DREAM/ING 111

私の中の「ま、いいか」なブラック&ホワイトホール

安田好弘★「生きる」という権利 麻原彰晃の主任弁護人の手記

2007-06-09 | 事件を追う(短期別枠カテ)
光市母子殺害差し戻し審・5★怪弁護団(?)21人の素性と主張
この記事を書くと同時に、死刑制度の反対意見に興味を持ち、
下記を入手して読んでみました。

「生きる」という権利―麻原彰晃主任弁護人の手記 (単行本)
安田 好弘 (著)

最初に断っておきます。
私は作者である弁護士の安田氏にかなりのマイナス印象を持っています。
その先入観で読んでいますので、
これ以降は、そこを差し引いてお読みください。

全体のトーンでいえば、個人のノンフィクションなので
当然なのかもしれませんが、
どうしても視点が弁護人&弁護士会サイドから、かつ安田氏個人サイドからで
専門用語やシチュエーション、業界の慣例や常識等々、
シロウトには状況がほとんど見えないままに話が進むので、
これはある程度の裁判や警察、検察、弁護士の知識がある方でないと
善悪や是非が判断できない部分が多いように思いました。

そういう中での全体印象。
イデオロギーの前には1つの「事実」は無効だということ。
そして安田氏は多分非常に情熱的な「信念の人」なんだな、ということ。
ある意味、弁護士であるよりも活動家・運動家のようです。

なにが真実か、という議論は対立する受益構造の場合、
いくらでも視点を変えてねつ造できる。(犯罪者の自白強要のごとく)
そして、世の中で起る様々な「真実」は、
現状我が国においては、法によって裁量され意味付けられる。
裁判とは「事実」関係を明確にする場所以上に、
関係者相互の「真実」を推し量る場所なのだと認識しました。

言い換えれば、国家の真実=「正義」(という名の、実は個々人の信念の総和)を通すためなら
戦争で何人死のうが、「個人の死」は関係ない。そういう感覚にも近い。
(ここで問題なのは、国家上層部が自分を国家と同一視することで
自分の信念を「国のため」と、実態なき幻想にアイデンティティ注入する
悲しく脆弱な認識主体であるという点。またこれは別の機会にでも・・・)

●死刑制度絶対反対(=罪を償うのに死なないでもいい方法をとるべき、という考え方)
●警察と検察と裁判所への根強い不信感と敵対感。

自分の信念のために、凶悪な殺人の実行犯であろうが、その1人を救うために
全力をかけ、打てる方策はすべて打つ。
ビジネスの姿勢としては、ある意味、非常に尊敬できます。

前半は長々と警察・裁判所・検察と弁護士との対立、、
弁護士業界内部の派閥(共産党系やら、新左翼系やら・・・)と
それに伴う弁護士個人間の対立、弁護士会と安田氏の対立、
ある弁護士と安田氏の対立 等、
様々な対立構造と、それらと戦う安田氏の考え方、立場が描かれています。
・・・正直言って、自分の考えに合わないものは全て「攻略すべき敵」という
わかりやすい思考です。
優柔不断を嫌う姿勢は個人的にはキライではありませんが
他者への決めつけや見下し方など、根拠や背景が見えないと、
安田氏自身が嫌う、私憤や個人的な感情のようにも思えて
ちょっと同意しかねる部分もあります。
(一生懸命書かれれば書かれるほど、自己都合&自己弁護に見えて
正直、嫌気がさす内容でもある。)

裁判の健全運営がどういう状態かはわかりませんが
(そして確かにえん罪含めて、急ぎすぎる機械的な裁判もあるのでしょうが)
あまりに弁護人(被告=加害者=凶悪犯罪者)の権利を重視し、
できる限りの引き延ばし(に見える)を行う加害者サイドに対し、
なんとしても裁判を進めようとする裁判所の行為を
すべて妨害工作と見る向きに辟易します。

麻原のような実行犯として確定した凶悪犯の犯罪行為を
1日も早く裁き、社会を正常化するのは当然のように思うのですが・・・。

あと、加害者が長引く審議に耐えきれず、
常軌を逸脱した発言や行動をとった場合、
すべて裁判の過酷さのせいにするのもどうなのか。
裁判制度はもともとそういう性格のものであり、
そこに正当性があるからこそ、あなたも弁護人というポジションで
参加してるんではないのか。

と、作者がいくらでも裁判、被告、周辺、を穿って見ているように
私も穿って見てしまう。

自分のための読書メモ:※犯人への「さんづけ」は本文に準じます
●刑事訴訟法の改正案/特別案件制度
●予断と起訴状一本主義
●麻原さんの名誉回復
●弱い信者のなし崩し的、相互依存的行為
●警察は、サリン事件が起ることを完全に把握していたにも関わらず、
 事件を起させ、テロ対策等の治安優先施策実行のために活用した。
●「国家転覆」や「首都圏テロ」ではなく、自分たちの細かい失敗と
教団内での派閥争い、地位争いの結果焦って引き起こした事件
●「ほとんどの被告が教祖の麻原さんに責任を負わせようとしている。
だが、現実はそんなに簡単な話ではない。そこには様々な軋轢があった。それは麻原さんがしゃべってはじめて明らかになる。しかしいま、彼は沈黙したままである。」
●実行犯は村井さんで、麻原さんは利用されていただけ?
●麻原の錯乱→精神病にするわけにはいかないので精神鑑定を受けさせない。
●「刑事裁判は死んだ」


なんだか戦争の戦犯裁判の様相をイメージしてしまった・・・。
突き詰めていくと「誰も悪くない、社会と運が悪い」という感じです。
ただ、裁判所や検察の不備や横暴も確かにあるのでしょうけど、
それをいうなら弁護人だって同じはず。
そして被害者についてあまりにも意識されていないのが特徴的です。

なにより、弁護人の被告への共感(シンパシー)、感応能力の高さを感じる。
それが弁護人というものなのかもしれませんが。
ただ、白紙=「被告は犯罪者ではない」というところからの出発点であるべき、
という主張がすでに事実ではない、と思うのだけど・・・。

「事実」の判定って難しいですね。

※事実についてはkei様の下記記事をぜひご参照ください。
刑事事件の「事実」って複雑なんですよね。
kei様の適確な情報のおかげで、本書の理解が進みました。感謝します。


安田さんはすべての犯罪者は「弱者」だという。
誰も弁護しない弱者だからこそ弁護したいのだと・・・。
裁判沙汰の犯罪を犯さない人間はすべて強者となる。
それはすでに定義の問題であり、カテゴライズの線引きの問題だけで
「弱者」という単語に意味はないように思います。
犯罪者は裁かれるべきであり、弱い・強いは犯した犯罪
(とくに一方的で被害者に非のない殺人)には関係がないと思うので。
「弱者だから弁護する、それが正義だ」と言うベクトルは
私は相いれません。


追記:
読み終わりました。読んでよかったと思います。
でもこの1冊ではまだまだいろんな暗黒が見えない。
なにより安田弁護士への不信感は変わりませんでした。
死刑を伸ばすためにはある種のねつ造(彼としては、事実から導き出された仮説)も厭わない、
安田氏にとってそれが真実であっても、そこに強烈な違和感を感じる。
それはやはり、殺された人の真実は永久に語られないだろうから。

ただ、死刑そのものの意味は、少し深く考えることができました。
死刑制度の必要性含めて、また記事にしていこうと思います。
 
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4 コメント

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実はね (じっぱ)
2007-06-10 22:45:10
本職です。
(かなり迷いながらのカミングアウトですが…)

で、そういう立場から、見ていると、世間の理解を得るのは難しいんだろうなと思います。


正直、言いたいこと(反論だけではありません)は山ほどありますが、一般の人に理解できる書き方で説明するのは、至難の業なので、なかなか出来ないです。

で、裁判員制度に向けて、そのあたりがこの業界の、課題なので、どんどん書いてほしいなと。
一般の人にとって、具体的に、何がわからないのか、知りたい今日この頃なので。


ちなみに、この業界でも、安田さんはキワモノ的人物ですので、一般化されるのだけは勘弁してほしいかなと思います。
返信する
じっぱ様 (なるもにあ)
2007-06-11 02:54:48
じっぱ様とはもう丸2年近いおつきあいになるわけですが
なんだかここにきて、めっちゃ驚きなカミングアウトでした・・・
(紅茶をいれて、しばし過去回帰しちゃいますた;)

じっぱ様の思考回路がお仕事ゆかりなのであれば
(てか、当然同じ頭脳なわけで・・・)
ものすごく腑に落ちすぎる話でもあったり。

>世間の理解を得るのは難しいんだろうなと思います。
なににしろ、ルールが厳格な世界で
専門・分化されたプロフェッショナルな職種の場合、
一般が理解するのは正直ありえない(だからこそのプロ)
だとも思います。
&理解を得る必要性の有無がまた曖昧というか・・・
(裁判員制度って今の日本で成り立つのでしょうか・・・

当然ながら、「人」を「人」が裁く行為の歴史的・文化的・社会的意味
をしっかりふまえないと、読めないブラックボックスはある。
ただ、犯罪と教育は、人間が対象
(言葉が悪いですが、あえていえば商品でありサービス)なので
なんとなく、業界ルールを深く知らなくても、結果の評価だけはできてしまう。
わかった気になった一般を、またマスコミが煽る構図で
「世間」が形成される分野なんだろうと推測します。

で、一口に一般の人といっても、私のような野次馬系で
その場の流れで動いてしまうド素人から
かなりな情報通、またそのあたりをかじった学生、など
認識レベルの幅はかなり大きいとも思います。

結論として、私がこの本で感じたのは、犯罪はやはり「人間」として
割に合わないとてつもなくダークな泥沼だということ。
読後に感じたイメージは率直にいって「地獄」でした。

そしてそこに従事する方々は、医者と同じく対象を「人間」から
区別するか、どっぷり共感するか、しかないのかな?と
いう印象を受けました。
検察と弁護士(&警察&裁判所&行政?)って、
真実をかけてトリッキーな手段で出し抜いたり、
策略・計略をはりめぐらせ、知恵と知識と経験を競う
ある種のゲームのようでもありながら、
失うものが「命」だったり「アイデンティティ」だったり
「人の生活」だったり、「社会そのもの」だったりする・・・。

あれ?なにが書きたいのかよくわからなくなってる
わけですが・・・(オイオイ

>ちなみに、この業界でも、安田さんはキワモノ的人物ですので、一般化されるのだけは勘弁してほしいかなと思います。

了解しているつもりです。
他の弁護士の根回し的調整を卑怯と言いながら、
もっと卑怯な根回しを平気でする安田氏の言葉の定義が
あまりにもエゴなので、やはり信頼できないというのが実感です。

毎度ながらの長文レスにて失礼いたしました。

※7月で3年目になります。
ブログ空間にもやっと慣れてきたかなと思っています。
これからは、今までにもまして、好き勝手書き散らかすつもりなので
こういうジャンルの記事では、呆れさせる場面も多々ありまくりでしょうが
「一般人」の1サンプルとして「こんなヤツもいるのね」な感じで
これからもよろしくお願いいたします。(ぺこり
返信する
いろんな意見が聞けて (kei)
2007-06-12 02:33:25
私的には、じっぱ様の意見は以前から注目していました。<良い意味で。
なる様の記事にコメントするブロガーは多種多様でそれがブログの醍醐味でしょ?<違うの?

私もある意味では、異端児的なコメントを残したり、冷静を装いつつも熱いコメントを書いたりしていますからね。

専門的なコメントを含め経験に基づく記事や裏づけのある解説は私も参考にさせもらっています。

多角的な見地から物事を分析することが視野を広めて客観的に判断できる材料の宝庫として勉強させてもらっている次第です。

本件のオウム事件については、平成7年3月21日忘れもしない、あのサリン事件以降、私は深い関わりを持つことになったのです。
第7サティアンにカナリアを持って何をしたのか?
あの黄色い液体は何だったのか?
私は個人的にテロ行為かクーデターと感じています。
今も麻原が生きていることが、許されない!
裁判を長期化させることが事件の風化させることが弁護団の目的なら断罪すべきは被告か弁護団か。

責任をもって対応して欲しいものです。
返信する
kei様 (なるもにあ)
2007-06-12 09:20:21
コメントありがとうございます。

じっぱ様は、uoco様と同じく2年前から変わらず参加しつづけてくださってる、このブログの紆余曲折(ドキドキ)をご存知の希少ブロガーであると同時に、私のいい加減な思考ログをコメントで引き締めるという離れ業(え?)で、ずっとDREAM/ING111 の知性部分を担当してきてくださった方でございまする。
そして、過去のある記事への対応で、私は、彼を、人間として&男性としてものすごく信頼していますです。
お仕事がどう影響するのかが未知数ですが、
思考構造のベクトルそのものが好きなので、
それはじっぱ様が何者であっても変わらないと思います。

kei様の専門的なコメントもまた、私の記事以上にはるかに価値が高く、
ここに来て、記事とコメントを読んでくださる参加者全員に、
非常に参考になっていると思います。
そういう意味で私はとても参加者に恵まれた&助けられているブロガーだと
思っていますです。

kei様はサリン事件にも関わっておられたのでしょうか。
>今も麻原が生きていることが、許されない!
同感です。彼はすぐに死刑にすべきだったと思います。
ある意味、やっかいな思想犯であり、身体的なハンディキャップを
理由にしたさまざまな弱者発言は詭弁にすぎないと思っています。
(身障者が全員犯罪を犯すわけではなく、理由にはならないと思うからです。
それが、安田弁護士の独特の弱者論と最大に食い違う部分です。)

安田氏の本を読んでいると、自分の役割というか信念に
忠実であるあまり、社会や被害者への影響が(あえて?)無視され続けている。
弁護士の社会的責任のあり方を考えてしまいます。
職業上の責任と齟齬があるのが問題なのだと感じつつ・・・
返信する

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