仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

「のだめカンタービレ」第17卷 二ノ宮知子

2007-02-16 22:36:53 | 讀書録(コミック)
のだめカンタービレ #17 (17)

講談社

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13日に發賣された17卷。
實はすつかり忘れてゐて、 こちらの記事 を拜見して思ひ出した次第。
さつそく翌日の14日に嫁はんに買つてきて貰つて讀んだ。

以下はネタバレあり。
ここから先は自らの責任に於て讀んで下さいまし。

・・・・・・

マルレ・オケの定期演奏會での大成功。
ニールセンの「不滅」では、オケのメンバーも聽衆もマルレ・オケの復活と不滅を感じたことだらう。

アパルトマンの管理人のアンナさんと千秋雅之の會話。
千秋雅之:「アンナか・・・? 大きくなつたなあ~横に」
アンナ:「殺されにきたの!?」
これだけだとなんのことかよくわからないのだが・・・

その後の4コママンガ(5コマだが)で、長田とアンナが昔の寫眞を眺めてゐる。
なんと若い頃は素晴らしい美人ではないか。
アンナ:「長田は今とあんまり變はらないわね~」
長田:「いやー さういふアンナこそ」「つむじの位置は同じだな」
アンナ:「見えてないでしょ!」

千秋雅之の後ろ姿のセリフ、
「はー・・・アンナ・・・神樣はヒドイな」
はい、人生いろいろありますね。

オクレール先生に、コンクールに出たいと訴へるのだめ。
背景ではマングースがなぜか胸を張つてゐる。
意味のないカットながら、私はこのマングースが好きだ。

定期演奏會の第2夜。
バッハのピアノ協奏曲第1番で千秋眞一の見せる「彈き振り」がよい。
練習の時に第2樂章の減7の和音を「不安定な響き」としてさらつてゐた眞一。
本番でも評論家らしき人物が、「減7の深い表情ある響き」と表現してゐたので、この部分はうまく表現できてゐたやうだ。

しかし、會場に父の雅之の姿を見出して、ベートーヴェンの交響曲第4番では、自分を見失つてしまふ。
コンマスとオケのメンバーがフォローしてくれなかつたら、散々な演奏になつてゐたところだ。
眞一がこれほどまで雅之に對してコンプレックスを持つてゐるとは・・。

コンマスのトマ・シモンがいかにマルレ・オケを愛してゐるか。
「私の夢はこのオケをあの頃にやうに、お客さんに愛される活氣溢れるオケにすることだ」
さう、このマルレへの熱き思ひが、彼をして、「團員に嚴しくしすぎたり」「氣に入らない指揮者を追ひ出したり」「オケを分裂させたり」させたのだ。
ううむ、よくわかる。(ホンマか?)

でも、「いつまでも氣にするな!」「次が大事なんだから!」と眞一を勵ますシモンさん。
さうさう、シモンさんの云ふとほりだ。
眞一クン、こんなところで躓いてはならないのだよ!

こころの空洞をいかにして埋めるか。
眞一の選んだ方法は、なんとユンロンとのデート!?
「氣持ち惡い」と云つたユンロンだが、おごりと聞いての變はり身の早さたるや凄い!
いいなあ、かういふヤツ。

のだめは雅之のコンサートへ。
バッハのパルティータ第2番、ブラームスのピアノ小曲集作品118、ベートーヴェンのピアノソナタ第32番。
素晴らしいプログラムだと思ふ。
特にブラームスのピアノ小曲集作品118からベートーヴェンのピアノソナタ第32番に繋げるあたりはいいセンスだ。
音樂的には因果關係が逆轉してゐるが、先に結果を見せてそこに至る過程を最後に持つてきて餘韻を持たせる、そんな構成を感じさせる。
ともに私の好きな曲なので、嬉しくなつてしまつた。
ブラームスの演奏のあとの聽衆のコメント。
「とつても情感豐かで」「昔はもつと切迫感があつたけど」「巨匠らしさが漂つてきたね」
ああ、かういふ人の演奏するベートーヴェンの最後のピアノソナタは、いつたいどういふ演奏だつたのだらう。
コメントが何もないのが殘念だ。

雅之の演奏を聞いたのだめ。
「負けまセン!」「むっきゃー、打倒、千秋雅之!」
これからの、のだめと千秋雅之とのからみに期待したい。

マルレ・オケとのリハのシーンで17卷は終はる。
オケのメンバーたちの
「早くしてねー、いつもみたいに」「また樂しいリハの始まりだ~」
千秋:「じゃあ、いつもみたいに、ネチネチと始めます」

オヤジを見返すために音樂をしてゐるわけではないのだ。
「コンマスの夢か」
眞一の居場所、いま與へられてゐるのはこのマルレ・オケ。
ここで如何に自分の出來ることをやりきれるか。
眞一の音樂はここから始まる。


<17卷でのお薦めCD>

まづは、眞一がしくじつた、ベートーヴェンの交響曲第4番。
この交響曲は3番「英雄」と5番「運命」とに挾まれて、さほど有名ではない曲だが、じつに魅力的な曲である。
この曲に上品な感覺を求めるのであれば、イチオシはクリュイタンス。

ベートーヴェン:交響曲第4番、第5番「運命」
クリュイタンス(アンドレ), ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, ベートーヴェン
東芝EMI

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この曲のイメージを一新した、颯爽たる演奏は、C・クライバー。
お好みで選擇すればよいと思ふが、敢て云へば、C・クライバーはぜひ聞いておきたい演奏だと思ふ。

ベートーヴェン:交響曲第4番
クライバー(カルロス), バイエルン国立管弦楽団, ベートーヴェン
キングインターナショナル

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ブラームスのピアノ小曲集Op118は私の好きな曲。
リヒテルやルプーの素敵な演奏があるのだが、檢索しても出てこなかつた。
殘念!

ベートーヴェンのピアノソナタ第32番は、ベートーヴェンの最後のピアノソナタ。
交響曲第4番で眞一が「減7」の和音について觸れてゐたが、このソナタの冒頭はまさにこの「減7」で始まる。
私が學生の頃、英語の單位を取るのに、何故かこの曲の英文の解説を暗記するほどに讀んだ。
英語では「Diminished 7th」と書かれてゐたのを思ひ出す。
冒頭のじつに不安な感情を掻き立てられる和音で始まる第1樂章。
現世の不安と葛藤を感じさせるのが第1樂章だとすれば、第2樂章はそれを克服して平安な彼岸への旅立ちとでも云はうか。
こころが淨化されるやうな素晴らしい音樂だ。
樂聖の最後のピアノソナタに相應しい名曲だと思ふ。

名曲だけに名演奏も多い。
ケンプやバックハウスは勿論のこと、アシュケナージやブレンデルの演奏もよい。
ここでの私のベストセレクションは、リヒテルの晩年の演奏。
リヒテルは若い頃の「アパッショナータ」などに代表される、推進力の凄じさを感じさせる演奏から、晩年は、曲そのものを慈しむやうな、彫りの深い、哲學的な趣さへ感じさせる演奏へと變はつて行つた。
この曲では、リヒテルの晩年の音樂觀がそのまま傳はつてくるやうな、熟成された見事な音樂を聽くことが出來る。

ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第30・31・32番
リヒテル(スビャトスラフ), ベートーヴェン
ユニバーサルクラシック

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他には、グルダが良い。
グルダは自らジャズを作曲し、演奏するやうな、音樂の垣を越えた存在だが、さういふ彼が好んで彈いてゐた曲のひとつがこの曲。
1967年の全集からの演奏を擧げたが、他にもジャズコンサートで彈いたライブ録音などもかつてはあつた。

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 作品111
グルダ(フリードリヒ), ベートーヴェン, シューマン
ユニバーサルクラシック

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變はつたところでは、グールド。
善し惡しを超越した演奏だ。
私の好みでは決してないのだが、この32番の超絶的なスピードには惹かれるものがある。

ベートーヴェン:Pソナタ第30
グールド(グレン), ベートーヴェン
ソニーミュージックエンタテインメント

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ピュアな、といふのか、味がしないといふのか、それでも凄い演奏といふのがポリーニの若い頃の演奏。
音の響きといひ、構成といひ、文句をつけるところがない。
でも、何か物足りないやうな氣がするのは何故なのだらう・・・
かういふところが音樂の不思議なところなのだらうか?

ベ-ト-ヴェン/ピアノ・ソナタ第30番,第31番,第32番
ポリーニ(マウリチオ), ベートーヴェン
ユニバーサルクラシック

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<既刊のレビューはこちらをどうぞ>

第1卷

第2卷

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19 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
グルダも好きです! (takeo)
2007-02-16 23:29:45
初めまして。TB早速返させていただきました。
ピアニストの中では、グールドはもちろんですが、グルダも好きです。ジャズにも心得のあるピアニストは、何か演奏にも即興性があって、初めて聴く時などはわくわくしたりします。
のだめはこちらの類のようですが、さて、千秋雅之の演奏はどうだったのでしょうか?
これからもちょくちょく寄らしていただきます。よろしくお願いします!
返信する
F・グルダ (仙丈)
2007-02-16 23:37:25
takeoさん

すばやいレスポンス、ありがたうございます!
グルダのしなやかな演奏は素晴らしいものがありますよね。
彼のベートヴェンは、重くなくて、それでゐて、十分にベートーヴェンしてゐて(?)、さすがだと思ひます。
昔、ライブ録音で、自作のジャズの後にこの曲を彈いてゐるレコードがありました。
ライブなので、ミスタッチも少しあるのですが、その溢れでるやうな音樂の豐かさに壓倒された記憶があります。

こちらこそ、よろしくお願ひしますね~

返信する
初めまして (h-ongendo1964)
2007-02-16 23:45:05
TB有難うございます!
クラシック音楽に大変造詣が深くていらっしゃるのですね!私も音楽が大好き、音楽なしでは生きられない人間ですが、演ってる楽器がTromboneであることも影響してか、クラシックのみならず、Jazzをはじめ、広いジャンルの音楽を浴びまくっているという感じです。
最近では、ピアノ演奏を聴くのが本格的に好きになりました。これが私にとっての”のだめ効果”ですね。
またお伺いしますので、どうぞ宜しくお願い致します。
返信する
成長 (仙丈)
2007-02-16 23:49:31
h-ongendo1964さん

コメントありがたうございます!
のだめの成長を我が事のやうに喜んでゐる仙丈46歳であります。
千秋雅之の登場で彼女のピアノがどのやうに變はるのか、そのやうに成長してゆくのかがますます樂しみになつて來ましたね~

こちらこそ、どうぞよろしくです!



返信する
Unknown (朱厚照)
2007-02-17 09:00:20
仙丈さん、おはようございます。
こちらへのリンクを貼っていただき、ありがとうございました。

私はピアノ曲方面が非常に疎くて、恥ずかしながらブラームスもたぶん聴いたことがないですね。

「のだめカンタービレ」のおかげで「聴いてみよう!」と改めて思った作曲家やジャンルは少なくありません。
未知のすばらしい音楽に触れるキッカケになってくれていると思います。
そういう意味でも、「のだめ」は大好きです。
もちろん、小難しいこと抜きに笑えるマンガとして純粋に楽しんでますが(笑)
返信する
私も (仙丈)
2007-02-17 10:11:30
朱厚照さん

私も「のだめ」のお蔭で20年振りにクラシックを聽くやうになりました。
登場曲で聽いたことのない曲も多いです。
今囘のニールセン、學生時代に一度FMでエアチェックした(死語?)記憶があるのですが、どういふ曲だつたかまるで覺えてゐません・・・
變人の極みにある雅之と變人を既に超越した感のあるのだめが、これからどのやうに絡んでゆくかが樂しみです。


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TBのお返しです。 (無花果)
2007-02-17 18:16:16
消し難きもの。マルレの歴史だとかバソンとか以外にも、千秋の幼少時代の記憶だったり、父との溝だったり、いろんなものを暗示してるのかなと思いました。
雅之がリサイタルで引いたブラームスのop.118は2曲目だけ習ったことがあります。中間部のfismollの主題が悲しみをたたえていて好きです。あ、ちなみにブラームスといえばクラリネットソナタop.120-1と120-2が個人的に大のお気に入りなのですが、この2つは作品番号が近いんですね。のだめでもうちょっと管楽器(フルートやクラリネット)について取り上げてくれたらいいのにと思っています。
返信する
URLを書き忘れてました。 (無花果)
2007-02-17 18:24:43
どうぞよろしく。
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悲しみよこんにちは? (仙丈)
2007-02-17 18:32:52
無花果さん

コメントありがたうございます。
「消し難きもの」といふと、なんだか「枕草子」みたいで良いですね~

>中間部のfis mollの主題が悲しみをたたえていて好きです

悲しみを湛へてゐるやうな旋律はブラームスの魅力ですよね。
私も好きです。
クラリネットソナタもさうですよね。

>のだめでもうちょっと管楽器(フルートやクラリネット)について取り上げてくれたらいいのにと思っています。

さういへば、少ないですねえ。
登場人物に付け加へて欲しいですね。
日本にゐる仲間たちがフランスに留學してくれると樂しいのですが・・・

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TB有難う御座いました♪ (Aki.)
2007-02-18 04:37:00
こんばんは~♪
今回は本編も勿論面白かったのですが、4コマが最高でした^^
まさかアンナがあんなに(ん?)美人だったなんて・・・
ほんと、神様はヒドイですw
あ、「ミーナの涙は玉虫色」は大爆笑でした^^

ではでは~、これからもよろしくお願いします♪
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