技術構造分析講座ブログ

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フランシス・ベーコンは環境破壊の元凶か?(詫間)

2006-11-30 23:21:18 | Weblog
今日の環境破壊には,フランシス・ベーコンの「科学によって自然を支配しよう」という考え方が大きく影響している,といった議論は多い.
しかし,これは誤解である.

ベーコンは,本当に,科学によって自然を支配しようとしたのか?
フランシス・ベイコンの著作『ノヴム・オルガヌム』の有名なアフォリズムについて見てみよう.

最も有名なアフォリズムを見てみよう.たとえば,ある科学史の教科書には,
「知と力は合一する。……自然はこれ[知]に服従することによってでなければ、征服されない」と紹介されている.
この本の著者は,「これ」を[知]のことだと解釈しているのだが,
この文章の引用先である岩波文庫『ノヴム・オルガヌム(新機関)』(桂寿一訳)では、「これ」が[知]のことであるという解釈はしていない.

フォーブス&ダイクステルハイスの『科学と技術の歴史』(上)(みすず叢書2)の169頁によると、もとのラテン語は、 Natura non nisi parendo vincitur.
英語では、Nature obeyed and conquered.
日本語訳(by 廣重徹)は「自然は、それに従うことによってのみ、征服される」.これは、岩波文庫の桂寿一の訳と同じである。

こう見てくると,「それ」は「自然」を指すと考えるのが自然な解釈であることが分かる.
「それ」が「知」を指すとするのは曲解であろう.

「自然は、自然に従うことによってのみ、征服される」
ベイコンのこの言葉には、自然を人間側の都合だけで一方的に支配することはできない,自然の都合をよく聴かなければいけないという,堅実な考え方が含まれていると,私は思う.

ただし,自然の都合に従うコツを身に着けてしまうと,自然支配の成功実績が積み重なり,自然に対する畏怖の念が消えてしまい,その結果,自然の都合などどうでもいいと思い始める可能性は否定できませんが...

(詫間直樹)

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