宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

229 実は『物見崎』は二子城址?

2010年04月06日 | Weblog
     <↑Fig.1『飛勢城址略図』(方位に注意、右方向が北である)>
         <『飛勢城物語』(及川雅義編、北加美社)より>

 先日、北上市立中央図書館で『飛勢城物語』を閲覧出来た。このブログの先頭の図はその著書の中に綴られていた『飛勢城(とばせじょう)址略図』である。
 さて、この著書の中の章
 十一 一つ森(物見ヶ崎)、中膳屋敷址、くつわ清水
には次のようなことが書かれていた。
 監物館の北にある森が一つ森である。此処は金刀比羅宮がまつられているので、里人はこんぴら山と呼んでいるが、飛勢城時代は物見ヶ崎と呼んだ。今は樹木が生茂つている処だが、その昔は北上周辺の眺望がきいた処から、この称を生んだものであろう。八幡山の天守台を物見ヶ崎と呼ぶ人があるが、それは二子村誌の著者のいうように誤で、やはり二子物語のいう―― 一つ森を物見ヶ崎と呼ぶ方がよかろう。
 北上川流域には、上下流を見透すところによく金刀比羅宮がまつられている。この二子の物見ヶ崎は東方の眺望にすぐれ、左手から脚下に流れ寄つて来る北上川が、やがて森下の坊舘付近から右手向うへ流れ去り、昭和橋、中川原等を眼界に印象ずけながら、東方へ四季折々の勝景を展開して見せてくれる。今回此処は公園指定区域からはずれたが、手の入れようではハイキングコースの要点となる処である。

     <『飛勢城物語』(及川雅義編、北加美社)>
 たしかに、この後半で著者が言うとおり、内陸なのに岩手県内の北上川流域には金刀比羅宮や金毘羅石塔などが多いようだ。かつて北上川は舟運が盛んであったし、金毘羅さんは舟人に尊崇されてきた神様であろう。特に北上川はこの二子辺りで急激に曲っているので水難事故が起こりがちな地点であったであろうから、舟の運航の安全を願って”一つ森”に金毘羅塔が建てられ、白鳥神社の隣に金比羅神社が建てられていることは不思議ではない。
 
 一方、宮澤賢治が「雨ニモマケズ手帳」に書いた「経埋ムベキ山」の中の一つに『物見崎』という山が入っており、それは北上市二子町にある小山『物見ヶ崎』であるというのが定説である。今回、その小山は”一つ森”とも呼ばれていることがこの章から知ることができたし、里人は”こんぴら山”と呼ぶことも分かった。

 さて、この小山等については以前”物見崎(その1)”及び”物見崎(その2)”で報告したとおりである。ところが、その際に気になっていたのが『八幡山物見ヶ崎公園』という名称である。この公園は定説になっている『物見ヶ崎』の南東方向約500mのところにある。そこにはかつて二子城(別名飛勢城)が建っていた所だ。その二子城は『八幡山』に建てられており、その城址が『八幡山物見ヶ崎公園』になったという訳である。実際城址には
《1 ”八幡山物見ヶ崎公園”と彫られた石標》(平成20年9月24日撮影)

が建ててある。もちろん公園名『八幡山物見ヶ崎公園』の先頭部分に”八幡山”があるのは妥当である。ところが公園名は”物見ヶ崎”と続いているのでこのことが不思議だったのである。
 なぜならば、前掲の十一章に『今回此処は公園指定区域からはずれたが』と書いてあるように一つ森『物見ヶ崎』はこの公園内にはなく、この公園の北西に位置しているからである。そこで、もしかするとこちらの『八幡山』の方が経埋ムベキ山の『物見ヶ崎』なのではなかろうかという疑問を抱いていてしまった。つまり、もしかするとこの『八幡山』にも『物見ヶ崎』があったか、あるいは、『八幡山』は『物見ヶ崎』と呼ばれていたのだろうかと思っていたのである。

 この疑問に対しての手がかりをこの著書『飛勢城物語』は与えてくれた。この著書が書かれたのは1956年(昭和31年)のようなのだが、その頃は二子付近の里人は一つ森の『物見ヶ崎』の方は”こんぴら山”と呼んでいて、『八幡山の天守台』の方を実は『物見ヶ崎』と呼んでいたと十分考えられる。一つ森の方を『物見ヶ崎』と呼んでいたのは飛勢城時代だと言うから15~16世紀の頃の遥か昔のことになる。

 とすれば、宮澤賢治が「経埋ムベキ山」として記した『物見崎』とは、いまは定説となっている一つ森の『物見ヶ崎』であるよりはこの”(『物見ヶ崎』とも呼ぶ人がある)『八幡山の天守台』”のことである可能性の方がかなり高いのではなかろうか、と思うようになった次第である。

 つまり、
 「経埋ムベキ山」の『物見崎』とは二子城址のある八幡山である可能性がかなり高い。
と私は思うようになったのである。


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