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武士の一分 [監督 : 山田洋次]

2006-12-12 00:27:38 | 映評 2006~2008
妻の不貞を知り、今すぐ離縁する、と怒りを露にするキムタク。
三隅研次演出の市川雷蔵なら、壇れいはその場で斬られてそう・・・壇れいが手込めにされるシーンでもおっぱいの片っぽくらいは出させただろう・・・

 キムタク:盲人だからといって油断めさるな
 笹野高史:目が見えないからといって油断されぬようにと・・・
黒澤明演出だったらこんな感じか
 三船敏郎:メクラだからって手加減するこたねえ
 左ト全:メクラだからって油断されますなとおっしゃってただよ
山田洋次監督の性格か、テレビ局の制作だからか、放送に不適切な言葉は巧みに避けられている・・・

物語は要約すると「許せねえ、ぶった切る」というものである。過去二作品に比べてものすごく単純で、深みはないが代わりに熱い
台詞は時にものすごく説明口調となるが、説明的にくどくど喋るのは主に坂東三津五郎である。それはそれで恩着せがましかったり、ねちっこく嫌らしかったり、高飛車な感じが出たりで、「有り」と思わせてしまう。ずるいのか、うまいのか
説明台詞の多さがこれまでの山田洋次作品を包んでいた生活感を薄れさせている気がする。しかしそれでもなお俳優たちの見事な演技とそれを引き出す山田演出は凄い。
キムタクの熱さ、冷酷さ、それに盲人みたいな動きに、壇れいの可憐さもいいのだけど、主役2人より脇が光る。
笹野高史さんは、長いキャリアの中でもベストアクトといっていいのではないだろうか。時にユーモラスに、時には命がけで夫婦に尽くし、そして2人を幸せに導いていく。薄汚いじいさんの姿をしているが実は2人の守護天使であるかのよう。とても愛すべきキャラに作られている。
桃井かおりさんもさすが上手い。登場シーンでは全部持っていく。
前回、鬼の爪で成敗された筈の緒形拳まで復活して「長い散歩」の予告編観た後だけに宣伝みたいと思いつつも、貫禄ある演技に舌を巻く。

前二作、(「たそがれ」と「隠し剣」)は、階級社会の抱える矛盾、身分の違いを越える男女が新しい時代への扉を開きつつある様とか、あるいは時代の流れの中で消え行く武家社会への挽歌といったものが作品に溢れていた。特に「隠し剣」には
しかし、本作にはそういった社会性という観点からの現代へのメッセージは乏しい。
前二作で高い身分の上司に命令され、心ならずも真剣勝負に赴いた武士はいない。
妻を手込めにしやがった悪党をタタッ切らなきゃ気が済まん、という非常に個人的な理由である。
加えて、バカ殿と思われていた主君が実は、部下の仕事をちゃんと評価していて温情ある処遇をしてくれたことがわかる。階級制社会の肯定とまではいかないが、いい人になら権力を集中させてもいいと考えているともとれる。
武士であるキムタクは百姓である笹野高史を頭ごなしにどなりつけ、またそうすることに疑問を感じていない。
少なくとも主人公たちは社会の矛盾に気付いていないし、新しい時代の必要性も感じていないように思える。

けれど、それはわざとそのようにしているのかもしれないと思った。この映画のファーストシーンで妻は夫の毒味役という仕事が藩主の眼前で行われるものだと思っていたため、何も知らないのだな、と夫に笑われる。妻は世間知らずであることがわかる。
夫はそんな妻を笑える程度には世間を知っているが、それでも2人ともまだ若いのに、親もなく子もなく、中間が一人いるだけで、張り合いのないお毒味の仕事以外は妻との暮らしがすべて。結局2人とも世間知らずどころか、自分たちの家の外のことにもそんなに明るくない。社会とか時代とかそんなことを考える余裕もなく、考えねばならないことも起こらない。
物語も2人の家でのやり取りがメインとなり、ダイナミズムは微塵もないが、夫婦と徳兵だけの狭い世界の中に押し込められることで濃密になったドラマが展開していく。
妻の不貞を許せないのも、献身的に使える徳兵を罵倒するのも、それしか知らない生き方をしてきたゆえに仕方がない。失明し藩主の役に立たなくなったから死のうと、短絡的に考える。
けれど夫以外何も知らずに生きてきた妻の思いを受け止め、2人だけの世界に入っていく。そして夫婦でともに生きていくことの大切さを噛み締めるにいたる。
夫婦(男女)の有り様を描くという点では山田時代劇で最も見事に決まっていた。
社会とか時代とかそんなものより、ただひたすらに妻と夫の絆を描きたかったのだろう。

作品のウリである殺陣について書くと、隠し剣のように師匠と猛稽古するシーンが用意されているものの、稽古で身につけた技で敵を斬るような作劇の面白みはない。せいぜい敵は卑怯なことしてくるぞとか、敵は盲人が相手だから油断するのでその隙をつくとか、精神論とか心構えが語られるくらいなので、弱い。
それでいよいよ対決となるのだが、ここでは作劇とか殺陣とかでなく効果音で盛り上げる工夫が見られて面白かった。
そのシーンまでの効果音については、正直いって、安易すぎる雷の音とか雨の音の使い方とか、今ひとつだったが、クライマックスの闘いにおける音響は凄かった。盲目の剣士が頼りとする音の重要さと、音があだになりピンチを招くところとか真似できない。
敵は時代がかった喋り方で、ゆっくりと免許皆伝の腕前であることを伝えてくれる坂東三津五郎。対決の場には侍らしく一人だけで現れるが、いざとなると屋根に登るという微妙に卑怯な手を使うところが面白かった。

ちなみにセルジオ・レオーネ風(またはイーストウッド風)に演出すれば、三津五郎をしとめたキムタクを離れたところから鉄砲か弓矢で狙う手下がいて、そいつを笹野高史が仕留めて闘い終了・・・

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7 コメント

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なるほど (kossy)
2006-12-15 00:04:09
最後に笹野さんがもう一活躍ですかぁ~
そうなったら中間の一分。
でも彼だったら、返り討ちに遭いそうな・・・
返信する
いやいや (しん)
2006-12-15 00:42:02
>kossyさま
いやいや、実はああ見えてすげー強い剣の達人なんです。
三津五郎が負けたのも実は笹野さんが口上を述べに行ったときに鬼の爪でひゅっっとやっていたからで・・・
返信する
レオーネ版 (aq99)
2006-12-15 19:08:43
音楽も自然の効果音が満載で、まさにモリコーネ風だったラストの決闘。
日本版「最終絶叫計画」みたいな映画が作られたら、ぜひやってほしいですね~。
徳平のほくろから、毒液がドピュっとなら、山田風太郎風。
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-12-17 02:00:52
>aq99さま
モリコーネといえばアカデミー名誉賞受賞だそうでおめでとうございます。モリコーネならラブシーンとかもっとエロい曲かけそうだけど

ラスト三津五郎を斬った後、枯れ木の色が真っ赤に変わったらチャン・イーモウ風
返信する
社会性 (マダム・クニコ)
2006-12-19 11:45:40
>社会性という観点からの現代へのメッセージは乏しい。

鋭い指摘ですね。
同感です。
私は女性蔑視の思想が気になりました。

ところで、別件で推薦していただき、ありがとうございました。
返信する
コメントどうもです (しん)
2006-12-20 01:58:45
>マダムクニコさま
シネマぴあに私が推薦したブログ、あれもこれも1次審査通過して、結構見る目があったんだなあと一人ほくそ笑んでいました。
二次選考でよい結果が出ることを願っております。
返信する
小市民 (kimion20002000)
2007-08-17 23:42:07
TBありがとう。
僕もこの物語を「小市民劇」と思いました。
それはそれで、「小市民の一分」というコンセプトを出したかったのかな、と。
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