国内の農業従事者はこの5年で約2割減り、高齢化も進み担い手不足が深刻化しています。休耕地も、増えてきています。休耕地が増えた里山に、問題が起きています。農林水産省によると、2020年度の野生鳥獣による農作物 被害は約161億円になるようです。このうちシカが約56億円、イノシシが約46億円を占めています。山林に近い小規模農家の営農意欲が低下していく傾向と反比例して、獣たちの活動を活発化していく様子が見えるようです。協力や共同の意識の高い集落ほど、効率的で安価な鳥獣対策が取れるものです。そのような中で、長野県がカラス害の対策に本格的に乗り出すという記事が載っていました。手始めに事業費495万円を投じ、長野市周辺の調査を行うことになったようです。この県の鳥獣被害額は7億3900万円に上り、うち1割強にあたる8300万円はカラスによるものでした。農家には一つの対策として、廃棄した果物の処理や家畜のエサの管理などを適切に実施するよう求めているようです。エサとなる果物(柿など)や生ゴミを減らすなどで、カラスの個体数を減らすことも可能だという見解です。
野生動物による被害の解決には、自然や社会の特性に応じた人為的管理の再構築が必要になります。野生動物の管理は、個体数管理、生息地管理、被害防除の3つをバランス良く実施することになります。被害を防ぐには、動物の生態と侵入する要因を調べ、被害発生の仕組みを知ることが大切です。山や森などの自然が荒れれば、動物の食べる食物はなくなります。飢えた動物は、里の食物を狙うことになります。人間の住む農村が疲弊すれば、動物の侵入を防ぐことができなくなります。そんな中、面白い防止策を行っている町があります。宮城県の川崎町は、「牛タン」の里といわれるほど牧畜が盛んです。牛の飼料であるデントコーンの畑が、ツキノワグマに荒らされて困っていたのです。この解決策として、「ツキノワグマのすみかを守る会」の人達は、熊が食べてもいい畑を作ったのです。山際でお腹がいっぱいになったクマは、危険をおかしてまで里の畑に来ることはないと考えたわけです。クマが食べてもいい畑の活動は、もう10年も続いています。確かに、農作物被害も減り、駆除されるクマの数も減っているということです。
話は飛躍しますが、私の住んでいる福島市やお隣の伊達市は、あんぽ柿の生産が盛んな地域です。このあんぽ柿も、中国の農水産物の全面禁止により、困っています。もちろん困っているだけでは、解決にはなりません。日本政府や福島県は、ブリュッセルでEU関係者の方に食品をアピールするイベントを開きました。中国が日本産水産物の全面禁輸をして風評被害が広がる中、EU市場への輸出拡大をめざしたわけです。このイベントには、欧州委員会や欧州議会、ベルギ一王室の関係者の方々に訪れて頂きました。さらに、EU加盟国の外交官も出席していただいたのです。EUが8月に日本産食品の輸入規制を完全に撤廃したのを機に、地方の特産品の魅力を紹介し、その中で福島県産の酒やカツオの浅炊き、あんぽ柿を用いたお菓子などを参加者にふるまいました。あんぽ柿を初めて食べた欧州議会関係者は、「甘くておいしい。欧州でも売れる」と太鼓判を押してくれたそうです。リップサービスとしても、ありがたいことです。
干し柿は、富山県の特産物としても有名です。富山県は、干し柿を食べる習慣のある国や地域を中心に、海外への輸出を長年続けてきました。富山県の干し柿は、海外で好評を博しています。2019年度に1926万円だった輸出額が、2021年度は5800万円と約3倍に増えています。日本から台湾に輸出された干し柿の3割を、富山県産が占めているのです。もちろん、香港など他のアジア諸国にも輸出をしています。富山県は、今冬からはカナダへの輸出も予定しています。香港から、カナダに移住した中国系住民の需要を見込んでいるようです。一国二制度の形骸化から、香港を脱出する人々が増えています。狙いは、この方たちに以前、親しんだあんぽ柿の味覚を、カナダで満たすことにあるのかもしれません。福島でも富山でも、この順調なあんぽ柿の生産に、問題が起きています。その問題は、干し柿を生産する後継者の減少です。高齢化や人口減もあり、生産者の数は全盛期の半分まで減っているのです。
そこで今回は、鳥獣被害の軽減とあんぽ柿の生産者の確保、さらに、食料安保という複数の課題を同時に解決することに挑戦してみました。まず、鳥獣被害で身近な動物は、カラスになります。この愛すべき動物は、賢く、組織だった行動も得意です。一方で弱点もあります。カラスの新陳代謝は高く、脂肪の蓄えのないカラスは、せいぜい4日間食べなければ餓死します。以前、歌舞伎町の巨大な眠らない街は、排出し続ける膨大な食べ残しがカラスを支えていました。現在は改善されて、この地区のカラスは減少しています。このカラスの個体数を減らすためには、人間が出す餌資源を減らし環境収容力を減らすことです。人間が出すカラスの餌資源は、身近なところで言えばまず生ゴミと農作物になります。庭の渋柿も含め、収穫しない作物は摘み取り、農作物の残澄などとともに土中に埋めることが一つの対策になります。冬の厳しい季節に1週間の餌絶ちをすれば、冬に生き残ることのできる個体数が、減ることになります。庭ある渋柿や収穫を放棄した柿を上手に処理することは、小さな対策になります。
知人の町会では、子供会活動として廃品回収をしています。父兄と子供たちが、資源回収を行っています。その事例では、春と秋に行い、ビール瓶を4000本集め、アルミ缶を2トン強集め、酒便を4000本集め、計20万円の利益を上げています。この町会には各家庭に、数本の柿の木があります。そして、以前柿の栽培をしていた方が、放棄した柿の畑もあるのです。この柿をカラスは、順序良く食べて、上手に冬を越す光景があります。もちろん柿だけでは足りず、ゴミ収集所からも餌を取るという行為をします。収集所の係りの方は、いつも苦労するパターンがあります。ある面で、カラスの数を増やしていることに、柿の木の所有者が貢献していることになります。この流れを断ち切れば、鳥獣被害の一端が緩和されることになります。次の発想は、渋柿を太陽に干すと甘い干し柿になるという事実です。子供会で、地域の渋柿や放棄した柿畑の柿を集めて、干し柿を作るという発想です。もし、干し柿を上手に作ることができれば、町内の方に買ってもらえるかもしれません。蛇足ですが、渋柿を干し柿にすると、甘い柿が食べられます。干し柿の作り方は、次のようになります。1,ヘタを少し残して柿をもぎ取り、柿の皮をむきます。2,ヘタの部分を利用して、柿をひもにぶら下げます。3、熱湯に5秒程度付けます。柿についている雑菌を処理します。4,雨が当たらない、風通しの良いところに吊るします。5,干している途中に手で軽く揉んであげると、より美味しくなります。6,干してから二週間程度で美味しく食べられます。カラスのエサになっていた柿を人間が上手に利用すれば、カラスの食料は減少します。カラスの食料が減れば、冬を越すカラスの数は減ります。
利用されない食材が、利用されるようになることは、日本の食糧安保に少し貢献することいなります。穀物を輸入に頼る日本の食料事情の危うさが、ウクライナ危機で浮き彫りになりました。そこで、強調されることが「日本の食料自給率がカロリーベースで4割弱」という点です。食糧自給率の意味は、国内の食料供給に対する食料の国内生産の割合を示す指標になります。一方、食料自給力という用語もあります。この意味は、日本の農林水産業が有する食料の潜在生産能力を表すものになります。食料自給力の視点から見ると、日本は自給率100%を超えています。簡単にいうと、日本の耕作地をイモ畑にすれば、日本人のカロリーは確保できるということです。不幸にも、大きな災害や紛争が起きた時、日本中をイモ畑にして、食料の確保をしなければなりません。その時、多くの人が、作物を育てるスキルをもっていれば、最低限の食料を確保できます。そして、最低限の肥料を作る仕組みがあれば、日本の食料自給力が確保されることになります。東京都日野市のせせらぎ農園では、農政系の部局、生産緑地地区制度を扱う都市計画系の部局、ごみ処理を扱う廃棄物管理系の部局、緑地政策・管理を扱う部局などが相互に関わりあいながら、市民の農園のイロハを提供しているようです。そのような地道な取り組みが、日本の食料安全を高めていくのかもしれません。
そして、この延長線上に、子供会の干し柿づくりがあります。イモはカロリーもあり、甘さもあります。でも、干し柿の甘さは、さらにその上をいきます。人間は、我儘です。人間は、食べるだけでは満足しない生き物です。満腹だけでは満足せず、甘さを求めます。砂糖の輸入が遮断された場合、この「甘さ」をどこに求めるのでしょうか。過酷な状況にあっても、甘さや美味しさを求めるものです。柿は、その甘さを少しだけかなえてくれます。その甘さや美味しさを作り出せる子ども達が育っていけば、未来に絶望はありません。もし、子供会の中の1人でも2人でも、柿の栽培に興味を持つことがあれば、福島や富山のあんぽ柿は後継者を得て、これまで以上に栄えるかもしれません。
備考、
干し柿とあんぽ柿の違いは、干し柿は、渋柿の皮を剥き、そのまま干して乾燥させて作るのに対し、あんぽ柿は硫黄で燻蒸してから乾燥して作られます。