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【映評】ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う! [監督: エドガー・ライト]

2014-05-05 18:45:38 | 映評 2013~

72点(100点満点)
2014年4月15日鑑賞

ネタバレ注意

学生映画撮ってたころ、酒飲みながら語っていた絶対実現しない映画企画の馬鹿話をキチンと実現させたような映画。
今でも撮影の合間に、「で、ここでいきなり宇宙人が襲ってきたら」とか、そんな場をほぐすためか単に自分が飽きてきたからか語る「もしもこんな映画だったら」話を、「お、それイイねえ」なんつってホントにそんな風に撮ってしまったみたいな…
褒め言葉として「バカなイギリス人が作った非常識な映画」である。

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監督のエドガー・ライトが大好きだ。この方の撮った「ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!」という作品はヤバイ映画だ。彼の最高傑作だ。じいさんばーさんたちと主人公の壮絶な銃撃戦は全ての人に観てほしい名シーンだ。
そして彼の前作「スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団」も凄まじい傑作である。インド人元カレのマサラダンス攻撃はここ10年くらいで一番笑ったシーンだ。ピコピコ音のテレビゲームで遊んだ世代の人達のための映画だ。
そんなエドガー・ライトが脚本でスピルバーグが監督した夢のような組み合わせの「タンタンの冒険」は…まさかの超つまらない映画だったのが残念だ。
そして本作の主演で脚本のサイモン・ペッグが大好きだ。天才だ。彼の相棒ニック・フロストも大好きだ。「ホットファズ」でも主演の二人は、大傑作「宇宙人ポール」の主演で脚本でもある。宇宙人の能力で蘇った小鳥を頭からバリバリとポールが食べるシーン、宇宙人を見て揺らぐ信仰心を抑えようとアメージンググレースを歌うヒロインとか、どこもかしこもブラックな笑いに溢れている。
このコメディセンス、アメリカにも日本にも、香港にも、ヨーロッパの大陸部にもない。
イギリス的だ。

いつまでたっても本論に入らないついでに書くと、私は自分でも何でか知らんが映画に関しては昔からイギリスびいきである。
かのフランソワ・トリュフォー氏はイギリス人は映画に向いてない、イギリス人で映画のセンスがあるのはチャップリンとヒッチコックだけだ、などと失礼なことを語っていたが、今やイギリスは世界でもっとも映画の進んでいる国じゃないかと思っている。
いい監督もいい俳優もいっぱいいるし、どの映画も正攻法で、にもかかわらず作家性もびんびん感じる。

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さて、やっと「ワールズ・エンド」のことを書く。

主人公の高校のころの武勇伝がエドガー・ライトの世界最高の編集センスで超絶リズミカルに語られるオープニング。いやでも期待高まる絶妙なウォームアップ。
主人公は故郷の田舎町で行われるパブ12軒ハシゴイベントに悪友たちと挑戦。飲み明かし友人の妹と勢いでトイレでアレして、メチャクチャ荒れ狂い結果10軒目でリタイア
そんな過去がテンポよく描かれる。

この時点でエドガー・ライト&サイモン・ペッグのモラルの高さ(笑)が楽しい。
高校生がパブで飲みまくる姿を滑稽に悪びれず描く時点で顔色うかがいながら作る日本のメジャー系映画にはない破壊力がある。
ちなみにエドガー・ライトがゲスト出演した「リトル・ランボーズ」という映画、悪ガキが映画館で盗み撮りしたスタローンの「ランボー」がキッカケで始まる心温まる物語。日本全国の映画館にかかるあのCMをあざ笑うような内容だ。

そして高校時代の愚かなる武勇伝を語り終えて、そして今やこのザマだ、とアル中のグループセラピーで語る主人公の姿に一気に切り返すカット割り。導入部は完璧。
主要人物全部登場して、目的の提示、目的達成の難しさ、現在の境遇、ストーリーに必要な情報がごく短い時間に全部詰め込まれ、観客を強制的に作品世界に連れ込む。ホットファズの導入部もすごかったが、やっぱりうまい。

しかし問題なのはこれからだ。
主人公はパブハシゴにリベンジすべく旧友たちに声をかけ、いつまでもコドモな主人公と、分別あるオトナな旧友たちが、ふざけたりぶつかったりしながら12軒ハシゴを目指すイギリス映画流のいい話が展開していく…かと思いきや…中盤から突如として殺人侵略ロボット軍団との壮絶な戦いに変わる信じられない展開。
地球侵略を目論むロボたちと、街からの脱出を目指す旧友たちと、12軒ハシゴ完遂に命をかける主人公がぶつかり合う「?」と「!」が100個くらい必要な人をバカにしたようなストーリー。
いったい俺の目の前で繰り広げられている物語はなんなんだと、あまりのことに呆然とする中盤。慣れてくるともう笑いまくるのだが、最終的に地球の運命をかけた戦いにまで発展させる悪ノリ加減たるや、エドガー・ライト&サイモン・ペッグの怖いもの無さが怖い。主人公と同様に、二人はビールガブガブ飲みながら脚本を書いていたに違いない。

そんな豪快酔っ払いっぷりが素晴らしい本作だが、残念な部分も多い。

殺人ロボ軍団の人間入れ替えの仕組みがどうもピンとこない。
奴らに捕まったらどうなるのかわからないから、スリルに欠ける。
そもそもがゾンビみたいに噛まれたり引っ掻かれるだけでアウトみたいなわかりやすい設定にすれば良かったのに。
そしてゾンビものか異星生物ものであれば当然のように描写されたはずの「血」が全く出ないことにも個人的には物足りなさを感じた。
ロボたちの動きは面白いが、首を跳ねたら吹き出してくるのが青いインクって…生理ナプキンのCMじゃないんだから!
血みどろ残虐がないと主人公の「それでも12軒ハシゴ完遂を目指す必死さ」がギャップとして機能しない。
アクションも殴り合うくらいで、もっと爆発とかオーバーなことやっても良かったのではと思う。
ピカピカ光る系ビジュアルエフェクトなんか今さら感動しないよ。

けどまあ、エドガー&サイモンの暴走英国人ぶりはたっぷり楽しめるし、予測不能にも程がある脅威のストーリーは当分の間は映画好き同士の酒の肴になること請け合いだ



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追記
ピアース・ブロスナンが威厳のある悪役で好演。
そういえば「ホットファズ」ではティモシー・ダルトンが悪役で出演していた。
とういことは次回作ではダニエル・クレイグでも出てくるんじゃないかと期待。いや、ダニエルさんはまだ若いからジョージ・レーゼンビーあたりお願い!

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自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「チクタクレス」

 小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
 日本芸術センター映像グランプリ ノミネート


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