Poem&Poem

詩作品

冬の夕日

2014年06月20日 16時50分07秒 | My poem


傾きかけた冬陽の庭に
母がひととき佇むと
そのからだは蜻蛉のように透けている
小さな脳髄までも

家の奥では父が眠っている
すっかり死の闇に包囲されてしまって……

家のなかに戻れば
窓の外は夕焼け
部屋中が赤々としている
こたつの中も小さな夕焼け
わたしたちは骨の髄まですぐに染まる

こたつに向き合って夕食
母のからだに
やわらかなごはんや
豆腐やほうれん草の胡麻和え
鰺の塩焼きなどが層を成して
詰め込まれてゆくのが見える

父は黙って少量の銀の酒を飲む
暗く爛れた食道から胃の壁へと
ぽたりぽたりと落ちてゆくようだ
時々かぼちゃなどが
グググッと窮屈な食道を通過する音がする

わたしは父の残したものを食べる
お父さん お母さん
わたしたち一本の管みたいな命なのですねぇ
ここまで来れば
ややこしい愛の詩の一行など思い出すこともないし
死の切り岸に咲くという桃の花など思えばいい

それから骨のような父を洗い
白く美しい母を洗う
母より美しいわたしも洗う

賑やかな一夜
死者も生者も入り乱れる一つ屋根の下
わたしたちは眠る
父の闇がわずかに深くなる
母の脳髄が鈴音をたてる

消し忘れたこたつのなか
夜通し小さな夕日がほてっている

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