の物語が、かなり理解しやすくなっている、と感じた。スピード感を大切にする野田演出版よりも、言葉の実感を大切にしているからではないか、とも思う。例えば、悪魔が「契約書を破棄する代わりに恋人たちの憎しみを倍にする」と言い放つと、恋人たちのけんかシーンが続く。悪魔のせりふの直後、その場に何となく「そりゃ大変だ。どうなるんだろう」という不安感が漂う。舞台上の俳優たちが、悪魔のせりふに対し、ちょっとした表情、息づかいなどで反応するからだろう。ただシーンをこなしていけばいい、という考えで演技していては、こういう空気は流れない。見る側は、その空気を受け取ることで、けんかシーンへと続く話の流れに無理なく付いていける。
こうした、実感を大切にする演技は、観客が話全体をつかみやすいように、という意識から生まれたと察せられる。単に中高年女性が熱演して楽しませて終わり、ではなく、豊かな発想でつくり出された野田作品の面白さをきっちり届けた舞台だった。