三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

柳澤協二さんインタビュー「集団的自衛権の行使容認は不要」

2014-02-04 15:37:12 | 外交・安全保障
 社会民主党の機関紙「社会新報」2014.1.29号に、柳澤協二さん(元内閣官房副長官補)のインタビュー記事が掲載された。「聞き手・まとめ」は私(星徹)が担当した。「社会新報」編集部の許可を得て、以下に転載する。
  *無断転載禁止

【タイトル】
 集団的自衛権の行使容認は不要

【リード文】
 安倍首相は、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するつもりだ。(聞き手=ルポライター・星徹さん)

元内閣官房副長官補 柳澤協二さん
■やなぎさわ・きょうじ 1946年生まれ。防衛庁(当時)長官官房長などを経て、2004~09年に内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)。現在、NPO法人・国際地政学研究所理事長。

【本文】
━━安倍晋三首相は、憲法解釈の変更によって集団的自衛権(「メモ」参照)の行使を容認しようとしています。どう思いますか。

柳澤協二さん 安倍首相が何をしたいのか、何のために集団的自衛権の行使を容認化したいのか、が一向に見えてきません。

━━安倍首相はこれまで、①公海上で並走する米艦が第三国から攻撃を受けた場合の反撃 ②米国に向かう可能性のある弾道ミサイルの迎撃──ができないのはおかしい、などと主張してきました。「だから、集団的自衛権の行使を認めるべきだ」と。

 柳澤 ①については、日本有事の場合なら、これまでの政府解釈で、個別的自衛権の行使としてできることです。また、日米とも平時なら、自衛隊法95条に基づき、「正当防衛の武器使用」として「緊急の反撃」ができるはずです。

 ②についてですが、そもそも朝鮮半島近辺から米国本土に向かうミサイルは、日本上空を通過せず、北極圏を通過します。それに、速度の遅い迎撃ミサイルがより速い弾道ミサイルを追いかけて撃ち落とすことはできません。

ノーと言えなくなる
━━集団的自衛権における「密接な関係」国とは、米国だけですか。

 柳澤 首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の議論では、第三国も対象にする、と言っています。

 もしそうなれば、有事となった第三国が日本に助けを求め、日本が米軍を支援する、ということも考えられます。韓国やフィリピンなどを想定しているのでしょう。

━━憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を可能にしても、それは「行使できる」ということであって「行使するかどうか」は日本の政治判断だ、と主張する人もいます。

 柳澤 実際に「行使」が可能になれば、米国が日本に要請したとき、断ることが非常に難しくなります。これまでは「やりたいが、憲法の縛りがあってできない」と言えましたが、もし断るのであれば、「できるのにやらない」ということになるからです。

 ━━条件闘争的なことになりそうですね。

 柳澤 ええ。そうなれば、日米関係がギクシャクする可能性も出てきます。

憲法解釈変更で矛盾
 ━━憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を容認すれば、これまでの「自衛隊合憲」などに関する政府解釈の論理構成との間で、矛盾が出てくるのではないですか。

 柳澤 そうですね。これまでは「日本が武力攻撃された場合」ということで個別的自衛権のみを認め、「集団的自衛権は行使できない」としてきました。その解釈の下で、政府は国会答弁をし、さまざまな立法がなされてきたのです。

 それを、憲法を変えずに解釈だけで変更しようというのです。そんなことを、政府の意思だけで本当にできるのか、疑問です。

━━政府としては、「国際情勢の変化」を根拠にしたいのでは。

 柳澤 現在の憲法解釈で対応できないと言うのなら、憲法改正を提起して民意を問うべきです。

 しかし、現状での喫緊の課題は、尖閣諸島周辺での中国との軍事衝突の可能性です。これは典型的な日本有事の話であり、個別的自衛権の問題です。

 ━━米国政府は、日本が集団的自衛権の行使を容認することに対して、どう考えているのでしょうか。

米国も日本を警戒
 柳澤 基本的には「歓迎」でしょうが、日本が東アジアで不必要に緊張を高めることを警戒しています。

 米国では現在、「日米安全保障条約があるために、日本の戦争に巻き込まれる危険性がある」との懸念の声が高まっています。そういった状況下での日本の集団的自衛権問題なのです。

 ━━安倍首相らは、日本が米国を「軍事」的に支援しなければ、日本が有事になったときに助けてもらえないのでは、と不安に思っているのだと思います。

 柳澤 日米安保条約に基づき、日本は国内で米軍基地を提供し、「思いやり予算」として多大な財政負担もしています。このことは、米国の世界戦略に非常に役立っているはずです。

 そのうえ、安倍首相は集団的自衛権の行使容認までして、米国に貢献しようとしているのです。

 しかし、日本が米国に「貸し」をつくったからといって、イザというときに日本を助けてくれるかどうかは、別問題です。

 米国としては、そのことよりも、日本に対して「東アジアであまり緊張を高めないでほしい」と望んでいるのです。米政府はそういったシグナルを発し続けていますが、安倍首相はそれを無視するかのような言動を続けています。このことこそが、より大きな問題だと思います。


【「メモ」=集団的自衛権】
 自国と密接な関係にある国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃をされていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利のこと。

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