まちと表現、そして劇場  Town, expression, and theater

横浜を拠点に演劇公演を見て回るとともに、地域の芸術文化、まちづくり、ビジネス、歴史など幅広く取材する中で……山田ちよ

地元の偉人を描く難しさ

2006年03月25日 21時03分12秒 | Weblog
横浜アートLIVE2006では、3月18・19日に横浜・関内ホール大ホールで、アートLIVE10周年特別企画として『ど破天港一代~高島嘉右衛門 伝説の男が現代に贈るもの~』を上演した。写真は1月末に撮影した、この芝居のけいこ風景。
この作品は、高島易断の創始者として有名な高島嘉右衛門を描いたもの。嘉右衛門は単なる占い師ではなく、開港直後の横浜で活躍した実業家で、鉄道、ガス灯などの事業創設に貢献し、また伊藤博文はじめ政財界の有力者とも交友があった。開港直後、金貨の密輸の罪で投獄されたことも、その一生に影響している。こういう人物を主人公に、「横浜を元気づけられるような芝居をつくろう」とアートLIVEにかかわる横浜の演劇人が企画、作・演出は、東京の素劇舎を拠点に活動している花輪充さんにゆだねられた。
この芝居を見て、1月に川崎で見た『多摩川に虹をかけた男-田中兵庫物語-』を思い出した。こちらも地域の偉人を題材にした劇で、川崎の演劇人が発案、地元の劇作家が書き下ろした。
どちらも主人公の、人間関係や、勝負の時の葛藤など、人間くさいところをていねいに描いて、見せ場にしている。しかし、それだけでは、企画に期待して見に来るような、地元の観客は満足させられない。主人公が当時のまちや後生の人々に貢献するために、どんな努力や苦労をしたのか、ということをきちんと見せてくれなければ。ただ、そういうエピソードは、場面としては面白くなりにくい、という事情もあったかもしれない。それでも「地元の偉人のドラマ」を期待してくる観客にこたえる努力を、もう少ししてもいいのでは、と感じた。

「伝えたいこと」だけじゃない

2006年03月12日 01時13分28秒 | Weblog
横浜では、10回目を迎えた演劇祭、横浜アートLIVE2006が3月からスタート、これに先だって2月11日から3月5日まで、横濱世界演劇祭が開かれた。
世界演劇祭にはスコットランド、デンマーク、韓国の劇団が招かれた。
スコットランドのダンディ・レップシアターは、ナチス支配下のポーランドで、ユダヤ人の孤児の施設で指導したコルチャック先生の話(映画にもなった)を、3人で演じた。施設の子どもや彼らを監視する兵士らを人形を使って表現した。
デンマークのテアトレットは、男性2人のマイムによる無言劇で、「見知らぬ人を客として受け入れること(外国人を受け入れることにも通ずる)は、リスクはあるが大切である、といったことを伝えたかった」とアフタートーク(終演後、出演者らによる簡単なトークショー)で語られた。
韓国の劇団超人は、駅を舞台に貧しいマジシャン夫妻、物ごいの兄妹、その元締めらが登場、こちらも無言劇。演出家はアフタートークで「どんなところにも情深い人はいる、と伝えたかった」と話した。
いずれも、表現スタイルに工夫が凝らされている。つまり、「伝えたいことを伝える」という課題を果たすだけでなく、演劇の可能性を引き出す努力のようなものも感じさせた。
写真は、アフタートーク後、観客の母子と交流するテアトレットの出演者。