Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

アルゴ

2013-08-17 | 映画(あ行)

■「アルゴ/Argo」(2012年・アメリカ)

●2012年アカデミー賞 作品賞・脚色賞・編集賞
●2012年ゴールデングローブ賞 作品賞・監督賞
●2012年LA批評家協会賞 脚本賞

監督=ベン・アフレック
主演=ベン・アフレック アラン・アーキン ブライアン・クランストン ジョン・グッドマン

 僕のベン・アフレックのイメージは決してよくない。「グッドウィル・ハンティング/旅立ち」は確かによかった。でもそっから先はド派手な映画に出てるだけのそこそこ二枚目の俳優、という程度にしか思えなかった。それ故に世間で評判はよかった監督・主演作「ザ・タウン」も、いいとこ見せまくりの予告編で萎えてしまい結局未見。そのアフレック監督・主演作「アルゴ」にオスカー像が。実話のイラン脱出劇と聞いて、この時期だけに政治色が強いアメリカ万歳的映画ではないかとたかをくくっていた。オスカー受賞後に職場近くの映画館で再映されたけど、なかなか観る機会に恵まれず、小倉昭和館でやっと鑑賞。

 できあがった「アルゴ」は、現実にあった大使館員脱出作戦を見事なサスペンス映画として仕上げている。見せ方が実に上手い。冒頭、イランとアメリカが何故膠着状態に陥ってしまった事情が、アニメーションで描かれる。映画を通じて異国の現実や事実を知るたびに、僕らは現代史をもっと学ばないといけない、と常々思う。この映画の冒頭のわかりやすさは絶品。エンドクレジットでも示されるが、実際のニュース映像を巧みに再現していたり、挿入される楽曲もダイアー・ストレイツのSultans of Swing(悲しきサルタン)を始め、レッド・ツェッペリン、ヴァン・ヘイレンと時代を感じさせてセンスがいい。イラン側の追っ手が迫る様子のハラハラ、形勢が二転三転する展開は、脚本と構成のうまさ。そこは誰もが認めるところだろう。

 でも僕がグッときたのは、この映画に込められた”映画への愛情”。そもそも大使館員を映画のロケハンに行く人々に偽装するという作戦自体が驚くし、それを実際に遂行したアメリカの凄さ。だがそれは驚くべき史実。子供がテレビで見ていた「最後の猿の惑星」で作戦を思いつく場面や、でっち上げた映画の製作発表。まるで「フラッシュゴードン」の二番煎じのようなチープな感じがたまらない。映画そのものが、世界に愛され、通用するエンターテイメントであるというパワーを感じずにはいられない。そして、作戦を終了して、主人公が密かに持ち帰った偽映画のストーリーボードを、SF映画のおもちゃが並ぶ棚に一緒に飾るラストシーン。映画はそもそもが作り物、虚構を並べている見せ物だ。そんな見せ物の中で、現実に起こった出来事が映し出され、しかもその物語は映画製作を偽装した救出劇。嘘の中の現実の中の嘘。面白いよなぁ。

本当にいい映画は映像で描く。僕らは小説の行間を読み取るようにそこから気持ちを感じ取る。そして心に残る映画はラストシーンが素晴らしい。この「アルゴ」もその一つと言っていいだろう。任務を終えて別居している妻と息子に、主人公が会いに行く場面。そこから映画好きが惚れるラストシーンまで台詞はない。黙って妻と抱き合い、黙って息子と眠る。ベン・アフレック監督、お見それしました。

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