月あかり 高田昭子
雨上がりの春の夜
少年はやわらかな畦道を歩いている
水の張られた田んぼには
まだ早苗が植えられていない
そのわずかな時間のなかで
夜の水田は
ゆるやかな地の引力によって
しずかに張りつめている
少年の足裏がやわらかく沈むのも
その引力の仕業だろうか
それとも知らずに
小さな足跡に
小さく光る水たまりが生まれ続ける
おおきな水たまりには
水の浮力が満月を浮かべる
隣の田んぼにも その向こうにも
月は際限もなくあらわれるのだった
少年の夜の夢のなか
月は地上に降りてくる
いくつもいくつもいくつも……。
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