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【映評】グランド・ブダペスト・ホテル [監督:ウェス・アンダーソン]

2014-11-17 07:53:37 | 映評 2013~
89点(100点満点)
2014年7月26日 新宿シネマカリテで鑑賞。

『リアリティのダンス』とほぼ同時期に観て、被写体よりもフレーム全体で語る映画の凄さ、面白さから映画の奥深さを実感させてくれたもう一本。

『リアリティのダンス』を「絵画的感性」と評したが、『グランド・ブダペスト・ホテル』は絵画的にかんしてはもっと上。
とにかく全カットが額縁に納めて鑑賞することを前提に絵作りされているようだ。
こだわりのシンメトリー。ななめの構図など全くない直角、垂直な視点移動。向かい合って会話するシーンで、一方の肩なめで話し相手の顔をやや斜めから撮る映画のオーソドックスなカット割りなどまるでない。人物と正対するカメラ。あるいは真横、あるいは真上と切り替わるカット割り。

構図にこだわるから基本フィックスの画なんだけど、たまにパンもする。けどそれは90度横に用意した別のフレームにカメラを向けるためであって静止画を見せたいことに変わりはない。
ここまでくると、「洗練された」とか「スタイリッシュ」とかいうより小津安二郎と同種の「変態性」を感じる。
小津と似ていると言えば、俳優の扱いについても似た匂いがする。
これほど独自の世界を持った映画作家だから出演を切望するスターが多いのはわかるし、実際本作でも有名スターがぞろぞろ並ぶ豪華さだ。
しかし決して俳優の秘めた力を引き出すような監督ではないように思う。
完璧に抑制された演技。セットや構図とともに画を構成するパーツとなって働く俳優たち。能面とか無表情とまでいかないが、俳優たちはみな記号としての表情を浮かべており、アクターズスタジオ仕込みのメソッド演技など役に立ちそうにもない。

監督が映画を創作しコントロールしていると感じる。
だからと言ってキャラクターの息づかいが聞こえない機械的な映画でもない。
基本コメディ映画である。しかしながら、演者たちはみな真面目で、観客が笑っていれば、何がそんなにおかしいの?とキョトンとしているような印象。そんな上品な笑いに包まれる映画館。
また観たくなる癖になるような映画世界という点でも小津と同じ肌触りの映画作家であった。

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すっとぼけた作品世界への誘い方もよい。
単なるドラマであればこの不思議なカット割りはどこまで受け入れられたか?といっても「ムーンライズ・キングダム」を観ればそんなの杞憂であることは明白なのだが、それは置いといて…
この映画はまず現代で少女がある作家の作品(回想録)を読むところから始まる。その回想録を再現する映像が始まり、さらにその回想録の登場人物の回想録が始まる。
入れ子の入れ子構造。語られるのは今は亡き国での今は亡き人々の物語。
絵本のようなカット割と何やら現実離れした映像であっても許されるような、少しづつ観客を現実から引き剥がしていく導入部が見事だ。

伝説のコンシェルジュことグスタフの確かに伝説っぽい逸話もありつつ、ちょっと間抜けで運がいいだけな逸話もあるところも、先の読めないストーリー展開を強めて、笑いも誘って素晴らしい。
頭のおかしい役がうまいレイフ・ファインズによく似合っている「頼りにならないヒーロー」だ。
大スターがぞろぞろ出るから、あいつがまさかあんな死に方するなんて…的笑いもとれている。(特にウィレム・デフォー最高。今年よく見る…「エレニの帰郷」「誰よりも狙われた男」)

全てがハマった傑作だと思う。ウェス・アンダーソン、まだ2作品しか観ていないのだけど、もっと沢山観たいと素直に思った。

自分が考えもしなかった表現の映画に出会うととても得した気分。また映画で会いましょう。

「グランド・ブダペスト・ホテル」
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:レイフ・ファインズ、トニー・レヴォロリ、シアーシャ・ローナン、エドワード・ノートン

---以下、鑑賞直後のTwitterフラッシュ映評---
「グランド・ブダペスト・ホテル」すんごい面白かった。これこれ「絵画的感性」ってやつ。全てのカットが額縁におさめられる、絵ヂカラの映画。動線に対して直角または平行な構図。そのxyz軸いずれかによるモンタージュ。脚本とカット割だけで作られる笑いに全面的に身を委ねる名優たち。最高最高

「グランド・ブダペスト・ホテル」実はついこないだテレビで観た「ムーンライズ・キングダム」がウェス・アンダーソン初体験。くっそ面白かったので急遽劇場に駆けつけ、さらに面白かった。価値観を揺るがすくらいの体験。こんなに作家性強い監督と出会えて幸せ

「グランド・ブダペスト・ホテル」のアレクサンドル・デスプラの音楽凄かったなあ。エンドクレジットの曲とかずっと聴いていたかった。いま一番キテる作曲家。「ラスト、コーション」「ツリーオブライフ」「英国王のスピーチ」「アルゴ」「ゼロダークサーティー」「ゴジラ」も

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上映
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