Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~

2012-04-07 | 読書
「人の手を渡った古い本には、中身だけではなく本そのものにも物語がある」。この「ビブリア古書堂の事件手帖」の一貫したテーマだ。しかもここに綴られる物語には人生がある。この「ビブリア古書堂」自体はいわゆるライトノベル。ラノベというと、ファンタジーや萌え要素や学園ものがどうしても世間一般のイメージ。「ビブリア古書堂」の文章は解釈をようするような文章や暗示や隠喩めいた小難しい表現があるわけではない。物語の映像が頭の中でイメージが広がり、一気に読み進められるやさしい文章だ。それに主人公大輔のつぶやきが全編のナレーションである文体や、ヒロイン栞子さんに読者が”萌え”を感ずるような描写は、いわゆるラノベらしい部分ともいえる。だがそれだけで多くの人々がこの本を支持したのではない。大人の鑑賞にも堪えうるドラマがここには綴られているからだ。

物語は主人公大輔の祖母が遺した夏目漱石の文庫にまつわるエピソードから始まる。その本に記された奇妙な署名の謎を知りたくて、その本を買ったと思われる古本屋ビブリア古書堂に大輔が本を持ち込む。怪我で入院中の店長栞子は引っ込み思案で美女。人と口をきくのも苦労するが、本に関する話になると人が変わったように意欲的になる。本に関しては膨大な知識をもち、まるでミス・マープルのような推理と洞察力を発揮する。彼女は大輔の出生の秘密に関わる祖母の人生を謎を一冊の本から解き明かしてしまうのだ。大輔はその古書堂で働くことになり、本にまつわる事件に遭遇し、本にまつわる人生のミステリーを解き明かしていく。

この物語は奇抜なアイディアと萌えな表紙で売り上げているそこらの本とは違う。親子にわたる人生が、本やその物語、作者の考えに惹かれる人の姿、欲望が生き生きと描かれる。半端な知識や取材ではとうてい書けないストーリーがある。それに何よりも作者の本に対する愛情、いやその本を手にして笑い、涙する様々な人間への愛情で満ちている。この本が読んでいて暖かくて優しい印象を受けるのはそれだけが理由ではない。

”本の虫”と呼ばれる人をよく言わない人も世の中には多い。僕の周りにもそういう言い方をする人は現にいて、僕も不愉快な思いをしたことがある。本好きなのは決して害ではない。世間で嫌われる”本の虫”は、そこから得た知識をひけらかして人より優位に立とうとする連中だ。それはいわゆるお勉強ばかりができることを鼻にかける奴らとたいして変わりはない。僕は親譲り(いや親以上かも)の映画ファンだが、長くひとつの趣味を貫くことで役立ったこともたくさんある(もちろん弊害もあったけど)。たくさんの本を読むこと、たくさんの映画を観たことをひけらかす奴が嫌いだ。問題はそこから何を得たかだ、と僕は常々思っている。栞子さんは本については社会から並外れたヲタだ。好きなことを好きだと言えること、好きであり続けることは大切なこと。世間でマニアだの何だの呼ばれる人々に、”そのままで良いんだよ”と言ってくるような優しさをこの本から感じるのだ。そしてこの作者三上延氏自身も、そんな本を愛してやまない人間の一人なのだろう。

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
三上 延

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通勤中に読んでいた僕は、続きが気になって昼休みが待ち遠しい日々だった。

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