しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

城のなかの人 星新一著 角川文庫

2015-03-04 | 日本小説
SFのつづいた後は時代小説など読もうということで本書を手に取りました。
まぁ作者は星新一なのですが…。

殿さまの日」同様、時代小説短編集です。
新潮と角川で1冊ずつの出版というのも星氏らしい気遣いでしょうか?
こちらに収録されている作品の方が全体的に執筆年代は古いようです。

本書も小学生の時に文庫版で読んでおり、実家にはあるはずですが…。
今回はブックオフで入手したもの

を読みました。

内容紹介(裏表紙記載)
太閤秀吉の遺言に従って、豊臣秀頼は7歳を迎えた正月早々、大坂城に移された。世間と隔絶され、美と絢爛のうちに育った秀頼にとっては、大坂城の中だけが現実であり、安らぎに満ちた世界であった。ところが、徳川との対立が激化するにつれ、秀頼は城の外にある「悪徳」というものの存在に気づく。異常な人間関係の中での苦悩と滅びの人生を描いた表題作のほか、「正雪と弟子」「はんぱもの維新」など5編の時代小説を収録。

「殿さまの日」には若干辛目な感想書きましたが...。

本書の感想は...ビックリするほどの傑作ぞろいの作品集でした。
標題作の他全作品のレベルが高い。

昔読んだ時には「殿さまの日」の方がいかにも星新一のショート・ショートという感じでわかりやすいオチで好きだったような記憶もうっすらあり(「殿さまの日」の時は違うことをいってますが…まぁ記憶はいい加減です)本書がここまでスゴイものとは思っていませんでした。
読む歳が違うと見方も変わりますねぇ。

こっちに「殿さまの日」1作だけ引き抜いて入れていれば「時代小説史に残る大傑作作品集になっていたんじゃないかぁ」と思いました。
(本書、時代順に並んでいるので入れるとすれば「春風のあげく」の後くらいかなぁ。

なかでも感じ入ったのが「城のなかの人」
文体も他の星作品と違う固い感じです。

秀頼を父親の後を継いで星製薬の社長にされた自分と重ねわせているんじゃないかと思いますが、かなり重苦しく読み進めるのがつらかったです。
環境や秀頼の境遇からすると「しょうがない」といいたくなる状況ではありますが、一方で自分の身や豊臣家の崩壊は確実に自分のせいでしかない事態....。

そんな中での人間を見つめる視点の徹底的なクールさは「怖い」ながらも心に直接訴えかけてくるような切なさがありました。

その後の三作もかなりシニカルかつクールな視線で書かれていて楽しめはするのですが同時に怖くもある作品が続きます。

最後の「はんぱもの維新」は秀頼とは逆に有り余る才能がありながらも「旗印」になれなかった小栗上野介のお話。
一見ユーモラスにも書いてますが、主人公をかなり突き放して描いています...最後はあっさり首を斬られてしまいますしねぇ。

「もし小栗上野介が秀頼の立場だったら…」とも思いますが….。
「結局変わらなかっただろうねぇ」と思う人は運命論者(私はどちらかといえばこっち)「変わったかもしれない」と思う人はポジティブ思考なんでしょうか。
著者の視点は運命論に近いかと思いますが単純に割り切れていない感じがベースにあるような気がします。
その辺がまた魅力

全体的に「怖い作品」で、ショート・ショートではうまく隠されている星氏本来の怖さがかなり露出しています。
改めて星氏の天才性を感じました。

各編感想など
○城のなかの人
豊臣秀頼の生涯を秀頼の内面からの視点で描いた作品

感想は上に書きました。

○春風のあげく
ある藩で殿さまの側室に上がる前の女性と密通してしまった武士の物語。

一見ユーモラスですが裏にはしっかり「血」の問題、権力の持つ恐ろしさが透けて見えます。
必ずしも血族社会でなかった(養子縁組があたりまえ)江戸時代を裏手にとった意欲作と感じました。

○正雪と弟子
いんちき軍学で金儲けする小説とその弟子のお話。

「騙し騙され因果応報」などということが頭に浮かぶ、まぁ楽しい作品。

○すずしい夏
冷夏による飢饉に苦しむ藩の様子を描いた時代小説

ちょっとして失敗を描いたユーモラスに描いた作品にも見えますが、江戸時代の「藩」の徹底的に間な性質を描いています。
感情を入れていないところがまたコワイ。

○はんぱもの維新
幕府側の人間・小栗上野介を主人公にすえ、明治維新を描いた作品。

「小栗上野介は確かにこんなこといっていたのかもねぇ」などとも思わせる作品。
でも、どんなに頭がよくても時代は動かせなかったんですよねぇ….。
色々考えてしまう作品。
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