4月26日(金)
「うつ」について
の市民講座を開催しました
日 時 平成26年4月25日 16:00~17:00
テーマ 「うつ」について
講 師 坂元 伸吾 医師
会 場 佐野市民病院 A棟5階研修室
私たちは、生活の中の様々な出来事が原因で気持ちが落ち込んだり、憂鬱な気分になったりしますが、時間の経過とともに落ち込みや憂鬱な気持ちから回復していきます。
うつ病とは、原因が解決しても一日中気持ちが落ち込んだり、いつまでたっても気分が回復せず、強い憂鬱感が長く続くため、普段通りの生活を送ることが難しくなったり、また、思い当たる原因がないのにそのような状態になってしまうことをいいます。
また、はっきした原因があっても、食事がとれない、夜眠れないなどの症状が強ければうつ病として治療が必要です。
全国的にうつ病の患者数は増加しており、以前はストレスの多い都市部に多かった患者数が、現在は地方や都市部に関係なく増加しています。
日本における2013年の年間自殺者数は27,195人で、自殺原因の第1位はうつ病です。
うつ病になると、ほとんどの場合根拠なく自分を強く責めたり、些細なことで深く悩んだりするため、苦しみに耐えきれず死を選んでしまう人が少なくありません。
うつ病は、何らかの過度なストレス(人間関係や環境の変化)が引き金となると考えられていますが、内分泌疾患や膠原病、腫瘍、中枢神経疾患、その他(高血圧、手術後、産後など)の病気が関係していることもあります。
うつ病かな、と思ったら体に他の病気がないか検査が必要です。
本人の自覚症状
食べ物がおいしくない、おいしいものが食べたいと思わない
動くのがおっくう
疲れがなかなかとれない
おもしろいことがなくなる
不眠・考えがまとまらない
不安感や恐怖感がふくらむ など
周囲の気づき
仕事の能率が落ちる
体調不良を訴える
身だしなみがだらしなくなる
涙もろい
話をしなくなる など
周囲のひとの気づきがあっても、本人の自覚の欠如やその人のもともとの性格などもあり、うつ病かどうかの判断は難しいです。
最近では、近赤外線を用いて、脳内ヘモグロビンの酸素化状態の変化を測定し、その波形からうつ病・双極性障害(躁うつ病)・統合失調症の診断をする検査(NIRS)が可能になりました。
まだあまり普及していませんが、少数の医療機関ではこの検査を受けることができます。
うつ病の治療には抗うつ薬が使われます。
人間の脳の中には、神経伝達物質という物質があり、無数の神経細胞に情報を伝達するはたらきをしています。
うつの時は、神経伝達物質のうち、気分や思考、意欲などを担当するセロトニン、ノルアドレナリンなどの量が減っていることがわかっています。
抗うつ薬は、減ってしまったセロトニンやノルアドレナリンなどを放出させたり、再取り込みを阻害してうつを抑制する効果があります。
数種類ある抗うつ薬の中からその患者さんに合ったものを選び、服用していきます。(薬の反応に体が慣れるまでの期間、眠気やめまい、むかつき、下痢、便秘などの症状が現れる場合があります。)
薬を服用していくと6週~12週位かけて、イライラや不安感が少しおさまる →憂うつ感が軽くなる → 生活への興味が戻る → 簡単な家事や外出ができるようになる → 生活が少し楽しめるようになるなど、階段を1段ずつ上がるようにゆっくりと症状が回復していきます。
よくなってきたら、よくなった状態を維持するため、その後4ヶ月~9ヶ月位の間、服用を続け本当に状態が安定するようにします。安定した状態の中で少しずつ、生活や職場への復帰を考えていきます。
ここで無理をしてしまうと元の状態に戻ってしまうこともあるので、ゆっくり時間をかけて慣らしていきます。そのためには、家族や周囲のひとの理解と協力が必要です。
また、どの段階においても急に服用をやめてしまうと、症状が逆戻りしてしまうことがあります。
服用を終了する時は、それぞれの患者さんの状態に合わせて徐々に減量していく必要がありますので、必ず医師の指示に従いましょう。
ドイツの画家アルブレヒト・デューラーは、躁うつ病だったという説があります。
代表作のひとつ「メランコリア」を描いた時はうつの状態だったそうです。幾何学的な手法を用いて細部に至るまで緻密、かつ繊細に描かれたその作品は、極限まで自分を追い詰めて魂を凝縮させて取り組んだ画家の気迫が満ちています。
マイナスのイメージが多いうつですが、苦しみの中で心の奥深くまで掘り下げ、自分自身と対峙する機会になることもあります。
生活や健康に支障がない程度の「うつ」であれば、あえて逃げようとせず、向き合ってみることで初めて見えてくることもあると思います。
うつのひとと接する周囲のひとにとっては、自分よりも相手の立場で物事を考えて行動する利他愛や、苦しんでいるひとの痛みを少しでもわかろうとする優しい気持ちなど、あわただしい日常の中でともすれば忘れがちな尊い心を再認識できる機会かもしれません。