ポルトガルのえんとつブログ

画家の夫と1990年からポルトガルに住み続け、見たり聞いたり感じたことや旅などのエッセイです。

152. 塩の宮殿と鵜

2019-02-01 | エッセイ

アルカサル・ド・サル(塩の宮殿)はサド湾の上流にある町。

昔アラブとキリスト教徒のレコンキスタの軍が激しい戦いをした古戦場だという。

 

塩の宮殿と観光ヨット

 

今では川の周囲に米を栽培する田んぼが広がっている。ここでできる米はわりと味が良いので昔はよく食べていたのだが、包装袋がどんどん変わっていつの間にかどれがどれか分らなくなって買わなくなってしまった。

アルカサル・ド・サルには立派な駅舎があり、濃紺と黄色で塗り分けられていた。昔は南のアルガルベ地方に行く時はいつも電車に乗っていて、この駅に停車するたびに、一度ゆっくり駅舎を見たいと思っていた。

ある時、セトゥーバルからバスに乗って来たことがある。町を歩き回ったあと、川沿いに駅を目指して行く途中、一人の老人と出会って一緒にしばらく歩いた。道端に薄桃色の桜にそっくりな花が咲き始めていて、老人に花の名前をたずねると「アメンドア」と言う。家に帰ってから調べると、それはアーモンドの花だった。やがて工場が見えて来て、老人は「それじゃ」と言いながらそこに入って行った。それは米の製造所だった。その工場からしばらく歩くと、あの駅舎があった。いつも汽車に乗っていたから、プラットフォームの側からしか見ていなかったが、今度は駅舎の正面玄関から入った。濃紺と黄色で塗り分けられた美しい駅舎だった。ところが中は人影が全くない。それどころか切符売り場にも誰もいない。それもそのはずで、切符売り場は列車の到着時間15分前にしか窓口が開かないし、切符も売ってくれない。不便なシステムだった。このごろは自動切符販売機が置いてある駅も出現したが。

その後私たちは自家用車を買って、あちこち出掛ける様になったため、汽車もバスさえも乗る機会がなくなった。その代わり、ポルトガル国内どこでも、思い立ったらすぐに出かけることが可能になった。アルカサル・ド・サルにはたくさんのコウノトリが生息していてそれを見るのも楽しみにたびたび出かける町のひとつで、我が家からは1時間ほどの道のりだ。

 

町のカテドラルにはたくさんのコウノトリ

 

悠々と大空を飛ぶコウノトリ

 

アルカサル・ド・サルの駅舎はいつの間にかあの派手な色は塗り替えられて全体が白っぽい色になっていた。アルガルベ地方に行くときは国道IC1を走るのだが、アルカサル・ド・サルのサド川に架かる橋を通る時、真下に駅舎が見える。駅舎はもう全く使われていないで、普通列車も貨物列車も停まらない通過駅になっていた。

先日もアレンテージョ地方に行った帰り、アルカサル・ド・サルに立ち寄った。ちょうど昼時だったのでマテ貝の鍋でも食べたいと思ったのだ。マテ貝と米を煮た料理はアルガルベ地方のオリャオンに行った時に必ず立ち寄った食堂がある。夫婦二人でやっている店で、安くて美味しかったが、惜しいことに店じまいをしてしまった。それからはオリャオンに行くこともなくなった。その他の店は観光客に迎合した、高いだけで不味いところがほとんどだったから。

アルカサル・ド・サルのレストランは川沿いに並んでいる。その内の数軒はマテ貝と米を煮込んだ料理「アロス・デ・リンゲラオン」をやっていてここでも名物料理になっている。4時間もかけてオリャオンまで行かなくても1時間のアルカサル・ド・サルで食べられることを後になって知った。しかもマテ貝とエビも入っている豪華なアロス・デ・リンゲラオンである。テラス席で川を眺めながら食事が出来る店だ。料理ができるまで少し時間がかかるので、オリーブの塩漬けを食べながらノンアルコールビールを飲んでいた。

 

アロス・デ・リンゲラオン

 

川の上を黒い大きな鳥が飛んで行く。その後を今度は2羽飛んできた。首を長く伸ばして飛ぶ姿は鵜のようだ。次には数羽。それから次々に増えて10、20羽。みんな同じ方向に飛んでいく。しばらくすると大群で引き返してきて、空高くうねりながら旋回をした。そして川上の方に飛んで行った。

こんなに大群で飛んでいるウの姿は初めて見た。

鵜は私たちの住むセトゥーバルにも居る。セトゥーバルに限らずあちこちで見かける。でもそれは1羽か2羽の単独、或いはせいぜい6~7羽。これだけ20~30羽もまとまって飛んでいる姿は珍しい。

 

川岸の階段で休む鵜

 

鵜は大食漢だと聞いたことがある。と言うことは餌が豊富に必要な訳である。このアルカサル・ド・サルのサド川上流域には豊富に餌があるのだろうか?

小魚、川エビ、マテ貝。

アルカサル・ド・サルの名物は第1に松の実の砂糖菓子。稲作。それにバス停の前で小母さんたちが競って売っている茹でた川エビ、そしてアルカサル・ド・サルのどのレストランのメニューにもなっている、アロス・デ・リンゲラオン(マテ貝のリゾット)。松の実の砂糖菓子は関係がないだろうが、その他の3つ。稲作の栄養によって育まれる川エビとマテ貝、これがこのサド川には豊富にいるのだ。

私たちは時々近くの塩田地帯に出かけるが、そこには様々な野鳥がいて鳴き声が騒がしいほどだ。数種類のカモメやアオサギ、ゴイサギ、コウノトリ、そしてウ(鵜)。

鵜はほとんどの場合、一羽で飛んでくる。首を長く伸ばして、目をきょろりとしながら私たちを見下ろし、「クエー」とひと声鳴きながら飛び去って行く。私たちの動きを偵察されているような感じがいつもする。

アルカサル・ド・サル(塩の宮殿)の鵜の大群はサド川の上空を無言で飛んだ。ひと声も鳴かずに。

MUZ 2019/01/29

 

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