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【四四】ヤシモト顧問・ヤナーチク大人

 足跡【四二】研究所の下男であるヤシモト顧問は、ある日を境に夫人の手料理を食べられなくなってしまった。なにか歯に異常があるに違いない、床屋にでも寄ってみるか、と青と赤の管【五一】がくるりくるりと回転しながら上昇し続ける看板を目指して歩いていると、助手席に卵をのせた車【五二】の列に行く手を阻まれてしまった。幸運にもその中に知り合いのミラー氏を見つけたので、彼の車から始まるポリエチレン【一九七】容器を抱えた人々の列【五二】に加わり、一時間ほど順番を待って車に辿り着くと後部座席のドアを開けてもらい、向こう側の通りへとようやく抜け出ることができたのだが、上の歯が生え替わる最中だったらしく、膝頭にポロポロと乳歯を散らしていたミラー氏【一一】の不機嫌そうな振る舞いも今ではいい想い出だ。床屋の床の間に入って理容椅子に座ったものの、死臭を感じて落ち着かないヤシモト顧問に、理容師のヤナーチク大人が鮮やかな手つきでシーツをかぶせ、今日はどうなさいますか、と訊ねるので症状を逐一詳細に述べると、ではセンター分けがよろしいかと存じます【五三】、と大人はすすめ、ものの三時間ですべての工程を終わらせたのだった。床屋から出てきた顧問は、爽やかな気分で歩きはじめると、再びミラー氏の車の中を通らせてもらって家路に就いた。キッチンで待ち構えていた夫人にさっそく手料理を振る舞われたものの、 やはりどうしても食べられないのだった【五四】

リンク元【三六】赤ん坊・ジョージア嬢
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