はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

県庁の星

2007-08-09 22:26:20 | 映画
「目の前の問題から逃げ出す人は、人生のいかなる問題からも逃避する人だ」

「県庁の星」監督:西谷弘

 中学、高校、大学と常にトップの成績で合格し、愛するK県県庁に入社した野村聡(織田裕二)は、商工労働部産業政策課係長としてバリバリ働いていた。キャリアに加え、県有数の建設会社社長の娘・貴子(紺野まひる)との結婚も秒読みに控え、まさに順風満帆。しかし自身の立案したケアタウンリゾート「ルネッサンス」の計画に対して市民団体から反対運動が起きたことから徐々に歯車が狂い始める。
 民間のノウハウを学ぶため、帰庁後の昇進を約束された上で、半年間の期間限定で民間企業との人事交流計画の研修メンバーに選ばれた7人。その中に野村もいた。配属先は三流スーパー満天堂。
 消防法を無視して積み上げられた在庫のダンボールが通路どころか店長室にまで溢れたバックヤード。やる気のない店員とがらがらの店内を見て、野村は行き先の困難さを思った。しかしK県を愛する気持ちと士気の高さだけは誰にも負けない。教育係のパート・二宮あき(柴咲コウ)から「県庁さん」なんて呼ばれてお荷物扱いされながらも、必死に仕事をしようとする……ものの、すべて空回り。万引き犯に翻弄され、寝具売り場を勝手にいじり、カードの使用限度オーバーを堂々と客に告げ、お客様相談窓口すらも満足に務まらない。機転と臨機応変さを必要とされるサービス業では、県庁で培ったマニュアル対応がまったく通用しない。無力感に苛まれる日々。
 惣菜売り場の厨房に回された時に野村はある事実に気づいた。芽の出たジャガイモでコロッケを作り、二度も三度も揚げ直した惣菜の値札を貼りなおす杜撰な衛生管理。防火体制む含めて、このスーパーはいい加減すぎる。人一倍正義心の強い野村は分厚い業務マニュアルを作り戦闘態勢に入るが、上申はことごとく却下されるか無視される。
 同じ頃、県のケアタウンリゾートの着工が早まったが、自分以外の6人の人事交流メンバーが県庁に呼び戻されたのに自分だけ呼ばれないことを知る。婚約者の貴子の心変わりというとどめもあり、一気にどん底まで突き落とされた野村はやけ酒を呑んで夜の街を彷徨する。信じていた未来と、自分が正しいと思っていたものすべてに裏切られた彼には、壊れてしまう以外の術がなかった。
 二宮もまた困っていた。保健所と消防署の抜き打ち査察が入り、基準とする値をクリアできていない上に売り上げ不振で店舗解体すら有り得るという最悪の状況。店長も頼りにならないし、16の頃からずっと勤め続け、裏店長と呼ばれるまでに知り尽くした我が子のような満天堂が取り潰されるのは見るに耐えない。
 二人の利害が一致した時、満天堂のルネッサンス(再生)は始まる。自負心を粉々にされ、地の素直さが浮き彫りにされた野村と、満天堂マスター・二宮。二人に触発された店員全体のバックアップもあって、見事防火衛生の基準をクリア。前年度売り上げ比130%を達成し、本社にも面目が立った。
 半年の研修を終了し県庁に戻った野村には、また別の戦いが待っていた。県政を牛耳る古賀県議会議長(石坂浩二)との、ケアタウンリゾート総工費削減策のぶつけ合いだ。民間のノウハウを会得した県庁キャリアは、皮肉な事に民意を代表した強大な敵として、県庁の前に立ちはだかるのであった……。
 どことなく伊丹監督の「スーパーの女」を思い起こさせるようなスーパー再生もの。しかし主演の織田裕二の、県庁キャリアらしい、いかにもな傲慢さや鼻持ちのならなさなどはそれにはなかったものだ。親組織である県庁に牙を剥くくだりなどは、痛快さもあり、時代世相を反映していて独特の面白さを醸し出している。
 とにかくこの映画の肝は「県庁さん」にある。マニュアル対応しかできないお役人が、サービス業習得する際のどたばた劇。そのギャップが笑いを誘う。個人的には漫画版(作:今谷鉄柱)の野村のほうが「K県愛」が目に見えて好きなのだが、映画の野村も悪くない。何せ織田裕二が適役だ。美形で歯が白くて、どこか偉そうだけどどこかコミカル。カッコつけの決め台詞も含めて、この俳優ならではの味を出せている。

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