Poem&Poem

詩作品

ててっぽっぽう

2013年10月20日 14時26分53秒 | My poem


遅い朝食のテーブルにいると
いつも聴こえてくる鳴き声
あれはかの詩人の「ててっぽっぽう」の声だ
いや、それは声ではなく
声が聴こえる方角だったかもしれない
明け方に哀しい涙だけを運んでくるひとの……

 
あの日
父は無花果を食べていた
庭の無花果の木では
ててっぽっぽうの声がする
その時初めて
ててっぽっぽうと聴こえた
かの詩人と初めて繋がった思いを
父に告げた

父は「そうか」と言って
黙って無花果を食べていた
しばらくしてから
「古里では、ででっぽうと言っていたな。」と言った
濁音と清音が息づく様々な古里の言葉
南から北へとのぼりながら
言葉は素朴な濁音をまとってゆくようだった
あの日から
父は北の古里ばかりを恋うていた

ててっぽっぽう
ででっぽう
父はすでにいない
明け方にみる父の夢と
遅い朝食はいつでも淋しい


         * 永瀬清子・明け方にくる人よ

[39]

時間の子供

2013年10月01日 01時07分45秒 | My poem



空と地上のあいだ 鞦韆は揺れている
振り幅が少しづつせばまりながら
やがて地上と空とは了解して
時間の子供はふうわりと降ろされる

時間の子供は
この地上を歩きはじめたばかり
輝くように微笑みながら
小さな両手を上げている

わずかな丘を必死に昇って
そして下り坂をころがるよう下りてくる
ひどく満足そうに微笑む
地上はどこでも空と接した山坂で……

すべり台を上がる
すべり台をすべり降りる
空と地上を行ったり来たり
あくこともなく繰り返す

繰り返しながら大きくなる子
それは光に満ちた時間 
そしてわたくしは闇の時間の訪れがとても哀しい
時間の子供はそこにはいない


[38]