たまに行きたくなるが、行くと必ず後悔する場所が、私にとっての東京だ。
受かれ気分の人の波から逃げるように帰ってきて、稽古場の窓を開けて掃除して、薪ストーブに火を入れ、自分のマグカップにココアを淹れると、ようやく人心地がついた。連峰の頂に真っ白な雪。何度も深呼吸したくなる澄んだ空気。あぁ、やっぱり東京なんて行かないでずっとここにいればよかった。毎回東京に行くたびにそう思う。
ピザ屋の配達のバイクも、暴走族も、みんなサンタクロースの扮装をして走っていた。
街を彩るきれいなクリスマスツリーは都会ならではの目の保養だ。
しかし、わざとらしい高級感の演出には辟易する。
一流ホテルのラウンジの真似をしたような書店内のカフェは、サービスが本物のそれに追いついていないのでかえってしらけてしまい、あっという間に退散してきた。
シックな内装にして明かりを控えめにし、店員にバトラー風のコスチュームをあてがえば確かに高級っぽく見えるだろうが、バックヤードで済ませるべきやり取りが客に丸聞こえだったり、1200円のナポリタンに入っている玉ねぎが新鮮じゃなかったり、がっかり。
お金を出せば陳列されている物は何でも帰るし、どのメニューも運んできてもらえる。でも、それがいったい何なんだろう。所詮は他人の用意した物を消費するだけの行為は、もはや面白いと思わない。
自分たちで作った燻製小屋で、伐採してあった桜の枝からチップを作り、猪の肉をいぶしてベーコンにして、手でもってかぶりついて歯で引きちぎってむしゃむしゃ食べる方が、何百倍も面白いし、美味しい。これの方が絶対贅沢な暮らしだと思う。
でも、またしばらくすると「たまには行きたいな」と思うのが東京、なんだよなぁ。