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【映評】ダラス・バイヤーズクラブ [監督:ジャン=マルク・ヴァレ]

2014-04-22 23:39:42 | 映評 2013~
65点(100点満点)
ネタバレ注意

アカデミー賞の作品賞と脚本賞にノミネートされたこの作品。さらに編集賞候補になっているあたりからもハリウッドでの評価の高さが伺える本作。
(アカデミー賞のここ30年くらいの歴史で監督賞候補にならず作品賞をとったことは2回あるが、編集賞候補になずに作品賞をとったケースは一度もない)
それよりも、マシュー・マコノヒーが主演男優賞、ジャレッド・レトーが助演男優賞を見事に受賞したことが重要な本作。
二人の一世一代の名演は観ておくべきだ。

とはいっても、ゲキ痩せの難病役という、いかにも賞をとるための役、ジャレッドにいたってはプラスしてゲイって要素もあって演技賞レースでは鉄板ネタみたいなもんだ。

アカデミー賞2回以上とってる人もその種の役を踏み台にしてきた。
なんとかハンクスはエイズでゲイ、ヒラリーなんとかは性同一性障害、ダニエルなんとかルイスも障害者役で最初のオスカーだ。Hハンターは失語症、アルPチーノは盲目で、あのダスティンさんだって二度目のオスカーは自閉症だ。

役者として評価されたかったら難病、障害者、同性愛者を演じよう。

そう考えたら佐村河内守さんは役者に転向するべきだという考えに達する。NHKスペシャルでみせたあの、耳の聞こえない天才作曲家役を見事に演じ切った演技力!このまま消すのはもったいない。ぜひ主演映画を!音楽はもちろん新垣さんで。

話が逸れもうした。
まあ、イカニモな役どころとはいえ、マシューとジャレッドの2人が、この低予算映画にたぶんそんなんでもないギャラで挑み、色々と感じるこの映画の弱点を補って映画にズッシリとした芯を与えているのは事実。アカデミー賞の名に恥じない活躍であった。
とくにジャレッド・レトー、いいね。目が離せない。クソマジメ感の強いこの映画にユーモアをたっぷり注いでくれた。

脚本はうまいと思うが、脚本の書き方参考書の通りに作ったような、つまり優等生っぽいホンで、型にしっかりはまりすぎてるような印象。

HIV陽性が発覚し余命1ヶ月を宣告された男。ゲイが嫌いで、酒に溺れ女抱きまくる自堕落な生活を送っていた男が、はじめは死ぬもんかと必死に、やがてエイズ治療における医療界の腐敗や体質のどうしようもなさを知り、全国のエイズ患者を救うための未認可療法を勧める非合法組織を作る…ってな話である。

ゲイが大嫌いだった主人公がゲイの男との信頼と友情を築く…とか、医療界の体質に疑問を感じながらも組織に従ってきた女医が主人公と触れ合ううちに考えが変わっていく…とか、面白い脚本の必須要素と言われるキャラクターの成長もしっかり物語に組み込まれている。

最初の15分で主人公に死の宣告。
その後適度な間隔で物語の進路をグッと変える「プロットポイント」として「ジャレッド・レトーと共同経営の取り引きする」とか「医療界の差し金でガサ入れ入ってクラブの危機とか」…が配置されていて、プロットという観点においては映画脚本のお手本のような巧さを感じる。

しかし、そのビッタリした巧さが逆に、大量生産品というか、ハリウッド必勝方程式のプロットの穴埋め問題に模範解答書き込んだだけみたいな、無難さを感じるのである。
俺たちは、いや、俺はとしておこう、映画にただ良くできただけの物語なんか求めちゃいない。ついでに言えばただ泣けるだけの物語も望んじゃいない。
練った構成はもちろん必要だけれどもそこに何らかの予測不可能性と映画作家としてその人だけが作り得るどん欲な個性が欲しいのだ。

添加された予測不可能性としてマシュー・マコノヒーとジャレッド・レトーの渾身の演技があったのはわかるが、それじゃ役者に丸投げしているだけだ。
良くできた構成で「こんな実話がありました」って言ってるだけのような印象。
面白い話だったけど、面白い映画だったかというとそこまで至ってない。
映画作家が身を削りながら作るような憔悴感、あるいはノッてしまった恍惚感、そういうのが「作家性」だと思うけど、その辺がな

とはいえ、「医者に言われたまま」「誰かに言われたまま」「よく言われるように」「本に書いてあるように」「Wikipediaによりますと」と言った具合に自分で調べず自分で考えないことの多くなった昨今に、「調べて考えて選んで行動せよ、さすれば本質が見えてくる」と語るかのような本作の物語は基本的に好きである。
そして特撮もアクションもなく予算も少なくてもホンと役者だけでこれくらいはできるんだということを思い出させてくれて、「ゼロ・グラビティ」よりはアマチュア作家の創作意欲をくすぐる映画であることは間違いない。

--追記--
ざくざくとした編集もよい。
薬を求めて世界を行脚するわすが1分くらいのシーン。豪快な編集で魅せる。
低予算映画とは言え、たったワンカットのために外国に行くくらいのことはしてんのね(なんかの映画のストック映像かもしれんが)
でも日本のシーン、この映画で描かれた80年代の日本じゃないよね。

--追々記--
アカデミー賞とったマシューとジャレッドのことばかり書いたけど、ジェニファー・ガーナーの女医もいいよね。マシューへの愛憎混じった微妙なオンナ心と医者の使命感。壁をハンマーでぶっ叩くちょこっとしたシーンのあの表情、ぞくっとする
ベン・アフレックの妻なんだ~へぇ~


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自主映画制作団体 ALIQOUI FILM
最新作「チクタクレス」

 小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
 日本芸術センター映像グランプリ ノミネート

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