カキぴー

春が来た

「低線量被ばく」 に関する考察

2011年11月10日 | 健康・病気
10月末、都内で開かれた国際シンポジウムに出席した細野原発事故担当大臣が、国内外の研究者を前に、「低線量被ばく」に対して長期間の研究が必要性なことを訴えた。 大臣は、「年間の被ばく線量が100ミリシーベルト以上の場合は、過去の原発事故によって、健康にある程度の影響が出ることは分かっている。 しかしすでに拡散した放射性物質の低線量被ばくをどう考えるか、もう少し深く分析しなければならない。 20ミリシーベルトで線を引いて、国としての考え方を整理したい」 と述べ、有識者による作業チームを作り調査する考えを示した。 そんな中、福島大学医学部に新設された放射線専門講座2講座のうち、これまで人類が経験したことのない低線量被ばくの影響を究明する 「放射線生命科学講座」の教授に、坂井晃教授(51歳)が11月の始めに就任した。 

坂井教授は、これまで広島大の原爆放射能医学研究所の血液内科などに勤務、被ばく者の医療にも携わってきた。 悪性リンパ腫や多発性骨髄腫など、リンパ球がどのようにがん化するかを追求してきた実績を、今後の研究に生かす。 教授はこう語る。 「原爆の高線量被ばくと異なり、低線量被ばくははっきりした影響がわからない。 影響があるのか、影響がないにしても調査を積み重ねなくては分からない。 20年後、30年後に結果を日本をはじめ世界に発信できるよう、長い研究の下準備に取りかかりたい」。 というわけで、これまで実態がよく分からないままに議論され、騒がれ、風評被害をも生んできた低線量被ばくの本格的研究が、原発事故のお膝元福島大学で始まる。

それにしても原爆担当大臣が低線量被ばくに対する調査・研究の必要性に言及し、大学の研究機関で長期にわたる追跡調査を実施するということは、「どんなに微量でも放射線は危険である」という国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に対し、我が国として「安全量の見極め」をしようとする点で、大きな意義がある。 実は微量でも有害とされる放射線を、われわれは日夜浴びながら生活している。 地球上では1人当たり年間平均して2・4ミリシーベルトの放射線を浴びており、また1回のCTスキャン検査で6・9ミリシーベルトもの放射線を浴び、もし患者が毎月1回のスキャンを受けたと仮定すれば、年間80ミリシーベルト以上の放射線を浴びる勘定になる。

高度1万メートルの上空での放射線量は、地上の150倍に達する。 成層圏を飛ぶ国際線のパイロットやフライトアテンダントは、東京・ニューヨークの往復で0・2ミリシーベルトの放射線を浴びている。 週に1回日米を往復するだけで、年間10ミリシーベルトを浴びていることになるが、彼らに放射線被ばくによる障害が起きたということはなく、むしろ時差による体内時計の狂いが問題視されている。 さらに世界には自然放射線量の極めて強い地域が存在する。 たとえば中国広東省陽江県の線量は年間6・4ミリシーベルト、ブラジル・ガラバリ海岸では最高6ミリシーベルトに達する。 このうち中国・陽江県における調査では、年間死亡率で一般の10万人当たり6・7人に対し当県は6・1人、癌死亡率では10万人当たり66人に対し58人という平均より低い結果となっている。

こうした事実があってもなお、国民が低線量放射線に対してナーバスに反応するのは、原発事故以来、東京電力や原子力安全保安院に対する不信感が鬱積してるから。 故に現在の状況下で、「低線量の放射線は害にならない」 などと言おうものなら袋たたきに合うことは必至。 したがって関係者は例え正論であろうとも、この件でものを言わなくなっているし、ものが言えなくなる社会では必ず良くない結果をもたらす。 ついては不信感の払拭が最優先課題で、まず迅速な情報開示と隠蔽体質を取り除くことに加えて、納得するに足るデータを示すことが急がれる。 そんな意味では遅きに失した感はあるが、国が本腰を入れて低線量被ばくの実態調査に踏み出したことは、評価していいと思うのだが如何だろうか?