常識について思うこと

考えていることを書き連ねたブログ

責める前に学ぶこと

2008年01月26日 | 日本

以前、「南北朝」について、いろいろと語られる方々にお会いしたことがありました。「南北朝」とは、14世紀に天皇家が皇位継承を巡って大覚寺統と持明院統に分裂してしまい、事実上、朝廷が「南」と「北」に分裂してしまったときのことを指しています。そして歴史上、最終的に南朝は滅んだことになっていますが、その方々が言うには、実は明治維新のとき、南朝の血を引く「大室寅之助」という人物が、明治天皇にすり替わっており、現在の皇室及び政権は、南朝の流れを汲んでいるのだというのです。いわゆるトンデモ話に聞こえますが、なかなか切り捨て難い話だとも思いました(「情報はパズルのピース」参照)。少なくとも、到底無視する気にはなりませんでした。

インターネットで「大室寅之助」と検索すると、それに纏わる情報がいろいろと引っかかってしまいます。最近では、明治の志士たちが一同に会した写真と言われるフルベッキ写真についての情報も多く見られるようになりました。そのフルベッキ写真の中央に写っている人物が、「大室寅之助」と言われており、この人物と「明治天皇」の写真を比較した情報なども、いろいろと出ているようです。それはそれとして、私が一番不思議なのは、皇居にある「楠正成像」です。楠正成といえば、南朝の後醍醐天皇を擁護しながら、北朝をバックにした足利氏と戦い、亡くなった人物です。その後の政権からしてみれば、自分たちに対して弓を引いた逆賊になるわけですが、その人物がまるで英雄として称えられるかのように、皇居に銅像が建てられるというのは、一体どういうことなのだろうかと思わざるを得ません(「朝敵」としての汚名は16世紀に早々と返上されたようですが、他の人物を差しおいて楠正成が特別に英雄視される理由は、よく分かりません)。ちなみに第二次大戦中に、日本銀行から発行された紙幣にも「楠正成像」が使われています。国民全体の士気高揚を狙っていたのかもしれませんが、他にもいろいろと人物がいるだろうに、わざわざ朝敵の汚名を着せられていた人物にするあたりが、どうしても腑に落ちないのです。

そして、もしこれが本当だとすると、このことは単に天皇家のなかだけに納まる問題ではなく、日本全体に関わる問題かもしれないということが重要です。明治維新以降、すり替えた「天皇」を囲って、いわゆる「薩長土肥」の藩閥政治が展開されていくことになり、この流れは第二次大戦以降も続いているかもしれないのです。その可能性は、戦後日本の有名な政治家の方々のプロフィール(出身地)等を見ていくと理解できると思います。

こうした意味で、日本の「南北朝」や「明治維新」に関することは大変ミステリアスで、またその流れが脈々と現代まで引き継がれているという点を強調し、問題視される方々がいらっしゃるわけです。そしてもし、こうしたことが真実だとするならば、それは日本全体を揺るがす大問題になると思います。

しかし私は、一方でもしそれらが事実で、問題だと言うのであれば、もっと大きな問題に目を向ける必要があるのではないかとも思うのです。それは、さらに時代を遡って、7~8世紀(飛鳥時代)の日本の政権を巡る動きです。それは蘇我・物部氏や聖徳太子の時代から、大化の改新を経て藤原氏の政権掌握に至るまでの流れになります(「日本建国史の再考」参照)。

この時代の記録や文献は、大変限られているため、私たちは想像力をたくましく働かせなければなりませんが、いわゆる「歴史の謎」とされていたことを解明していくとてつもない鍵が隠されているように思います。その内容に関する議論は機会をあらためるとして、先に結論から述べておくと、この時代にも天皇のすり替えに匹敵する大事件があったかもしれないといことです。こうした結論に至るような問題を取り上げるのは、大変勇気がいることです。一般的にはタブーとされていることでしょう。しかし、もし明治維新時の日本の最高権力に関する問題を掘り起こして、現体制や権力の「正統性」を責めたり、批判したりしようというのであれば、そもそも「正統性」とは何かの議論が必要ですし、そのためには可能な限り、時代を遡っていかなければならないと思います。そしてもし仮に、7世紀の段階で「正統性」の歪みが生じているようなことでもあれば、それ以降の「正統性」を巡る議論は、五十歩百歩であり、その批判における「正統性」は、ほとんど何の意味も持たなくなります。

明治維新時に、何かしらの大きな事件があったのかもしれません。そしてもし、それによって、日本という国が歪められたというのであれば、それは大変残念なことです。現時点で、「その事件」は単なる疑念に過ぎませんが、いずれにせよそれをもって、現体制や地位にある特定の個人やグループを責めるようなことはすべきではないし、もし問題があるというならば、もっともっと歴史を遡って、学ぶべきことがたくさんあるのではないかと思います。

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7 コメント

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Unknown (オクラ)
2008-01-27 05:15:30
すり替え論は完全にトンデモだと思いますよ。
信頼できる根拠がなく、あの時代明治天皇をすり替える理由もない。
すり替え論者はすり替えがあったというのを前提でものを考えてるのか、少し調べたらおかしいとわかる事を主張してます。
あとは疑問視されてる楠木正成ですが、彼は明治以前かなり早い段階から太平記などで英雄扱いまたは同情されてる人物ですし、江戸時代の水戸学では忠臣ですし、本格的に英雄になったのは水戸学の勤皇思想が沸き起こった幕末です。
明治の南北正閏論の時に、南朝正統派の藤沢元造氏の主張に「足利尊氏は逆賊ではないのか?」「勤皇の楠木、新田らは忠臣ではないのか?」というように当時南朝、北朝以前に尊氏逆賊、楠木忠臣の考えが普通だったのがわかります。
また、そもそも楠木正成像は南北正閏論以前に商人の住友氏が別子銅山の開業200年の記念に献納したもので、明治政府が能動的に建てた物ではありません。
このように一般常識として楠木正成が天皇家の忠臣という考えがあり、またこれから天皇中心の政治をやっていくには、最後まで天皇に忠義を尽くして死んでいった楠木正成を賞賛するのは色々と都合が良いのです。
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時間をかけつつ (sukune888)
2008-01-27 09:07:22
オクラさん>
コメント、ありがとうございます。すり替え論は「トンデモ話」というご意見。当然、あって当たり前のお話だと思います。また「一般常識」に関するコメントも、本ブログのタイトルにもあるとおりで、ありがたいことです。

真実が何であるかは、私も正直よく分かりません。ただし、いわゆる「トンデモ話」は、単なるデマとして切り捨てないことが大切だと思います。

まずこれだけインターネットで情報があふれている時代ですので、何を信頼できる根拠とするかによって、導き出される結論はかなり変わってくると思います。ただ、そのなかで大切なことは常に常識を疑い、自分の頭で考えるということでしょう。結論を急ぐ前に、以下のような事柄についても、深い考察が必要になると思います。

1.明治天皇をすり替える理由はあったと考えるか。
2.太平記は何を目的と書かれていたのか。
3.そもそも水戸学問が生まれた背景には何があったのか。
4.住友家はどのような政治的背景から興隆してきたのか。

例えば、単純に明治天皇をすり替える理由があったのかという点についてだけ考察してみても、以下のような事項について、十分に検証していかなければなりません(これらの検証には、芋づる式に考察しなければならないポイントが出てくるはずです。それらには、まったく別の年代に関する検証や、歴史学ではない他の学問による検証も必要になると思います)。

・薩長同盟はどのような理由で成立したか
・明治維新時における世界勢力図(及び日本の実力)
・孝明天皇の死因(及び他殺だとしたらその理由)
・水戸藩との関係
 (「水戸学」が発達したのには、それなりの理由があるでしょう)

これだけでも、真剣に検証するとなると、大変重い作業となるでしょう。何よりも、これだけオープンなシステムであるインターネットの世界で、いろいろな情報が溢れており、疑わしきものをすべて「トンデモ話」とするのではなく、ひとまず「そういう情報がある」ということを尊重して、その点から出発するとなると、非常に手間がかかりますが、その分いろいろな発見ができるようになると思います。

大切なことは、単に目に見える事象を追うのではなく、その裏側に複雑に交錯している事情をきちんと汲み取る必要があるということだと思います。

このポイントは社会科学を含めて、「科学」を論拠とする場合に、そもそも科学とは何かを問い続けなければならないという意味で、大変重要だと思います。以下、本ブログの抜粋です。

-世界のリーダーたるべき日本
   http://blog.goo.ne.jp/sukune888/e/ccd4e27bea83770f46f659bc9cfdac5e
=================
本来、科学の最先端の現場では、常に「仮説と検証」を行われており、その意味で科学は、未知の世界を解明する道具です。しかし、科学を知識として学ぶ一般の人々にとって、科学は既に証明されたものを知識として詰め込む対象となってしまいます。その結果、科学は目の前にあるものや目に見えるもの、既に証明されたものを正当化させるために非常に有効に機能するわけです
=================

(その他参考)
-情報はパズルのピース
   http://blog.goo.ne.jp/sukune888/e/49bb4512ea2cf50cfb3f81e9144a0f74
-「仮説と検証」と薦め
   http://blog.goo.ne.jp/sukune888/e/ba7a55d411b928becf6469e01ee9fd9b
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Unknown (オクラ)
2008-01-27 12:05:50
 根拠がないのではそれは仮説ではなく空想、妄想の類になってしまいますよ。
 何故私がすり替え論をトンデモだと言ってるかといえば、例えばすり替え論者は身体的特徴が別人のように変わっているといくつか例を出してますが、痘痕があったとか左利きだったとか何処からの出典なのか明示してない。個人的にも調べてみましたが見つけられませんでしたし、逆に痘痕などはなかったのではと思われる記述があります。体重がいきなり24貫になったという話もありますが24貫だったのは晩年の頃の話だったりと、かなり調査に疑問があります。
 他にも南朝正統=南朝再興や明治天皇が南朝を正統としたことで孝明天皇の正統性を否定したなど、まともに考えればありえない考察をしたり、明治天皇の命令で作られた系図に貞成親王の父親が不詳と書いてあると事実誤認をしていたり、証拠の一つとして挙げている三浦氏の著書に書いてある田中伯爵の告白も、それを証拠とあげるには三浦氏の真偽の考察が欠かせないのに抜け落ちている。そもそも田中伯爵の告白自体が不信なところがありすぎる。
 それとすりかえる理由ですが、あの時代明治天皇は幼少ということで摂政として二条斉敬が朝廷の指揮を執っていたので、倒幕派が明治天皇をすげ替える理由がない。というか大政奉還のクーデターによって明治天皇を握ったことによって親徳川の公家を追放し、倒幕へと世が動いたのにその大事な玉を殺すのはリスクが多すぎる。ただ幼少の明治天皇を擁して政治を動かせば良いだけなのである。すり替えの理由とやらが当時の状況を全く無視したものだといってるのですよ。
 まぁ走り書きですが、それでもこれだけおかしな所がある。
 楠木正成の事に関しては私は時代の流れとして、待ちあげられることはおかしくないといってるんです。おかしいというのなら如何してありえないのか証明しなくてはなりませんよ。
 インターネットは確かに情報が溢れかえってますが、このすり替え論に関して言えばネットの情報は全く信頼に置けませんよ。ネットに書いてあるすり替え論は大体が三浦氏の著作をそのまま引用してるだけで自分で史料などに当たってませんから。
 デマと切り捨てるとか以前にすり替え論は論として成り立ってない、というのが史料を調べて出した私の結論ですね。
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Unknown (オクラ)
2008-01-27 12:34:30
上の文後半の

>ネットに書いてあるすり替え論は大体が三浦氏の著作をそのまま引用してるだけ

の三浦氏は鹿島氏の間違えです。
申し訳ありません。
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時間をかけつつ-Part2 (sukune888)
2008-01-27 18:23:49
オクラさん>
重ねてコメントをいただきまして、ありがとうございます。

私の仮説は、何の根拠もなく設定しているわけではありません。しかし、分かりにくいかと言われたら、非常に分かりにくいだろうと思います。その根拠を理解するためには、私のブログを全部熟読し、理解される必要がありますし、それでもおそらく理解できないだろうと思うほどです。したがって、そもそも、私は私が書いていることの正しさを他者に強要したりするつもりは一切ありません。

一方で、オクラさんにしても、トンデモ話の類をされる方々にしても同じだと思います。それぞれ自分たちが信じる根拠があって、それぞれの主張をされていると思いますから、私はそれらを一切否定しようとは思いませんし、すべて尊重したいと考えています。既に結論を出されているというのであれば、それはそれで良いことでしょう。

せっかくコメントをいただいたので、私としては、もしオクラさんのご参考にでもなればと思って、コメントをお返しいたしました。違うと思われるのであれば、無視していただいて、一向に構いません。

時代は常に移り変わっていますので、今まで常識とされていることが、ある日突然、ひっくり返るようなこともあろうかと思います。何か違う発見があったりしたら、またいろいろとコメントをいただければと思います。
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Unknown (オクラ)
2008-01-27 21:00:07
 いえ、こちらこそ重ね重ね返答ありがとうございます。
 勘違いなさってるのかもしれませんが私が根拠のないと言ってるのはすり替え論(あるいはネットなどのすり替え論者)に対してですよ。他のsukune888さんの論に対しても根拠がないといってるわけではありません。しかしこのすり替え論に関して言えばsukune888さんもすり替え論者も根拠を明確に示していない。もちろんsukune888さんは疑問を持ってるというだけで、単純なすり替え論者ではないというのはわかってますので明確な根拠を示す必要もありませんが。
 色々な方々の話やネットの情報というパズルのピース。そのピースがどれだけおかしなものかというピースを私は提示したのです。
 「今まで常識とされていることがある日突然ひっくり返る」それはもちろんあると思いますが、しかし常識というのは根拠を積み重ねていって初めてひっくり返るのです。その根拠の段階で白を黒というレベルで話していてはいくら積み重ねていっても常識など覆せるわけがない。
 長々と長文申し訳ありませんでした。では失礼します。
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こちらこそ (sukune888)
2008-01-27 23:52:18
オクラさん>
こちらこそ、ありがとうございます。
ひとまず、こんな感じで誰に強要するでもなく、でも私なりに思ったこと(個人的な趣味も含めて)を書き連ねていこうと思います。またもし、気が向いたら、足跡を残していってください。
それでは!
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