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アメリカ大統領選挙の間違いは報道機関の劣化を示すものか

2017-01-02 16:19:14 | 日記
アメリカ大統領選挙の間違いは報道機関の劣化を示すものか

 アメリカ大統領選挙の当落に関しては、多くの報道が間違っていました。その前の、イギリスのEU離脱の国民投票も間違っていました。番狂わせが二つも続くと、多くの報道機関に対して不信が生じます。そこで、比較的正しく、正確な報道をする報道機関のあり方を探ってみました。インテリジェンスに詳しい黒田さんにトット記者がインタビューしました。

記者「イギリスのEU離脱の報道やアメリカ大統領の報道では、ほとんどの新聞社が予想を間違えていました。どうして、こういうことが起きたのでしょうか」
黒田「大統領関係の記事に限らず、記事が報道されるのは、各社の編集責任者がそれを報道すると決めたときだけです。強い権限を持つ各新聞社の編集者は、記事の内容と読者を想定して報道を行います。欧米の合理主義に深い理解を示す日本の記者は、エートスを重視し、パトスを軽視する傾向があります。パトスが、人間を強く動かすという感覚をよく分かっていないようです。今回の報道が間違っていたのは、イギリスやアメリカで国民が持っていたパトスを考慮に入れなかった点です」

記者「世論調査や民間の調査機関が調べたものを、記事の材料にします。それを使って記事を書くとわけですよね。どうして、違った結果が出るのでしょうか」
黒田「国民に関する情報を持っているのは、政府官僚です。イギリスでもアメリカでも官僚は、膨大な情報を持っています。官僚のやりやすい施策を行うリーダーを作り上げれば、彼らは自分の志向する施策を大義名分を持って行うことができます。報道機関に官僚は、自分たちに都合の良い情報をリークします。報道機関は官僚がリークする情報を検証をしないで、読者に流していくようになります。官僚のリークする情報をいちいち検証することは費用対効果が悪いのです。今回は、役人が流した情報に頼りすぎたことが、間違った報道の原因かもしれませんね」

記者「どうして検証をしないで、記事を流すようになったのでしょうか。記事の内容には責任があるはずですよね」
黒田「報道の市場縮小にともない記者の人員整理が進んでいます。少ない陣容で、締め切りに追われる傾向が増えているのです。人員整理のあおりで、正確な記事の生産が困難になっているともいえます。記者はきちんと取材したり、裏付け調査をしたり、分析してから報道するのが当たり前です。でも、この時間も人的要員もなくなっているのです」

記者「イスラム国(IS)の報道でも、かなり偏った報道をしていました。私も報道関係の一員として反省しています。イスラム国をどのように捉えて、報道すべきだったのでしょうか」
黒田「イスラム国の正確な把握に、初期の段階で間違っていたといえます。イスラム国の中心メンバーは、イラクのマリキ政権の失政や腐敗に憤るスンニ派地域の住民だということです。日本人記者が人質に捕られ、殺害されたために、情緒的な報道が多くなりました。核心を捉える報道が、なかったともいえます。」

記者「初期においてイスラム国は、アルカイダから破門された一派だとか、暴力組織だとかと報道されました。イラクの国情やスンニ派とシーア派の確執については、なおざりでした。どうしてイスラム国が、戦闘力があり、豊富な経済活動が可能なのかなどの説明は、十分ではなかったように思います。反省を込めてこの辺の実情をお聞きしたいのですが」
黒田「初期においても、石油が経済活動を支える重要な資源であることは報道されていました。でも、その石油をどこに売り、どのようなルートで運び、どのように石油を現金化していたかは報道されませんでした。イスラム国は、その支配地域で採れた原油をシリアのアサド政権にも現金で売却していたのです。最近は、イスラム国の石油がシリア以外のトルコなどのブラックマーケットに流れることが、報道されるようになりました。でも、中東に詳しい情報通ならば、すでに分かっていたことです」

記者「石油の流れるルートがあったのですか。スンニ派とシーア派は敵対していますよね。そんな中で可能なのですか」
黒田「石油を必要とするアサド政権と、現金を求めるイスラム国は、裏で通じていたともいえます。アサド政権はシーア派のイランの援助を受けて国の存続を図っています。一方イスラム国は、スンニ派で固められた集団なのです。アルカイダが、厳格なスンニ派であるように、イスラム国もスンニ派なのです」

記者「スンニ派でもシーア派でも、利益が得られるならば手を握ることは可能なのですか」
黒田「イスラム教は、商人が帰依した宗教です。利害に敏感に反応する側面もあるようです。イラン、イラク、シリア、トルコのブラックマーケットは、イスラム国の経済活動を実質的に支援していたわけです。彼らは、イスラム国が支配した地域で生産された石油を世界市場に安価で売りさばき、資金づくりに協力していたのです。実は中東の闇の流通ルートは、湾岸戦争後のイラクへの経済制裁の時にスンニ派のフセインがつくり上げたものです」

記者「日本の報道の弱点を見せつけられたようです。読者が注意すべき点は、どんなところでしょうか」
黒田「現代人は、報道機関からの情報の刷り込みに陥っています。簡略された知識ばかり取り込んでいると、複雑なところまで踏み込んで考えることができなくなります。浅い知識だけの人間が多数集まると、自由が抑制されて単純な行動や言動しか出来なくなるのです。衝動性、無批判、道徳の低下、知性の低下が見られます。今のアメリカやEUで起きている現象です。報道から少し距離をおいて、情報を吟味することも必要になりますね」

記者「より良い報道を創りあげていくために、読者はどのような姿勢で、報道に向かい合えば良いのでしょうか」
黒田「報道機関は、不安を煽る傾向があります。阪神大震災では、崩壊したビルだけを報じたため町全体が壊滅したように読者は受け止めました。私たちが情報を理解する場合、最も大切なことは通俗的情報を読んだり見たりしないことです。通俗的情報の発信者は、趣味の良い読者から時間を奪い、毎日読ませ続ける巧妙な仕組みを作ります。心地良い情報だけでなく、賢い読者は今までの自分を否定するような情報を入れていくことも大切です。読者の知性も高まらないと、報道の劣化は続くということです」

ファンタジアランドは、虚偽の世界です。この国のお話をしますが、真実だとは考えないでください。再度申し上げますが、現実の世界ではありません。虚偽の世界のお話の中に、有益だなと思うことがあるかもしれません。虚偽の世界のことを、現実の世界で試してみることは、推奨されることはあっても、禁止されることではありません。ただし、利益をあげても損害を受けても、自己責任ということをおわすれなく。